1. ホーム
  2. 経済
  3. 漂流就活(上) 日程変更に長期の苦悩

漂流就活(上) 日程変更に長期の苦悩

経済 神奈川新聞  2015年12月06日 10:31

就活の日程の変遷
就活の日程の変遷

 「焦り」と「不安」。県内の私立大学に通う建築学科4年の男子学生(21)が振り返った今年の就職活動(就活)は、この2言に尽きる。

■経験談は参考ならず
 ただでさえ就活には人生の道筋を選択するという大きなプレッシャーが付きまとう。それなのに今年は、就活開始にあたる会社説明会解禁が3カ月繰り下げられ3月に、面接などの採用選考解禁が4カ月繰り下げられ8月に変わってしまった。内定解禁は10月1日と変わらず「例年より短期間で決めなければいけない」という焦りを感じた。

 どのようなスケジュールで動けばいいのか知りたくても先輩たちの経験談は参考にならない。「いつまでに内定を取れば平均的なのかさえ分からなかった」

 男子学生には別のプレッシャーもあった。工学系学生には4年次に卒業研究が待つ。男子学生は人間が過ごしやすい、快適と感じる室内温熱をテーマに選んだ。実験も含めほぼ1年を要し、夏と冬、その中間期に温熱を測らねばならない。「就活が長引けば卒業研究に支障が生じてしまう」

 短期決戦なら研究を支障なく進められる。男子学生は受験企業を絞った。「自分の家を建てたい」という夢から建築関係を希望。企業説明会や大学での合同説明会に顔を出し、県内の建設会社が実施したインターンシップにも参加。5月には最初の内々定を受けた。

 一見スムーズに見える就活。だが企業数を絞り込んだ分だけ苦悩した。「一生がかかっている。本当にここでいいのかと相当悩みました」。結局、内定後も活動を続け、10月下旬に都内の設計事務所からも内定を勝ち取った。4月からは都内で働く。


■単位を初めて落とし
 11月20日、経団連は来年の選考解禁を2カ月前倒し6月とすることを決めた。「ころころ変えてほしくない」と男子学生。「日程変更を意識し過ぎることなく、自分のやりたいことや行きたい業界を早め早めに勉強したり準備したりすることが大切」。後輩らにはこうアドバイスするつもりだ。

 「一番いいのは去年までのスケジュール」と実感を込めるのは、県内出身で関西の大学に通いながら、県内企業を中心に就活を行った4年生の男子学生(21)だ。就活開始が3年の12月、選考解禁が翌4月だった昨年までの日程が学生にとって無理がなかったと感じている。

 というのも自身、夜行バスなどで関西と神奈川を行き来しながら企業を回った4月から8月にかけては、ほとんど「大学生という実感はなかった」。

 6月には中間リポートを提出しなければならなかったが、気づけば提出期限が過ぎていた。「7月下旬には前期試験があったが、就活の真っ最中でとても受けることができなかった」。4年になって、初めて単位を落としてしまった。

 学生の本分が学業であることなど、忘れ去られているかのような日程の変動。「4月に就活が終われば授業にも出られるし、大学生としていろいろなことができる」というのが、今後の学生のためにも強調しておきたいことだ。


■早期囲い込みで混乱
 「学生はだまされている。企業側はルールを守って」。来年の選考解禁前倒しを経団連が発表した11月20日、関東学院大学(横浜市金沢区)の就職支援センターの担当者は語気を強めた。

 「ワンデーインターンシップ」「模擬面接」「面談」-。ことしの採用活動では「面接」とは称さない催しを開き、実は学生を早期から囲い込む動きが目立った。「実態とかけ離れていた」と担当者。そうした状況は結局、再び日程の変更という混乱を招いた。

 水面下で広がった動きの影響は現3年生にも及んだ。本来は「就業体験」を目的としたインターンシップ。今春3年生向けに実施した説明会には、例年の倍以上の学生が関心を示したが、実際にインターンシップが実現した人数は3分の1にも満たなかった。

 学内選考で漏れた学生はその後、モチベーションを維持できないケースが少なくない。保護者も不安げだ。「立ちすくむわが子を前にどうすればいいか」。大学が10月に実施した就活生の保護者向け懇談会でもこうした声が相次いだ。


■就問懇に懐疑の視線
 フェリス女学院大学(横浜市泉区)の担当者は今年の就活を総括して、こう分析する。「対応力のある学生は状況が変化しても乗り切った。対応力の有無が差を生んだ」。現3年生には、来年の具体的なスケジュールが固まるまで「早く始めるに越したことはない。今から準備を」と繰り返し呼び掛けた。

 担当者は思いやる。「採用活動長期化で最も疲弊したのは企業の採用担当者では」。来年はさらに、就活開始から選考までの期間が縮まることになり「企業と学生のミスマッチが進まないか」と不安だという。

 そもそもかつてない日程の大幅な変動をつくり出した一因は、大学幹部などでつくる「就職問題懇談会(就問懇)」にある。そのあり方を問う声が大学の就職担当者から上がる。「本来、学生への影響を最小限にとどめる立場ではないのか」

 経団連の榊原定征会長は、「大学や政府の関係者と調整を続け、ほぼ理解を得られた」と語ったが、大学の現場担当者らは「現実的でない」と憤る。

 担当者レベルの意見交換の場はあっても、突っ込んだ議論には至らないのが実情。「大学や企業のトップの意向だけが反映される現在の仕組みに加え、じかに学生と接する立場の意見を吸い上げ、現実的な方向性を示せる場を設けられないものか」とフェリス女学院大学の担当者は指摘する。「就活は学びの場と社会を接続する大切な時期。産学官が共通意識を持ち、広い視点で取り組むべきだ」



 「学生が学業に専念する期間を延ばす」という安倍晋三首相の号令をきっかけに、日程が大きく揺れ動いた就職活動。学生や大学、企業は混乱の渦に巻き込まれた。さらに来年も日程は変わり、不安の声が高まる。就活の現場を歩いた。


◆「オワハラ」 相談6割強 就職情報会社調査
 「就活終われハラスメント(オワハラ)相談を受けた」は6割強、「スケジュール繰り下げによる学生の負担増」は4割強-。

 就職情報会社のディスコ(東京都)が全国の大学就職課などを対象に行った調査で、採用時期の繰り下げに翻弄(ほんろう)された学生や大学の実態が浮き彫りになった。調査は10月に実施。267校(国公立56校、私立211校)から回答があった。

 内定を出す条件として就活を終わらせるよう強要するオワハラに関する学生からの相談を受けた大学は64.8%。うち国公立では73.2%に上った。

 オワハラの具体的な相談内容として、過半数が「内定承諾書(誓約書)の提出を求められた」と回答。「内定と引き換えに他社の選考を辞退するよう求められた」「自由応募なのに推薦状の提出を求められた」といった相談も多く寄せられたという。

 スケジュール繰り下げによる自校の学生の就職活動への影響として「やや不利になった」が27.0%、「とても不利になった」が14.6%で4割強が不利になったとの見方。文系理系問わず学業との両立が困難だったとみられ、企業の「青田買い」を指摘する声も7割近くに達した。

 説明会解禁の望ましい時期は昨年までの「3年の12月」が45.9%。選考解禁の望ましい時期は「4年の4月」(40.7%)がトップで「3年の3月」(19.9%)と続くなど、16年卒業予定者の選考スタート時期(4年の8月)より早い時期に戻すのが望ましいとする回答が全体の9割近くを占めた。


シェアする