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IT捜査に国境の壁 海外サーバー対応苦慮 専門家「ルール確立を」

社会 神奈川新聞  2015年10月04日 03:00

 ネットワークを通じてサービスを利用する「クラウドコンピューティング」の普及で、犯罪捜査が国家主権の壁に直面している。サーバーの所在地が国外の場合、日本の捜査権が及ばないとされているためだ。関係国に協力を求める仕組みはあるものの、迅速な捜査を目指す現場は対応に苦慮している。

 「(米国の管理会社に)問い合わせたが、サーバーの所在地は分からなかった」

 8月、横浜地裁の法廷。身分証明書を偽造したとして、有印公文書偽造などの罪に問われた男(43)の公判で、証人出廷した県警の捜査員はこう証言した。

 争点となったのは、偽造身分証の販売に使われたメールの捜査。メールは米IT大手が管理するクラウドサーバーに保管されていたが、捜査員は「サーバーが日本にある可能性はゼロではない」と判断。男の逮捕後、サーバー内の強制捜査に踏み切った。

 これに対し弁護側は、サーバーは日本の捜査権が及ばない海外にあった可能性が高いとして、違法な捜査だったと主張。公判は現在も続いているが、検察幹部は「所在地は留意が必要だった」と漏らす。

 クラウドのように離れた場所にあるサーバーへの捜査手法は、2011年の改正刑事訴訟法で条文化された。ただ、サーバーが海外にある場合、当時の江田五月法相は「当該他国の主権を侵害する恐れがあり、捜査共助などでの要請が望ましい」との見解を示している。国家主権の一部である捜査権の行使は原則、自国内に限られているためだ。

 一方、迅速な捜査を目指す現場からは「捜査共助は現実的な手法でない」との声が上がる。

 捜査関係者によると、関係国からの回答に時間がかかることがある上、回答が得られるかどうかも確実ではないという。問題が表面化した事件でも、県警は米国の管理会社に捜査協力を求めたが、回答までに2年を要した。捜査幹部は「回答を待っていては、とてもまっとうな捜査はできない」と打ち明ける。

 クラウドは高速度のインターネット通信の普及などを背景に、2000年代後半から普及。ネットワークを通じてサービスを利用するため、サーバーが国外にあることも一般的という。

 代表的なメールサービスの一つ「Gメール」を管理するグーグルは、ホームページ(HP)でサーバーを設置する自社データセンターの所在地を公開している。世界8の国・地域にわたるが、日本国内にはない。

 情報通信総合研究所の小向太郎・主席研究員(法学)は海外サーバーへの強制捜査は現行法上問題があるという見解が主流としつつ、「サイバー空間でどのような捜査が国家主権の侵害になるか、現在のところ明確な国際的合意があるわけではない」と指摘。その上で、「国外のサーバーに対する迅速な捜査が必要であれば、国際社会の理解を得つつルールを確立すべきだ」と話している。


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