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噴火警戒 箱根山の今後(1)火山ガス 「想定外」対応追われ

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神奈川新聞  2005年11月27日公開  

蒸気の勢いが強く、火山ガスの濃度も高い大涌谷=8日(東海大学理学部大場武研究室提供)
蒸気の勢いが強く、火山ガスの濃度も高い大涌谷=8日(東海大学理学部大場武研究室提供)

 「火山ガスはコントロールできない自然現象。人間の行動を加味した安全対策が必要だ」

 18日に開かれた箱根火山防災協議会の火山ガス安全対策専門部会で、委員の一人の帝京大学大学院の矢野栄二教授(災害公衆衛生学など)は訴えた。引き合いに出したのは、1997年に熊本県の阿蘇山山頂で観光客2人が火山ガスを吸い込み死亡した事故。原因は致死濃度とされる400ppmをはるかに下回る8ppmの二酸化硫黄(SO2)だった。

 亡くなった50代と60代の男性はぜんそくなどの呼吸器疾患があった。「山頂はロープウエーで簡単に行ける観光の目玉」(矢野教授)。それは年間約300万人が訪れる観光スポットながら、高濃度のSO2が原因で立ち入り規制が続く箱根山(箱根町)の大涌谷と重なる。

 大涌谷周辺の7カ所で計測しているSO2濃度は11月以降、最大で20ppm。ただ日によって数値は異なり、2ppm前後のときが多いという。協議会メンバーの一人は「阿蘇山の対策を参考にするしかない」と受け止める。「火山活動が収まってもこれほどの高濃度のガスが発生し、規制を継続しなければならない事態になるのは想定外だった」

 それまでは噴火や噴石の危険性の方がクローズアップされ、専門家がたびたび指摘していたものの、火山ガスの問題はその陰に隠れていた。

 箱根町がホームページで「今後レベルが1に下がった場合でも、ガス濃度が下がるなど、園地内の安全性が確認されるまでは、大涌谷への立ち入り規制を解除することはできない」と告知したのは10月下旬。箱根山の火山活動が沈静化し、多くが噴火警戒レベル1(活火山であることに留意)への引き下げを視野に入れ始めた時期だ。

 まだ警戒レベル3(入山規制)だった8月に県や町、気象庁などでつくる火山防災協議会が策定した避難計画には、火山ガスの項目についてはわずか3行。「ガスの成分によっては人体に悪影響を及ぼし過去に死亡事故も発生している」などと記しただけだった。来年に予定している避難誘導マニュアルの改訂では、火山ガスへの対応を大幅に書き加える方向で協議を進めている。

 濃度はどこまで下がれば安全なのか。警戒レベルが1に引き下げられる前日の11月19日、専門部会の初会合に臨んだ委員の一人は「SO2の濃度が5ppmを超えると生命に重大な影響を及ぼす」と説明した。しかし翌日開かれた火山防災協議会の会合後、別の委員からは「個人差があるものの、10ppmを超えると鼻や喉に刺激があったりせきが起きたりする」という見解も示された。

 火山ガス濃度の安全性に関して統一的な基準はなく、専門家の間でも見解は分かれる。そうした中、同協議会が参考にしているのが三宅島の噴火に伴い東京都三宅村が制定した数値を盛り込んだ条例だ。0・2ppm以上でぜんそくなど呼吸器疾患のある人は健康に影響を与える恐れがあるとしている。

 これを根拠に当初は立ち入り規制の解除には0・1ppmまで下がることを一つの目安としたが、決定には至っていない。大涌谷周辺では依然として高い濃度が計測されており、安全対策を十分施した上で、0・1ppmよりも高い濃度で規制解除ができないかを探り始めてもいる。

 阿蘇山では数値を設けていないが、97年の事故を教訓に呼吸器疾患などがある人の登山禁止を告知している。だが矢野教授は指摘する。「疾患があっても、せっかく来たから山頂に登るという人がいる。警告すれば事故を防げるわけではない」

 箱根山の噴火警戒レベルが最低の1に引き下げられてから20日で1カ月。火山活動はなお終息せず、火口のある大涌谷の観光再開も見通せない。活火山との共生とは何なのか。得られた教訓を見つめ、今後の道筋を探る。


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