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カジキから金魚まで製作
トホホ釣り日誌【9】魚の剥製の工房訪ね

カルチャー 神奈川新聞  2015年12月22日 17:00

川音さんお気に入りのピラルクーの剥製
川音さんお気に入りのピラルクーの剥製

 大物の魚を釣り上げた興奮と記録を長く残す方法といえば、魚拓か写真を撮ることが一般的。今回、「トホホ釣り日誌」で紹介するのは、魚を生き生きとした姿で残すことができる魚の剥製(はくせい)です。全国でも珍しい魚の剥製を専門に手がけるRSクリエイト(横須賀市浦賀)の川音(かわおと)晴夫(65)さんの工房を訪ねました。


奥さんの意見で

 川音さんは獣医師の免許を持ち、製薬会社で薬剤の効き目を検証するため、動物の解剖などを手がけてきた。10年前、「好きな釣りを楽しみ、自由な時間がほしい」と退社。獣医師として動物の皮膚や内臓などを切ったり、縫ったりして培った手術の技術を生かせる仕事をと考えていたところ、「動物病院は大変そう。博物館などと取引もある動物の剥製は、いい小遣い稼ぎかもしれない」と、思い立った。

 そこで、奥さんに「自宅で動物の剥製をやってみたいんだけど」と相談したところ、「動物は気持ち悪い」との返事。ならば、趣味の釣りとも関係が深い、「魚ならどうかな」というと、「魚ならきれい」と首を立てに振ってくれたという。

 川音さんは通信講座で剥製作りの技術を1年間学び、身につけていった。


大物はカジキ

 都道府県に1人ぐらいしかいないといわれる魚専門の剥製師。サメの頭や幻の魚イトウなど、今まで多くの魚を剥製にしてきた。中でも大物は、約3メートルのカジキ。依頼主の会社社長が「大物を仕留めた記念に」と持ち込んだ魚だった。氷を敷き詰めた軽トラックの荷台に入り切らず、しっぽが出たまま、工房に運び込まれた。夏の盛りで、肉は腐り始めていたので、早速作業にとりかかった。「臭いが出ないように屋内での作業。汗だくになって悪戦苦闘したが、満足な出来だった」と、約3カ月で仕上げた。

 出来上がった剥製は荒海を泳ぎ回ったカジキの雄々しい姿を再現。「素晴らしい」と社長室に飾られることになった。だが、大きすぎてエレベーターでは運べず、運搬を担当した業者は、50階にある社長室に階段を上って運んだという苦労話も残っている。


薄い皮が難敵

 さて、魚の剥製の作り方を聞いた。基本的な流れは、魚を干して、皮を残しつつ肉、内臓などの身を取り除く。身の替わりになる特殊な発泡スチロールの「あんこ」に皮を貼り付け、生きているころの魚体にあった色を塗り、最後に保護剤を吹き付けて完成、とのこと。


特殊な発泡スチロールから「あんこ」を切り出す
特殊な発泡スチロールから「あんこ」を切り出す

 魚と動物の剥製の大きな違いは、動物の皮膚に比べ、はるかに薄い皮とうろこを身から慎重に剥ぎ取るところ。「皮を傷付けず、もろいうろこを上手に残せないと、生き生きした魚の姿を再現できない。魚の剥製作りの最大のポイントで腕の見せ所」と話してくれた。

 生きているような剥製作りの一歩目は天候に左右されない室内で魚を乾かすこと。重要なのは水分が抜けて魚が縮むので、剥製を作るとき、乾かす前の大きさで作れるように型紙であらかじめ寸法を測っておく点。採寸をしたら、魚体が傷付かないように乾かす。目安は30センチ以下なら2時間ぐらい。50センチを超える物なら1日ぐらいで乾く、とのことだ。


解体から仕上げ

 この工程が終わったら、解体作業に入る。胸びれ、背びれ、腹びれ、蛇腹状のあごの下の部分、目は最初に切っておく。ただし、あご、尾びれは「あんこ」に接着する時、ずれが生じやすいのでそのまま残しておく。

 中身を取り除く方法は見せ方の仕方によって二通りある。つるす物は腹からメスを入れ、壁に飾る物は裏側になる面にメスを入れる。切開するのは体の中央部を走る側線部分。頭から尾っぽに向かって走る一本の線だ=写真。切開したら、薬剤は使わず、ナイフやメス、ピンセットなどを使って中身を取り出していく。


壁掛け用の場合、魚体の真ん中、側線から切開していく
壁掛け用の場合、魚体の真ん中、側線から切開していく

 皮は最後の脂抜きのため、段ボールに挟んで干す。脂抜きが終わったら、乾かす前に作った型紙に沿って発泡スチロールを切り出し、「あんこ」を作製。これに皮を貼り付け、縮みを伸ばして、ひれなどを接着剤で付けていく。

 魚の形が完成したら、仕上げの着色をする。絵の具はアクリル製で、白、黒、金、銀、緑、青、赤、黄の8種類を交ぜ、生きているときの魚の色を再現する。そのために図鑑や依頼主の写真を参考に色を調節するという。

 色付けはエアブラシで吹き付ける。大きなうろこの淡水熱帯魚のアロワナは、エアブラシでさらにうろこに色を加え、鮮やかさを追求する。最後にガラスで作った目を接着、保護と艶出しのため、透明なウレタンを吹き付けて完成する。しあがりまでの全行程は、イシダイ60センチクラスは約一カ月。カジキはじめ1メートルを優に超える大物は、約3カ月程度かかる、という。

淡水魚 より、海水の魚のほうがうろこや皮を残すのがは難しいとのこと。川音さんは「一番うれしいほめ言葉は、作品を見た人に、『今にも泳ぎ出しそうですね』と言われることです」と笑った。


川音さんの一言
川音さんの一言

 うちをネットで見つけ、注文してくださる依頼主が多いですね。注文後、魚は冷蔵宅配便で送られてきます。もちろん、カジキのような大物は依頼主が電話で注文し、直接持ち込むこともあります。

 作品は宅配便で送ったり、直接、依頼主が持ち帰るなど、といろいろです。

 年間50から60件の注文があり、博物館や大物を仕留めたとき、記念として剥製にするケースが多かったのです。最近は、飼っていた熱帯魚や金魚を剥製にしてほしいとの注文も入るようになりました。家族の一員だから、ということが背景にあるようです。

 エビは殻が固いので、製作できます。依頼主はほとんど、中身は食べませんが、エビだけは、食べる方がいますね。

 皮がむけず、水分の多いイカやタコはできません。

 料金は1センチ千円。10センチ1万円。1メートル10万円。

 RSクリエイトのRSは、名字の川音(かわおと)を英語のR(リバー)S(サウンド)としました。

 問い合わせはRSクリエイト携帯090(1762)4893。電話046(843)6059。

▼ホームページ
魚類剥製 RSクリエイト



イシダイの脂抜きをしているところ。段ボールは脂をよく吸うという
イシダイの脂抜きをしているところ。段ボールは脂をよく吸うという

剥製作りで、魚の肉や内臓を取り除き、薄い皮を剥ぐ道具。右からピンセット、ナイフ、メスなどの手術器具
剥製作りで、魚の肉や内臓を取り除き、薄い皮を剥ぐ道具。右からピンセット、ナイフ、メスなどの手術器具

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