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壁をこわす(7)面白ければそれでいい 寝たきり芸人あそどっぐさん

社会 神奈川新聞  2017年01月10日 09:43

あそどっぐさん
あそどっぐさん

 「障害乗り越えて、とか、勇気を与えたいとか、そういう思いは全くない。面白ければそれでいい」。あそどっぐさん(38)=熊本県=は、車いすや布団の上でパフォーマンスを続けている身体障害者だ。肩書は「寝たきり芸人」。純粋に、笑ってほしいと思う。「障害があることは諸刃(もろは)の剣だけれど、うまく使えば武器になる」

芸風


 「寝たきりあるあるー」

 昨年12月初旬、かながわ県民センター(横浜市神奈川区)にあそどっぐさんの陽気な声が響いた。

 座面が倒れた車いすの上で、マイクを二つ使ってパフォーマンスする。座位は保てない。右側しか向けない。肺活量が500ccと成人男性の6分の1ほどしかなく、大声は出せない。背もたれが倒れた車いすで舞台に鎮座するその姿と芸風に、会場は一瞬静まり返る。

 「生後半年のおいが寝返りを打ったとき、『おじを超えたな』って思う」

 笑いをこらえられなくなったスーツ姿の中年男性が「フフッ」と声を漏らす。

 「あそどっぐのサインはヘルパーの代筆」

 張り詰めた空気はほぐれ、あっという間に聴衆の笑い声に包まれた。

 

再起


 生まれて間もなく、脊髄性筋萎縮症と診断された。「3歳まで生きられない」と言われたが、奇跡的にすくすく成長した。

 当時の九州では、車いすの子どもが町に出ているとそれだけで目立った。ところが、両親は毎週のようにデパートに連れ出した。「人からじろじろ見られるのは仕方ない。見られることに慣れてもらおう」との心遣いだった。

 車いすを押してもらって近所の子どもとカブトムシ採集に行き、サッカーに励み、プールのウオータースライダーも滑った。「障害者だからできない」との諦めはなかった。その精神は、高校時代に始めたお笑いへとつながっていく。

 高校1年のある時、同じクラスの友人と一緒に、教室で漫才を披露した。「ものすごくうけた」快感のとりこになり、のめりこんだ。卒業後もしばらく、友人とネタを書いては発表する日々を送った。

 23歳の時、一度お笑いをやめた。進行性の障害があった相方が亡くなった。打ちひしがれ、テレビでお笑い番組を見るのもつらくなった。30歳を過ぎるまで、株取引などで生計を立て淡々と暮らした。

 転機は5年ほど前。担当の介助者が、誰でもインターネット上で生放送を行えるサービス「ニコニコ生放送」を教えてくれた。これなら自宅で、寝たきりでもお笑いができる。「一度諦めた夢だけど、もう一度やってみようと思った」

 初回の「客」はたったの7人だったが、じわじわ人気を集め、放送スタートから数カ月でテレビ局の人の目に留まり、全国ネットの番組に出演するようになった。

土俵



 心に残っているやりとりがある。福岡のライブハウスでお笑いイベントへの初出演が決まった時。主催者から、強い口調でこう言われた。

 「お客さんが笑ってくれなかったら、次回からお断りします」

 悲しかったわけでも、悔しかったわけでもない。言葉にできないほど、うれしかった。

 障害者として特別視することなく、一人のプロ芸人として見てもらえた。お笑いという厳しい世界で、同じ土俵に立つ者として対等に接してもらえた。

 もともと、何カ月も主催者の元に通い詰めて交渉を重ね、半ば押し切る形で出演にこぎ着けたお笑いイベントだった。出演が決まると、主催者は、バリアフリー環境が整っていない会場でのライブをどうするか、一緒に悩んでくれもした。

 「入り口の階段は、他の芸人みんなで抱える。大声を出せないから、専用のマイクを用意する。車いすでも舞台袖に待機できるよう舞台袖の荷物をどかす。これで大丈夫なはず」

 プロの芸人として認める一方、どうしてもできないことには手を貸してくれた。この日、会場は笑いの渦に包まれた。

 このイベントへの出演は今も続けている。

 

笑い


この日は「寝たきりあるある」を披露して会場を沸かせた。持ちネタは「もし寝たきり障害者が銀行強盗だったら」「私立寝たきり学園」など多数=横浜市神奈川区
この日は「寝たきりあるある」を披露して会場を沸かせた。持ちネタは「もし寝たきり障害者が銀行強盗だったら」「私立寝たきり学園」など多数=横浜市神奈川区

 記者(28)は「障害者が頑張っているから」という理由だけで誰かを取材するのが苦手だ。頑張っている人や何かを極めている人が格好いいのは、どんな境遇であろうと同じだと思う。障害があろうとなかろうと。

 ある休日、自宅でインターネットの動画サイトでお笑い動画を見ていたら、一風変わった芸人にたどり着いた。あそどっぐさんが布団の上で胴着を着て、瓦割りに挑む動画。まじめな表情で「ハァーッ!」と声を上げる一方、腕は微動だにしない。回り続けるカメラ。突っ込みどころの多さに私は笑い転げた。同時に、したたかに自身の障害を利用する姿勢に圧倒された。

 テレビで活躍している人たちの中には、頭髪の薄さや身体のふくよかさを売りにしている芸人も多い。それとあそどっぐさんは、一体どう違うのだろう。もしかしたら、何も違いがないのかもしれない。そう思わせるすごみがあった。

 「寝たきり芸人」の名は大勢の人たちに知れ渡り、最近は福祉系のイベントにゲストとして招かれることも多いという。講演を求められる機会も増えた。呼んでもらえることはありがたいと思う。しかし、あそどっぐさんは言う。

 「障害者として、みたいなのは少し苦手。障害があるからやっているわけではないし、『障害者として』という志は全くない」

 芸人生活はずっと続けていくつもりだ。観客がどっと沸く感覚を全身で受け止めたい。同情も感動もいらない。ただ、笑ってもらいたいと思う。


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