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【記者の視点】報道部・田崎基
時代の正体〈191〉暗がりにともる希望

時代の正体 神奈川新聞  2015年09月19日 10:52

国会前で安保法案の抗議を続ける奥田愛基さん=18日午後9時55分ごろ
国会前で安保法案の抗議を続ける奥田愛基さん=18日午後9時55分ごろ

 警官隊と道路を隔てた先、暗闇に浮かび上がる国会議事堂では安全保障関連法案の成立が目前に迫っているはずだ。

 「戦争させない」「アベ政治を許さない」「9条守れ」の文字がプラカードに揺れる。手にしているのは中高年だけではない。スーツ姿のサラリーマン、ベビーカーを押す母親と、これまでにないうねりの広がりを物語っていた。

 18日の夜も、その中心に明治学院大4年、奥田愛基さん(23)がいた。

 「言いたいのは二つ。こんな憲法違反な法案は廃案しかないってこと。二つ目は民主主義は終わらないってこと。主権在民って言葉を信じられるなら、もう一度何かができる。全然諦めてねーぞ」

 周辺の歩道を埋めた群衆に向け、声を響かせた。

等身大


 自由と民主主義のための学生緊急行動-その英訳の頭文字を取って「SEALDs」(シールズ)。私はこの若者のグループを追い続けてきた。

 初めて取材したのは、彼らが特定秘密保護法に反対する学生有志の会「SASPL」(サスプル)と名乗っていた2014年12月。言論統制的側面から「現代の治安維持法」ともいわれる同法に抗議するため、首相官邸前に集まっていた。

 奥田さんがマイクを握っていた。

 「終戦を迎えたその日、僕のおじいちゃん80歳くらいなんですけど『日本は終わった』って思ったそうです。けど、そこからまた始まっているんですよね。戦後から70年の歩みは絶望的なその状況から始まってきたんですよ」

 「すべての終わりにはまた始まりがあります。私は、この国の自由や民主主義を諦めることができません」

 若いという理由以上に、等身大でストレートな表現が胸に響いた。

 「言いたいこと、思ったことを表現することをやめません。それが私が私である理由だからです」

 私にはこう聞こえた。

 「おまえ、一歩引いた安全なところでカメラを構えていて、ずるいな。いい加減に腹をくくれよ」


「今日この日からまた新しい闘いが始まる」と声を張り上げる奥田さん=2015年7月16日、国会前
「今日この日からまた新しい闘いが始まる」と声を張り上げる奥田さん=2015年7月16日、国会前

本気度



 特定秘密保護法が施行されSASPLは解散したが、学生たちは安保法案に反対するため、SEALDsに衣替えして再び集まった。6月から国会前で抗議デモを毎週金曜日に続けた。

 「言うこと聞かせる番だ、俺たちが」

 「勝手に決めるな」

 端的に核心を突く要求と批判は、権力監視の役目を担い、国民の知る権利を負託されていると自任する報道機関の一員である私に問い掛ける。

 その負託に応えられているだろうか-。

 紙面で「この国はいま岐路に立つ」などと書きつづっておきながら思う。岐路にあるのは報道であり新聞社であり、私ではないのか。


終戦の日、その前日も声をからした=2015年8月14日、国会前
終戦の日、その前日も声をからした=2015年8月14日、国会前



 ツイッターでのやりとりにどきりとした。

 SEALDsに触発されデモを始めた女子高校生がつぶやく。

 〈もう新聞もテレビの取材も恐怖だわ。駄目っていってるのに高校名とかフルネームも出してるところあるらしいし〉
 奥田さんは返信した。

 〈そういう記者本当にクソだよね。消費して終わり。本人の気持ちとかどうでもいいんだよ〉
 そう。マスコミは取材し、記事にして終わり。それを消費と言われればそれまでだ。

 いや。記事にしたら終わりだと、誰がどのように決めるのか。多くは消費の主体、世間の空気を読んでそう判断している。つまり何となく。権力に対峙(たいじ)する以前、もうそろそろいいだろうという空気にどれだけ抗(あらが)い、流されずにいられるか。それも読者を飽かせることなく。本気度と力量が試されるのはこれからだ。

分岐点



 6月27日、渋谷駅前でのデモでは背中を押される思いがした。

 「一人一人考えてここに来てるんでしょ。今日で終わりじゃない。明日からまた恋人、友達、家族に話してください。そういう一歩一歩がこの時代をつくってきた。70年間、闘ってきたんでしょ」

 私は足元を見詰める。


 新聞社は先の大戦で軍国主義の片棒を担ぎ、国民を戦争へと導いた。70年前、反省から再出発した。

 そうであるならジャーナリズムの役割とは、突き詰めれば、戦争を食い止めることだ。権力の暴走の極致としての戦争。この法案はその一里塚になる。私が反対する理由はここにもある。

 安倍晋三首相が戦後70年談話を発表した8月14日夜

、国会前で奥田さんは叫んだ。

 「安倍さんは紛争の解決に武力を使わないと言った。しかし、積極的平和主義の旗の下に日本は歩んでいく、つまり集団的自衛権を行使しないといけないと結んでいる。平和が大事と言いながら、どうして最後がそうなるのか」

 道理を外れた安倍首相の言動に暗然となる。そして気付く。若者たちの真っすぐな言葉は暗がりの中にともる希望なのだ。それはまた私たちの進むべき道を照らすたいまつであるのかもしれない。

 18日深夜、国会前に奥田さんの声が響く。

 「民主主義って何だ!」

 「憲法守れ!」

 取材は続く。

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