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「半年間長かった」 箱根山の噴火警報解除 

社会 神奈川新聞  2015年11月21日 03:00

 箱根山(箱根町)の大涌谷で噴火が起きる可能性が低くなったとして、気象庁は20日、5月から継続していた噴火警報を約半年ぶりに解除し、5段階の噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から最低の1(活火山であることに留意)へ引き下げた。火山性地震の回数が4月の活発化以前と同程度に減少したと判断したが、大涌谷の火口周辺では依然として活発な噴気が続き、火山ガスの濃度も高い。こうした状況を踏まえ、箱根町や県などの箱根火山防災協議会は同日、立ち入り規制を解除しない方針を了承した。

 同庁が捉えた火山性地震の月別回数は5月に最多の1911回を数えたが、その後は減少。10月は10回、11月は19日現在で5回にとどまっている。このため10月中旬におおむね収まったと判断し、この1カ月は推移を見極めていたという。


掲示ボードに貼り出された噴火警戒レベル1への引き下げを伝えるポスター=箱根登山鉄道箱根湯本駅
掲示ボードに貼り出された噴火警戒レベル1への引き下げを伝えるポスター=箱根登山鉄道箱根湯本駅


 より微小な地震も独自に捉える県温泉地学研究所の観測でも地震は少なくなっている。4月下旬からの地震総数は1万回を超えているが、体に感じる揺れは10月25日を最後に発生していない。

 一方で、大涌谷斜面の火口や噴気孔、温泉供給施設の蒸気井からの噴気は依然として勢いが強く、気象庁は「規模の小さな噴出現象が突発的に発生する可能性はある」として、引き続き警戒するよう呼び掛けてもいる。同庁火山課の小久保一哉火山活動評価解析官は「噴火の兆候は全く見られないが、火山ガスには注意が必要」と説明した。

 警戒レベルの引き下げを受けて小田原市内で開かれた箱根火山防災協議会コアグループ会議では、警戒レベル2となった9月以降と同様に大涌谷火口域の半径500メートル前後の範囲で立ち入り規制を続けるとともに、火山ガスの観測を継続する方針を了承。人体に有害な二酸化硫黄(SO2)の濃度がどの程度低下すれば、規制を解除できるかはさらに検討を重ねる考えだ。

 箱根山では、4月26日に火山性地震が活発化。大涌谷での蒸気の激しい噴出を受けて5月6日に噴火警戒レベルが初めて2に引き上げられ、ごく小規模な噴火が確認された6月30日に警戒レベル3(入山規制)となった。7月1日にかけて断続的に小噴火があったが、その後は徐々に活動が落ち着き、9月11日から警戒レベル2が続いていた。

「半年間長かった」 安堵広がる地元


 「長かった」「やっと第一歩」-。箱根山(箱根町)の火山活動が活発化し、5月に噴火警戒レベルが2(火口周辺規制)に引き上げられてから約半年。20日に警戒レベルが1(活火山であることに留意)に引き下げられたことを受け、地元には安堵(あんど)の表情が広がった。ただ大涌谷周辺は高濃度の火山ガスが観測されており、立ち入り規制は変わらぬまま。観光客からも解除を待ち望む声が聞かれた。


噴火警戒レベル1へ引き下げられ、3連休を迎える箱根登山鉄道箱根湯本駅前の商店街 =箱根町湯本
噴火警戒レベル1へ引き下げられ、3連休を迎える箱根登山鉄道箱根湯本駅前の商店街 =箱根町湯本


 「噴火警戒レベルの引き下げについてお知らせします」。午後2時すぎ、国内有数の観光地・箱根の玄関口でもある箱根湯本駅周辺では防災無線のアナウンスが響き渡った。

 土産物店の女性店主は「これを待ちわびていた。半年間は長かった」と笑顔。近くの旅館の男性総支配人は「紅葉シーズンに間に合って良かった。安心して足を運んでいただきたい」と喜んだ。

 ほっとした表情を見せたのは訪れていた観光客も同じ。東京都豊島区の会社員沢田恵美加さん(27)は「大丈夫かなと思って来たけれど、警戒レベルが下がって安心した。これからは気軽に訪れやすくなる」と語るが、「大涌谷に行けないのは残念。黒たまごが食べられるのを楽しみにしている」と規制の解除に期待を寄せた。

