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論説委員2015年回顧 経済・社会保障・国際(中)

社会 神奈川新聞  2015年12月30日 11:02

パリ同時多発テロが起きた劇場で、犠牲者を悼む人たち=12月8日
パリ同時多発テロが起きた劇場で、犠牲者を悼む人たち=12月8日

 年末恒例の論説座談会。今回は経済、社会保障、国際問題をテーマに論じ合った。

ブラック企業監視を


◆県内経済・日本経済
 -低成長経済時代にあって、企業は積極的に世界戦略や企業間提携を展開ししのぎを削っている。
  日産・ルノーは対等な連携関係が続くことになった。フランス政府の介入を許せば、県内のものづくりが空洞化しかねない状況だった。

  地銀再編が顧客サービスの向上、地域経済活性化につながるのかどうか注視したい。金融界は垣根を越えた競争激化が必至。

  横浜市になぜカジノを含む統合型リゾート(IR)が必要なのか、もっと市民に分かりやすく伝えるべきだ。メリット、デメリットを市会でもっと活発に議論してほしい。

  リニア中央新幹線は多くの面で不透明な部分が残る。懸念されている建設中の事故や自然環境への影響がないか、しっかり監視していく必要がある。

 -環太平洋連携協定(TPP)に示される多国間の貿易自由化は今後一層活発化していくだろう。

  大筋合意したTPPは国内の批判が強い米国の出方が気になるが、日本がこれを契機に農業を見直すことは意義深い。

  日本企業がどれだけの競争力を持って臨めるかが肝心だ。
 -名だたる企業の不正、ブラック企業や非正規労働など雇用のあり方が問われる年でもあった。

  人口減少にあって貴重な労働力を目先の利潤のために使いつぶす行為は社会的にも大きな損失だ。被害相談窓口の充実を図るとともに悪質企業の監視や指導を強める必要がある。

  名だたる企業の不正や偽装、隠蔽(いんぺい)などが目に付いた。成長や利益、効率性ばかりを追求する社会的風潮と無縁とは思えない。

  市民の安全に関わる製品の不正は許されない。モラルの欠如は深刻、経営者と現場の距離感が大きくなっていることも背景にあると思う。

  くい打ち施工データ改ざん問題は、われわれの周りにある建物の足元は一体どうなっているのかと不安にさせた。建設業全体への不信感がぬぐえない。

  厚生労働省の調査では、マタニティーハラスメントを受けた経験者が正社員で2割、派遣社員は半数近くにも上った。労働者を正当に評価し処遇できない企業は存続や発展が望めないだろう。

  就活の日程変更問題は、新卒の一括採用そのものに変化が求められていることに気付くべき。企業と学生のミスマッチを埋める方策も必要だ。

日中関係改善が急務


◆国際情勢
 -米国の国力の相対的低下と中国の伸長を受け、世界は一極化から多極化に移行しつつある。

  年末になって慰安婦問題をめぐる日韓外相会談が合意した。共通の同盟国である米国の意向と、国交正常化50年を念頭に置いた政治判断だ。今後は相互に悪化した国民感情を、未来志向にコントロールしていけるかが課題だろう。

  南シナ海をめぐる中国と日米、周辺諸国などの駆け引きが激化している。米国は横須賀基地配備のイージス駆逐艦ラッセンを中国が領海と主張している人工島周辺に派遣し、緊張が高まった。あくまで話し合い外交で安全な航行の確保を求めるべきだ。

  日本は対米追従に完全にシフトしてしまっていいのか。将来を考えれば中国との関係改善は喫緊の課題だ。憲法9条を守りつつ、したたかな外交努力を重ねるしかない。

 -過激派組織「イスラム国」(IS)に代表される、格差や宗教紛争に端を発するテロが続発した。

  テロの実行犯にはパリ郊外、「バンリュー」と呼ばれる貧民街で育った者もいる。階級社会が根強く残るフランスで憎しみを募らせ、いつしか暴発するという負の「因子」は空爆では断ち切れない。

