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論説委員が振り返る2016年〈上〉

社会 神奈川新聞  2016年12月30日 09:52

参院選立候補者の訴えに耳を傾ける有権者=7月9日
参院選立候補者の訴えに耳を傾ける有権者=7月9日

 戦後71年、2016年は国内外で政治、経済、社会の根幹を成してきた価値観、既存の枠組みが揺らいだ。国内では憲法改正に賛同する勢力が衆参両院で発議に必要な3分の2以上の議席に達する一方、違憲の可能性が指摘されている安全保障関連法が運用段階に入った。そして、英国の欧州連合(EU)離脱、米大統領選でのトランプ氏勝利に象徴される反グローバリズムの波が世界を覆いつつある。この1年に報じられたニュースから不確実性が高まる時代の断面が浮かび上がってくる。社説を担当する論説委員が振り返り、17年を展望した。

不健全な「自民1強」



国政・地方自治
 -夏の参院選で「改憲勢力」が衆参両院の3分の2議席を確保し、憲法改正が政治日程に上りつつある。

  参院選は「憲法改正」という隠れた争点も鮮明化せず、政策論争が深まらなかった。改選定数4の神奈川では批判票の受け皿を一本化することの難しさを痛感した。

  神奈川選挙区4議席のうち自公3議席と与党の強さが際立った。民進党は県連代表が落選し、次期衆院選へ組織と戦略の立て直しが必要だ。

  改憲勢力と言っても対象項目の優先順位や最終目標など立ち位置は異なる。首相の思惑通りことが進むとは思えない。

 -甘利前経済再生相の金銭疑惑、山本農相の「冗談発言」など巨大与党のおごりが目立った。

  自民1強の不健全な状況を変えるためにも民進党は奮起してほしいが、環太平洋連携協定(TPP)、憲法、原発など重要政策で党の軸がない。

  存在感を高められずにいる野党は、与党批判だけでなく対抗軸となる政策を示すべきだ。

 -政務活動費の不正など金銭絡みの不祥事が地方で相次いだ。

  神奈川でも県議の不透明な支出が問題となった。最大の原因はモラルの欠如だ。透明化を一層進める仕組みが必要だ。

  不正発覚は情報公開制度の成果でもある。大切なのは市民が自治体、議会を監視する意識を持つことだと思う。

苦難の経験次世代へ



防災・災害・環境
 -東日本大震災から5年、全国的に大規模地震や火山噴火が相次いだ。防災、減災の両面で震災の教訓は生かされているのか。

  被災地ではまち全体の復興から個々の被災者の置かれた状況まで格差が顕在化している。復興の担い手として被災者自身が積極的に関わる仕組みが必要だ。

 -11月には福島沖を震源に震度5弱の地震が起きた。

  福島沖の余震は神奈川には無関係だと思った人が少なくないのでは。だが実際には三浦市で10センチの津波が観測されていた。東日本大震災時も多摩川などを津波が遡上(そじょう)した。紙一重と受け止めたい。

 -熊本では震度7の地震が連続し、地震活動の動向を読めない地震学の限界を改めて示した。

  前震後に自宅に戻った被災者が本震に巻き込まれ、被害が拡大した面が否めない。行政の準備不足、住民の警戒心の薄さも露呈した。経験にとらわれていては被害は防げない。

  熊本地震では県内企業の素早い情報インフラ支援など、かゆい所に手が届く支援が頼もしかった。

 -台風が東北に上陸し、高齢者施設で多数の犠牲者が出た。

  高齢者施設の避難対応の問題がまたも浮上した。台風は進路などが予想されるだけに、いち早く危険な場所から逃れることが基本との認識を改めて確認したい。

 -国連が日本の提案を受け、11月5日を「世界津波の日」と定めた。

  制定日に合わせ高校生サミットが高知県で開かれたことは意義深い。次世代の担い手にバトンを渡していくことは、苦難の経験を風化させないためにも欠かせない。

 -国民の不安をよそに原発再稼働が進む。

  22年間でわずか250日しか稼働していない高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が正式に決まった。一方で、政府は核燃料サイクル自体は継続する方針だ。将来的な展望の見えない技術にこだわらず、脱原発を加速させる道を探るべきだ。

ゴーン氏の手腕注目



経済・国際
 -日銀が物価上昇目標の達成を先送りした。大規模な金融緩和は限界に近づきつつある。

  日銀が異次元の金融緩和に踏み切ってから4年がたとうとしているが、トリクルダウンはどこにも起きていない。アベノミクスの根幹そのものの誤りを認め、方向転回すべきだ。

 -マイナス金利政策は金融機関の収益悪化につながり、地銀はかつてない規模で再編が進む。地域経済への影響をどうみる。

  マイナス金利の恩恵は見えなかった。金融政策に比重を置きすぎるのは大問題だ。地場産業、独自産業の育成など地道な策が今こそ必要だろうに。

 -日産自動車と三菱自動車の資本業務提携をどうみるか。

  問題相次ぐ三菱自の体質改善には、ゴーン社長の合理的で大胆な手腕は有効かもしれない。両社で技術力を高め、業界にいい刺激を与えてほしい。

 -統合型リゾート施設(IR)整備推進法が成立した。

  ギャンブル依存症増加や治安悪化などの懸念が根強くある中、急いで結論を出した感は否めない。今後、政府は1年以内をめどに具体的な実施法案を整備することになる。横浜は有力な候補地であり詳細な課題の検証は欠かせない。

  ギャンブルによって経済振興を図るという発想そのものに疑問を感じる。法の成立過程も拙速だった。横浜も誘致に積極的で、山下ふ頭がその候補地に取り沙汰されているが、「みなとの風情」、「異国情緒」といった今ある観光資源を、まだ気付いていない観光資源をより有効活用する道を探るべきだ。

  DeNAが医療や育児など暮らしにかかわる記事をまとめたウェブサイトを停止する事態に追い込まれた。チェック体制がないまま、信憑性(しんぴょうせい)のない情報を掲載していたからだ。背景には低コストで記事を作り、高い収益を上げようとする姿勢が見える。

 -英国がEU離脱を決め、米大統領選ではトランプ氏がクリントン氏を破り世界に衝撃が走った。

  自由貿易、民主主義の本家とも言える英米での反グローバリズムの噴出は、世界支配体制ばかりでなく西欧に根差す価値観も変えていく可能性がある。

 -オバマ米大統領が掲げた「核なき世界」の行方は。

  国連加盟国の約6割が後押しする核兵器を違法なものと定める条約制定に向けた動きに対し、日本政府は反対を表明した。唯一の戦争被爆国として、核保有国と非保有国をつなぐ「橋渡し」役を期待していただけに残念だ。

▼論説主幹 林義亮
▼論説委員(五十音順)
 香川直幹 柏尾安希子 川村真幸 桐生勇 高本雅通 下屋鋪聡 鈴木昌紹 畠山卓也 牧野昌智 宮崎功一 山口譲一 尹貴淑 米本良子 渡辺渉


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