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元沖縄知事・大田昌秀さん(下)
時代の正体〈178〉独立論が映す孤立感

時代の正体 神奈川新聞  2015年08月29日 11:39

新基地建設の埋め立て工事準備が進められる沖縄県名護市辺野古=6月11日
新基地建設の埋め立て工事準備が進められる沖縄県名護市辺野古=6月11日

 6月に卒寿を迎えた。元沖縄県知事の大田昌秀さん(90)は「二度と戦争をさせない。それが生き残った意味だと考えてきた」という。

 戦後70年の夏、沖縄で開かれた衆院平和安全法制特別委員会の参考人質疑。大田さんは「言いたいことはたくさんあるが、一つだけお願いしたい」と切り出した。

 「国会議員の皆さんには戦争体験のない方もたくさんいる。沖縄戦とは何だったのか。本土防衛の捨て石にされたのはなぜか。それを考えた上で安全保障の議論をしてほしい」

 集団的自衛権は他国の戦争に参加する権利にほかならない。国会審議が続く安全保障関連法案はその行使を可能にする。安倍晋三首相は「国民の命、平和な暮らしを守り抜くために必要不可欠」と繰り返す。日米同盟が強化され、抑止力が高まり、結果的に戦争を防ぐことになると説明する。

 その発想がそもそも誤りだ、と大田さんは考える。2000年に著した「沖縄の決断」にはこうある。

 〈戦時中の大本営の作戦策定のありようは、戦後の今も形を変えて受け継がれている。日米両政府の安全保障にかかわる議論を聞いていると、そう思わざるを得ない。なぜなら日米安全保障条約や地位協定の締結によってその悪影響をもろに受ける沖縄の生身の人間の平和な生活や安全の問題は、いかなる意味においてもまともに考慮されたことはないからだ〉
 沖縄戦の惨劇がよみがえる。当時、沖縄師範学校2年、19歳で駆り出された戦場で目にしたのは住民に銃口を向ける日本兵の姿だった。

 「自分たちの身を守るため老人や女性、子どもたちを壕(ごう)から追い出した。軍隊は軍隊という組織を守るのであり、民間人を守らない。それが沖縄戦の教訓だ」

 軍隊、軍事力、武力に頼る平和がどれだけ欺瞞(ぎまん)に満ちているか、それは身をもって知ったことであった。


変わらぬ構図
 反基地闘争にささげた半生。変わらぬ構図にいら立ちが募る。

 辺野古での新基地建設を阻止しようと沖縄県の翁長雄志知事が5月に訪米したことについて「適当にあしらわれて終わりだ」と憮然(ぶぜん)とした表情を浮かべた。

 自身もそうだった。知事在任期間中、やはり基地問題解決の糸口を探ろうと米国へ飛んだ。

 国内の基地の閉鎖を決める権限を持つ、米政府からも米議会からも独立した組織「基地統合閉鎖委員会」で委員長を務める弁護士に言われた。「国外の基地の権限は上院の軍事委員会が握っている。上院の軍事委員会に沖縄の基地問題を議題として上げ、議論させない限り、日本の基地問題は解決はしない」

 厳しい現実は何度も突きつけられることになる。2006年5月、在日米軍再編をめぐる日米合意で沖縄に駐留する米海兵隊員8千人とその家族9千人のグアム移転が盛り込まれた。米軍普天間飛行場が返還される代わり、辺野古に新基地が建設されることが条件だった。

 しかし、米上院が計画に難色を示し、予算は凍結された。最終的に凍結が解除されたのは、当初の合意から8年が過ぎた昨年12月のことだ。「上院の軍事委員会が在日米軍基地の権限を持っていることを目の当たりにした。米国におうかがいを立てなければ何も決められない。そもそも新基地建設の費用が日本の税金で賄われる。米国としてはこんなにありがたい話はない。これに対して日本は一度も文句を言ったことがない。米国を前にすると日本政府は何も言わない。つまり属国だ」


沖縄戦の記憶
 「いまほど基地問題の解決が難しいと思ったことはない」。米上院軍事委員会のトップはいま、元軍人で保守色の強いジョン・マケイン氏が務める。そして大田さんは厳しいまなざしを日本本土にも向ける。

 「安倍首相は米国の意向に従うことが正しいと思い込んでいる」

 自身が知事だった当時の首相、橋本龍太郎氏は違ったという。「橋本首相とは17回会って話をした。『最優先に返して欲しい基地はどこか』と聞いてきたので『普天間だ』と答えた。日米両政府は普天間を含めた11の基地を返還することに合意した」。もっとも後に11のうち七つの基地が県内に移設することが判明し、落胆することになるのだが。

 沖縄にも変化がある。「独立論」を口にする人が増えていると感じている。「かつては政治家が口にするくらい。それも『独立しても経済的に持たないだろう』とすぐ立ち消えになっていた。それがいまは経済学者が独立論を主張し、琉球民族独立総合研究学会という学会までできた」。理事長を務める沖縄国際平和研究所には米国や英国、中国などのメディアが取材に訪れる。「沖縄の人口は142万人だが、沖縄より人口が少ない国が世界では40カ国ほどある。記者たちは『本当に独立するか』と関心を持っている」

 政府は今月10日から沖縄県と集中協議に入ったが、基地建設の姿勢は変えていない。「本土の人は理解できないだろうが、命を懸けてでも基地建設を止めようとしている人が沖縄にはいる」

 思い返すのは本土復帰直前の1970年に起きたコザ暴動。米軍人による人身事故に端を発し、米軍車両や施設が燃やされる事件が起きた。「暴動に加わったのは5千人ぐらい。新基地建設の工事を強行すれば再び血が流れる事件が起きる可能性がある」

 当時とは、異なることがある。「コザ暴動の当時、沖縄に自衛隊はいなかったが、いまはいる。自衛隊は基地を守る責任を負わされている。住民と米軍が衝突する事態になったとき、自衛隊が住民に銃を向ける可能性も出てくる」

 よみがえる沖縄戦の記憶。「多くの沖縄の住民が自国の軍隊に殺された。その思いが消えない。何が起きても不思議ではない」

 大田さんは再び、投げ掛ける。「行政がコントロールできない事態に陥ったとき、地元の首長としては安保の破棄を主張せざるをえなくなる。そうなれば沖縄の犠牲なしに成り立たない安保条約はつぶれることになる」

 おおた・まさひで 1925年沖縄県久米島町生まれ。沖縄師範学校に在学中に鉄血勤皇隊に召集され、沖縄戦を体験する。早稲田大卒業、米シラキュース大大学院に進学し、帰国後は社会学者、琉球大教授を務める。1990~98年沖縄県知事、2001~07年参院議員。


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