  オバマ大統領はパリ同時テロ後、「普遍的価値を共有する全人類への攻撃だ」と言った。そもそも「テロリスト」と一方的に決めつけること自体が正しいことなのだろうか。シリアへの空爆で民間人も犠牲になっている。

  イスラム国封じ込めで各国が一枚岩になり切れない状況が憂慮される。問われているのは国際社会の英知だ。

  日本人人質事件の際、「政府に迷惑をかけるな」という空気がどこかしら社会にあったように思う。国が国民を守るのは当然の仕事。殺害された後藤健二さんらをあたかも「異物」のように捉える考え、ほわっとした全体主義がこの国には残っている。

  「テロとの戦争」には終わりがない。米国をみれば分かる。日常の中にテロが入り込む。世界は戦時が恒常化している。

マイナンバー廃止に


◆社会保障
 -財政状況が厳しさを増す中、社会保障費の伸びは右肩上がりだ。

  介護保険制度は安定運営されねばならない。人材確保やサービスの質の維持を最優先事項として報酬や費用を設定すべきだ。

  介護保険は要介護度が改善して下がるほど事業者の収入減につながるジレンマが指摘されてきた。川崎市がモデル事業を実施中だが、介護度を改善した事業者へのインセンティブが必要だ。

  人口減少対策や労働力不足の解消が喫緊の課題との危機感がまだ薄い。保育所整備や若年層への経済支援など現実的対策を急ぐべきだ。

  問題は保育の質だ。保育士不足にもしっかり対応していく必要がある。待遇の改善を着実に進めていくことが、人材不足の解消につながるはずだ。

 -県内では医療特区形成が進む。また、新たな感染症や子宮頸(けい)がんワクチンの副反応が問題になった。

  川崎臨海部・殿町地区は2016年度中に施設整備が一気に進む。11月の国のリサーチコンプレックスは神戸市のみ採択されたが、殿町も1年後の再審査までに拠点価値を高める取り組みが期待される。

  県内の特区では再生医療などが実用化の段階に入る。有効性、安全性を注視していきたい。

  黒岩知事が旗を振る未病は超高齢社会に向け正しい方向性だが、中身は食と運動と社会参加。市町村がすでに健康増進事業として工夫して取り組んでおり、県はその取り組みの後押しに注力すべき。

  エボラ出血熱やデング熱、中東呼吸器症候群(MERS)などグローバル化が進み感染症の発生は、国内でもいつ起きるか分からない。即応医療体制を備えることや、国民も正しい知識を持つことが大切だ。

  子宮頸がんワクチンの副作用については救済制度の審査を迅速に行うとともに、治療法の開発を進めるなど、苦しむ患者や家族を一刻も早く救済しなければならない。

 -マイナンバーをめぐり個人情報保護のあり方や制度の周知不足などさまざまな課題が浮上した。

  通知作業自体、全国で大幅に遅れている。自治体の負担も大きい。一方で、マイナンバーに便乗した現金詐取事件も相次いでいる。今のところマイナス面しか見えない。

  国民を管理する側にとってのメリットだけが目に付く。

  改正マイナンバー法で社会保障、税、災害に加え、預金口座なども対象とした。もし情報流出すれば、被害は計り知れない。国は安易な制度設計を反省するとともに、この制度自体を廃止すべきだ。

  県は独自で県マイカルテを進めていく構えのようだが、国によるマイナンバーを活用した仕組みの検討の動きもあり、整合性を図る必要もある。以前のお薬手帳の実験のような尻すぼみに終わらぬことを願いたい。

 ▼論説主幹 林義亮▼論説委員(五十音順、前任含む)柏尾安希子 桐生勇 高本雅通 佐藤奇平 鈴木昌紹 下屋鋪聡 高橋融生 中嶌弘孝 畠山卓也 牧野昌智 宮崎功一 望月寛之 山口譲一 米本良子 渡辺渉


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