 団体客の減少に悩んでいた観光施設は多い。箱根関所の山内圭所長は「警戒レベル2自体が、遠足などの団体客が敬遠する原因の一つだった。引き下げは戻ってきてもらうきっかけになるのでは」と願いを込める。

 警戒レベル引き下げに素早い反応が次々とあり、“うれしい悲鳴”となった所も。箱根湯本観光協会の事務所では、引き下げのニュースを受けて同2時半ごろから問い合わせの電話が急増、ホームページの表示切り替えなどの対応にも追われた。松野寿雄事務局長は「うれしいの一言。ただ、これは第一歩。これから誘客にしっかり取り組まないと」と気を引き締めた。

 一方、立ち入り規制が続く大涌谷では依然として高い濃度の火山ガスが観測されている。会見した勝俣浩行副町長は「大涌谷は対策をした上で一刻も早く規制を解除できれば」と強調した。町などはレベル引き下げを受けて、さまざまな支援に対する感謝を示すキャンペーンを展開するという。

 箱根ロープウェイは、立ち入り規制の継続を受けて現在の一部区間での運行を続ける方針を示した。

観測や情報発信に課題 専門家が教訓指摘


 火山観測と情報発信のあり方、そして活火山との共生-。半年余りにおよび、観測史上初の噴火もあった箱根山の火山活動。完全に終息したわけではないが、麓に位置する県温泉地学研究所(小田原市入生田)にかつて在籍した専門家は「活発な火山活動はいずれまた起きる。そのときに今回の教訓をどう生かすかが問われる」と指摘する。

 温地研前所長の吉田明夫静岡大学客員教授は「噴火警戒レベルの運用が必ずしも適切ではなかった」と疑問を投げ掛ける。

 「大きな被害が出なかったのはよかったが、6月末に起きたのは警戒レベル3(入山規制)に引き上げるような噴火ではなかったし、その後の引き下げも遅れた」と指摘。「観測データだけでなく、全体の状況や過去のケースも踏まえて見極めるべきだ」と強調した。

 今回の活動に似ていたとして比較対象になった2001年の火山活動を温地研の研究員として調べた防災科学技術研究所地震・火山防災研究ユニットの棚田俊收副ユニット長は「活動がどのように推移するかを想定したシナリオが関係者の間で共有されておらず、活動状況に関する情報発信が不十分だった」と振り返る。

 「今回は箱根山という活火山に向き合った初めてのケースだった。火山の学習や防災面も含め、大涌谷をこれからどう活用していくかを真剣に考えるべきだ」と訴える。

「引き続き安全対策」 箱根町


 箱根山の噴火警戒レベル1への引き下げを受けて箱根町の山口昇士町長は「今回の経験を糧として火山を正しく恐れ、付き合うため、引き続き万全の安全対策を講じていく」などとするコメントを出した。火山ガス濃度が高い大涌谷の観光施設や交通機関については「段階的な営業再開を目指していくことになる」とした。

 黒岩祐治知事もコメントを発表し、「これまで以上に観光面の支援を行っていく」との考えを表明した。

〈箱根山の火山活動や規制の経過〉

 4月26日 火山性地震が活発化
 5月 6日 噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)に引き上げ。
       大涌谷周辺に立ち入り規制
       箱根ロープウェイ全線運休
 6月30日 噴火警戒レベルを3(入山規制)に引き上げ。
       大涌谷でごく小規模な噴火を確認
       規制区域を拡大
 8月24日 火山活動の沈静化傾向受け、規制を一部解除
   26日 箱根火山防災協議会が新たな避難計画を公表
 9月11日 噴火警戒レベルを2に引き下げ
       山体膨張が停止と判断
   14日 噴火警戒レベル2を受け、規制区域を縮小
10月21日 火山噴火予知連絡会が引き続き警戒呼び掛け
   30日 箱根ロープウェイが一部区間で再開
11月19日 気象庁長官「ほぼ噴火前の状況」との認識を表明
11月20日 噴火警戒レベルを1
      (活火山であることに留意)に引き下げ。
       箱根火山防災協議会が規制継続の方針了承


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