1. ホーム
  2. 経済
  3. 「再生軟骨」実用化へ 先天性の鼻変形に新技術 富士ソフト開発

「再生軟骨」実用化へ 先天性の鼻変形に新技術 富士ソフト開発

経済 神奈川新聞  2015年08月19日 03:00

口唇口蓋裂患者の鼻の治療用として研究が進む再生軟骨(富士ソフト提供)
口唇口蓋裂患者の鼻の治療用として研究が進む再生軟骨(富士ソフト提供)

 先天性疾患「口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)」で鼻の変形に困っている患者に移植できる特殊な軟骨の実用化に、富士ソフト(横浜市中区)が取り組んでいる。再生医療関連の新技術で、本人の耳介にある細胞からつくりだす「再生軟骨」と呼ばれるものだ。今春から安全性などを評価する企業治験にも着手しており、2017年度の実用化を目指している。

 東京大学などによると、生まれつき唇や顎などに裂け目が生じる同疾患は、国内では年間500人に1人ほどの割合で現れ、鼻に左右非対称などの変形をきたす場合もあるという。

 従来の治療法では自分の骨を用いる自家移植などがあったが、骨盤の腸骨や胸部の軟骨を切り出す必要があり、身体的・精神的負担で大きな課題があった。

 同社の再生軟骨は耳介の軟骨から1センチ角ほどの採取で済み、適度な強度を保った立体的な軟骨を長さ5センチほどまで培養・整形し、移植に活用する。鼻の変形の影響で鼻呼吸しづらい、眼鏡を掛けられないなどの悩みを抱える患者の生活改善が期待されている。

 東京大学医学部付属病院で移植などの臨床研究が行われている。同社は「患者の負担軽減につなげられる上、従来の手法より強度に優れ、複雑で広範囲な変形に多く対応できる」と説明する。

 一方、従来の治療法より医療費が高くなる可能性があり、本人から一定量の採血を必要とするため、10代後半に成長するまで再生軟骨は使えないという“壁”もある。

 同大学や山口県立総合医療センター、帝京大学では現在、同疾患患者の鼻筋に再生軟骨を移植し、安全性や有効性をみる企業治験を4月から進めている。富士ソフトは16年度中に国へ承認申請し、17年度の実用化を目標としている。


◆再生軟骨の事業化などに取り組む富士ソフト再生医療研究部の原井基博部長(53)に今後の展望や事業への思いを聞いた。

 -なぜソフトウエア会社が再生医療か。

 「IT(情報技術)はあらゆる産業で必要とされる。医療分野でも電子カルテや検査機器などのシステム開発に携わってきており、さらに拡大を目指していた。再生軟骨の取り組みは、2005年に東京大学医学部付属病院で再生医療に関する寄付講座を開講したのが発端。そこから成果が上がり、研究を進めていくことになった。現在も研究の現場では当社のITが細胞加工の工程管理などで多く生かされている」

 -再生軟骨の事業化の手応えは。

 「11年に東大医学部付属病院で行われた臨床研究では、移植を受けた口唇口蓋裂の患者から『鼻腔(びこう)の気道が広がり、うつぶせ寝ができるようになった』『眼鏡やサングラスが掛けられるようになった』との声が上がった。見た目だけでなく、生活の質を高められることに大きな意義があると考えている」

 「再生軟骨の移植は、これまでの腰や胸の骨による自家移植よりも患者の身体的負担が小さく、受け入れられやすい技術だと思う。鼻の変形によるさまざまな弊害に悩んでいる人々に新たな(治療方法の)選択肢を提示できれば開発者としての喜びも大きい」

 -事業化の青写真は。

 「製造・販売の実務は、14年に設立したグループ会社の富士ソフト・ティッシュエンジニアリングが担うことになる。年間300~600人分の想定で、再生軟骨を製造・供給していけるような体制を取っていきたい」


原井基博部長
原井基博部長

シェアする