1. ホーム
  2. 時代の正体
  3. 時代の正体〈199〉米国の要請を拡大解釈 賛否対談(中)

時代の正体〈199〉米国の要請を拡大解釈 賛否対談(中)

時代の正体 神奈川新聞  2015年09月28日 10:19

(左から)倉持麟太郎さんと三浦瑠麗さん
(左から)倉持麟太郎さんと三浦瑠麗さん

 安全保障環境の変化が指摘される中で成立した安全保障関連法。日弁連憲法問題対策本部幹事の倉持麟太郎弁護士(32)、国際政治学者の三浦瑠麗さん(34)に日米関係へのインパクトを論じてもらった。

 倉持 法案審議で日本の防衛に大きな影響を与える答弁があった。個別的自衛権の範囲を自ら狭めることになったからだ。

 A国艦船が日本を攻撃し、B国艦船が公海上でA国の爆撃機に弾薬や燃料を補給しているとする。従来の解釈では個別的自衛権でA国艦船、B国艦船の双方に反撃できると政府は答弁してきた。

 だが、中谷元・防衛相はB国艦船は攻撃できないと答弁した。それはB国がやろうとしていることが、日本のやろうとしていることだからだ。日本がこれをやるには、爆撃機への弾薬、燃料の補給が武力行使と一体化していないことが前提。しかし、補給が武力と一体のものでないのなら個別的自衛権を発動することができない。

 つまり米国の後方支援をしたいがために、防衛のためにできることの範囲を自ら狭めてしまった。

 三浦 法の理屈としては、そういう発想はあるのかもしれないが、現実的な懸念だとは思わない。安保法制の成立で実際に起こる変化は、国連平和維持活動(PKO)で駆け付け警護ができるようになるということくらい。自衛隊員の一番の危険はそのケースに宿っているのだが。

 リスクの高い中東への派遣が現時点で検討されているとは思わない。つまり、安全保障法制の内実は訓練、装備、配備。東アジアでの抑止力を高めることが最大の目的である。偶発的な衝突のリスクはあるが、本格的な有事の可能性は低い。日本有事において攻撃国は米国と対峙することになるからだ。

 倉持 私は期待する抑止力は働かないと思っている。集団的自衛権の行使要件は「わが国の存立危機」を基準としている。集団的自衛権が持つ抑止力の前提は完全な「他衛防衛」であり、抑止力論の前提を欠いている。違憲の可能性もある。あれもできる、これもできると成立させたが、違憲、無効となれば、結果的に米国に対しうそをつくことになる。日米同盟の信頼を傷つけることにもなる。

 三浦 そういった心配はあまりない。米国の安全保障のプロフェッショナルからすれば、日本にそこまで期待していない。これまでもそうだし、今後も変わらない。日本は平和国家で民主運動も強いと認識している。日本独自の理屈があり、不思議な国だということも。

 ただ、安保法制はもう少しすんなり通ると思っていたようだ。法案審議が難航し、左派の力が強いことや、反米感情が強いことに驚いたようだ。
 

影響力増す官邸


 倉持 日本が米国からの要請を勇み足的に拡大解釈して読み違え、安保法制を無理やり通したように感じる。

 三浦 その可能性はある。そもそも米国には多様な意見が存在するが、米国の要請というものを読み切れていないのではないか。

 ここ十数年の傾向として、外務省に対する官邸の影響力が増しているということも重要だ。内政分野と共通の現象であろう。外交における政治主導が強まったことで直接米国ワシントンの影響も強まったように感じる。例えば「南シナ海も自衛隊で対応してほしい」と米国が言うとき、果たして米国大統領の要請なのか米国シンクタンクの声なのか、正確に捉え切れていないかも知れない。

 倉持 外務省にとっては自分たちがやりたいこともある。米国の要求なのだ、と妄想を広げすぎているということはないか。

 三浦 米国としては、東アジアに貼り付けた軍事力を減らしていく際、中国に間違ったメッセージにならないよう日本にやってほしいことがある。オーストラリアやフィリピンといった同盟国とともに相応の負担を肩代わりしていくことだ。

 米軍が撤退していくというとき、日本は撤退候補地だ。核技術、宇宙空間の利用、中国に対抗する軍備を整備するため米国が国防予算を見直すとき、基地を削ることになる。日本は在日米軍基地に思いやり予算を出しているが、それとは別に基地の維持費がある。軍事的に前方展開には一定の危険性も存在する。海外に基地を置くことが嫌になってきている。

懸念と脅威一体


 三浦 中国に対し、今回の法制が単独で意味を持つとは思えない。

 条約は制度なので、制度を強化しているという姿勢が示されるという意味がある。それを積み重ねていくことで中国包囲網が多少は形成される。隙間だらけだが中国に対し「米国は東アジアにいる」というメッセージになる。そうした体制について日米で合意しておくというのが今回の法制だ。

 倉持 自衛隊の活動領域が内容的にも地理的にも広がりフリーハンドだということが指摘された場合、中国は警戒するのではないか。中国を刺激することは、米国に対してもポジティブなメッセージにならないように思える。

 三浦 刺激はそもそも存在する。自衛隊が海賊対策の訓練をしている時点で中国は反発している。中国は日本がどんなビジョンを持って動こうとしているのかを注視している。たとえば国会答弁で日本政府が「南シナ海へ行く」とひと言でも言ったら駄目だ。正当性はともかく中国はあの海を領土と思っている。首を突っ込まれるのを嫌がる国なので、ここはあいまいにしておくべきだろう。

 尖閣諸島をめぐっては軍事衝突を防がねばならない。それは結局、政策の問題だ。法律の条文はいかようにでも解釈できる。運用面で外交上、国際政治上、中国を刺激しすぎないことが重要になる。それは法律では担保できない。きちんとした考え方を持っていなければならない。

 倉持 外務省の内部に「反安保」の立場の人はいるのか。

 三浦 ほぼいないだろう。外務省はいま一枚岩になってきている。日本が国際社会から後れを取っているという懸念を持っている人たちと日米同盟の強化、中国の脅威が相互につながっている。

 倉持 安保法制をめぐる賛否の間には、越えがたい大河が流れていて、議論が交わるところがないと感じる。安保反対と言うと、戦争反対の主張と同一化してしまう。法律家もいままで自衛隊を違憲と言いながら現状に甘んじていたことに一番の欺瞞(ぎまん)があるのだろう。解決策を示さず放置してきた、という主張はその通りだ。

 安保法制に賛成する学者に対して左派が「こいつは危ない」と取り上げる。そうした言い合いに未来はない。若い私たちの世代から、現実を直視したこの国の安全保障を語り、視座する必要がある。

倉持 麟太郎さん くらもち・りんたろう 東京都出身。2005年慶応大卒、08年中央大法科大学院卒、12年弁護士登録、横浜弁護士会、14年第二東京弁護士会。7月6日の衆院平和安全法制特別委員会で参考人として意見陳述。安保法案を「切れ目のない違憲法案」と指摘した。

三浦 瑠麗さん みうら・るり 国際政治学者。茅ケ崎市出身。県立湘南高、東大を卒業し東大大学院法学政治学研究科総合法政専攻博士課程修了。東大政策ビジョン研究センター客員研究員。青山学院大兼任講師。著書に「日本に絶望している人のための政治入門」(文春新書)。


シェアする