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重粒子線普及に壁? 県立がんセンター 導入控え困惑

社会 神奈川新聞  2015年08月28日 16:52

現行の重粒子線治療の患者負担
現行の重粒子線治療の患者負担

 「神奈川県立がんセンター」(横浜市旭区)が重粒子線治療を12月から始める準備を進める中、がん患者の期待が揺らぎかねない議論が国で持ち上がっている。厚生労働省が来年4月の診療報酬改定に向け、粒子線の照射費用以外の検査や入院などが保険適用される優遇の見直しを検討しているからだ。仮に全て自由診療となれば患者負担は重くなり、県も「せっかく有効な治療法を諦める人も出かねない」(県立病院課)と危惧している。

 重粒子線治療は、光の速さを加速した重粒子線を体の奥のがん細胞に照射する治療法。手術や化学療法に比べて体に負担が少なく、短期間で済み、固形のがんに高い治療効果がある。

 保険適用に至らない先進的な医療技術として「先進医療A」に指定されており、照射費用(がんセンターは350万円)を自己負担すれば、残りの診察や入院、検査、投薬は保険適用されて3割負担で済む。

 がんセンターでは約118億円を投じた重粒子線治療施設が完成し、12月から治療を始める。経営する県立病院機構は先進医療Aの適用を前提に5年間で1710人の患者を見込む。将来的にはより幅広く患者を受け入れる方針だ。

 しかし、厚労省の先進医療会議は、2年に1度の来春の診療報酬改定に合わせ、重粒子線・陽子線治療の先進医療での扱いを議論。保険適用の可否を審査するためにエックス線治療など既存の治療法との比較を求めていた。

 今月6日に日本放射線腫瘍学会が「前立腺がん、肺がんなどの部位では既存の治療法との比較で優位性を示すデータが集められなかった」との報告書を提出したことを受け、先進医療Aからの除外も含め部位ごとの検討が行われているという。見直しされれば、全国13カ所で稼働中の粒子線治療施設が影響を受けるが、とりわけ治療開始目前の神奈川県立がんセンターの困惑の色は濃い。

 県立病院機構によると、先進医療から外れると3割負担で済む入院や検査などが全額自己負担となり、民間がん保険の先進医療特約も対象外となるなどの影響が考えられる。先進医療Bに格下げとなれば、保険適用の対象となる患者が、がんの種類や年齢、進行度など細かい条件で限定され、病院側が想定する患者数を見込めなくなることも考えられるという。

 国立がんセンター中央病院長を歴任した土屋了介・県立病院機構理事長は「複雑な制度への変更は、重粒子線治療に期待する患者の不安と混乱を生む」と指摘。学会の報告書に関しても「これまでの重粒子線治療施設は単独施設のため、他の治療法と比較したデータを用意できなかったが、施設が病院と併設された県立がんセンターでは出せるようになる。このような臨床研究を行うことは県立病院の使命である」とし、先進医療Aの継続を求める。

 県県立病院課も「重粒子線は優れた治療法であり、今回の見直しで患者の治療の選択の幅を狭めることになってはいけない」と懸念。28日には黒岩祐治知事が塩崎恭久厚労相に直接申し入れる予定だ。


◆先進医療 公的医療保険では、保険診療と保険外の診療を併用する混合診療を認めていないが、先進医療に指定されると、例外的に混合診療が認められる。このうち先進医療Aは有効性がある程度明らかな医療技術、先進医療Bは一定の条件下で臨床試験として行い、有効性の審査を受ける医療技術と分類されている。


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