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〈時代の正体〉「自由守るため削除」 ツイッター社がヘイト対策強化

時代の正体 神奈川新聞  2016年12月30日 02:00

ヘイトスピーチ対策を語る笹本代表取締役=東京都中央区のツイッター・ジャパン
ヘイトスピーチ対策を語る笹本代表取締役=東京都中央区のツイッター・ジャパン

【時代の正体取材班=石橋 学】それは企業の姿勢を示す宣言だという。米ツイッター社がヘイトスピーチ対策の強化を打ち出したのは11月15日のこと。「差別を放置すれば、助長し加担することになる」。インターネット上に吹き荒れる差別の嵐を前にIT大手として、その責任とどう向き合うのか。日本法人ツイッター・ジャパンのトップ、笹本裕代表取締役(52)に聞いた。

 ユーザーによる問題ツイートの報告フォームに新たに追加されたのは「人種、宗教、性別、性的指向などを誹謗(ひぼう)中傷または差別している」という項目。ツイッターの利用ルールでは、脅迫、嫌がらせのほか特定の人種、性別、宗教などに対するヘイト行為を禁じている。報告は日本国外の審査部署に集約され、ツイートの削除やアカウントの凍結が審査される。

 「自由な声が発信される場がツイッターのあるべき姿。それには安全安心な場でなければならない。大事なのは言論の自由が損なわれないということ。これは言論の自由をどう保つかという問題だ」

 笹本代表は真っすぐ前を見据え、言う。

 「ヘイトスピーチは表現の自由として守られるべき言論ではないと理解している。削除や凍結は表現の自由を損なうものではなく、自由で活発に表現してもらうための一つの手段。それを促すために大切なことだ。あるコミュニティーや集団が攻撃され、その対象者が発信できなくなることがあってはならない」

 対策の強化は事態を重くみている表れであり、これまでの取り組みの不十分さの裏返しでもある。「現実に苦しんでいる方がいる。可能な限り迅速にあぶり出す必要がある」。審査には法律の専門家やNPOのサポートを受けているという。「どこまで日本の実情を理解しているかという課題もある。日本の優先度を上げ、対応するよう米国本社に要望している」

 その際、強調しているのが6月に施行されたヘイトスピーチ解消法だという。「ヘイトスピーチの問題に関するツイートが増えたと感じている。米国本社も日本で新しい法律ができ、人々の意識が高まっていると認識するようになった。われわれも知見を高めることが求められるようになった。今後、日本の対策強化の方向で進んでいくのは間違いない」

 欧州では、ツイッター社はフェイスブック、グーグルなどとともに、ドイツ政府や欧州連合の欧州委員会とヘイトスピーチを24時間以内に削除する取り決めを結んだ。「欧州の事例からも学びたい。日本政府とだけではなく、アジアでも同じようなことが必要だし、日本法人が先導的役割を果たせるのではないか」

 差別は被害者を生む。ネット上の書き込みに今この瞬間も傷つき続けている。「今回の対策はあくまで第一歩」と繰り返す笹本代表は力を込めた。「言論弾圧という意見があるが、当たらない。われわれの利用ポリシーに照らし専門組織で審査している。その判断はどちらかに偏っているという性格の事柄ではない」

 それは企業としての責任だ、と言い切った。

 「課題は山積だが、差別を放置すれば、差別を助長し、加担することになる。対策の機能強化は、私たちはヘイトスピーチはいけないと認識しています、だから利用者にはルールを守って使ってほしいという発信でもある」

「言論の自由をどう保つかという問題」


 ツイッター・ジャパンの笹本裕代表取締役のインタビューの詳細は以下の通り。

 -ツイッターにヘイトスピーチ(差別扇動表現)があふれる現状をどう受け止めているか。

 「世界的な問題として憂慮している。自由な声が発信される場がツイッターのあるべき姿だ。ツイッターは安全安心な場でなければならない。大事なのは言論の自由が損なわれないということ。言論の自由をどう保つかという問題だ」

 -対策強化の狙いは。

 「ツイッターは一個人の喜怒哀楽や趣味嗜好(しこう)がかつてない量で集まる場。匿名で使えるのでより本音がでやすい面がある。その自由さが度を越し、ヘイトスピーチや誹謗(ひぼう)中傷、いじめに使われている。大変憂慮し、懸念している。ツイッターという場を存続させるためにも安全安心に利用できるように努力しなければならない」

 -表現の自由を巡る議論もある。

 「ヘイトスピーチは表現の自由として守られるべき言論ではないと理解している。ツイートの削除、アカウントの凍結は表現の自由を損なうものではなく、安全安心に発信していくための一つの手段。自由で活発な表現を促すために大切なことだと思っている。あるコミュニティーや集団を攻撃し、その結果、対象者が発信できなくなるようなことがあってはならない」

 -対策強化に反発するツイートもみられる。

 「言論弾圧という意見があるが、当たらない。あくまでわれわれの利用ポリシーに照らして専門組織で審査している。ヘイトスピーチに当たるかの判断はどちらかに偏っているという性格の事柄ではない。もちろん正しい判断だったかは常に検証していかなければならないが」

「放置すれば差別に加担」


 -対策における課題は。

 「問題はスピード感と規模感。体制や技術など課題は山積だ。しかし、放置すれば差別を助長し、加担することになる。機能強化は私たちはヘイトスピーチはいけないと認識しています、だから利用者にはルールを守って使ってほしいという発信でもある」

 「これだけ利用者が多く、ツイート量も多い中、人的に検知するには限界がある。機械学習を進化させていかないといけない。そのためにもヘイトスピーチについての知見を高めていかなければいけない。言論の自由とヘイトスピーチの境目をどう捉えるかが難しく、いたちごっこの面はある。表現を変え、境目をすり抜けようとするだろう。常に変化していくところを見ていかないといけない。経験、知見を高めていかないといけない」

 -これまでの対応について批判もある。

 「十分対応できていないという批判があることは認識している。今回の改良は第一歩。あくまでスタート地点に立っただけで、最終形ではない。この問題はわれわれ単体でなく社会全体で考えるべきものでもある。ユーザーがポリシーに抵触する問題ツイートを報告することで次のステージに入っていく。それを受け、われわれがどれだけスピード感を持って対処できるかが問われていくことになる。現状は個人的にも納得がいっていない」

「日本の価値観、考え方を反映させる」


 -審査はどのように。

 「報告は日本国外の審査部署に集められ、審査される。ポルノやプライバシーなどに関し知見を持った法律の専門家や非政府組織(NGO)のサポートを受けている」

 -難しさは。

 「難しいのは、ツイッターが世界統一のプラットホームだということだ。例えば宗教や文化が違えば、女性の肌の露出の程度が異なる。だが、日本でツイートされたものは世界中で見ることができる。日本の知見だけで判断できない性格のサービスだといえる。グローバルにさまざまな角度、文化、宗教で判断する必要がある」

 「ただ、そうした中でももう少し日本の価値観、考え方を反映させることはできる。ヘイトツイートを迅速に検知し、もう少し具体的に内容を精査するプロセスに改良していけないか、議論している」

 「審査をサポートしている団体やNPOがどこまで日本の実情を理解しているかという課題もある。日本の専門家が必要かというと、必要かもしれないし、必要性を説いていくということはあると思う。少なくとも日本の内容をもっと迅速に精査し対応できないか、していくべきだ、と提唱している。昨今の状況を踏まえ、確実にその方向で議論しているとはいえる」

 -6月のヘイトスピーチ解消法の施行をどう受け止めた。

 「感覚的に議論するツイートが増えたと感じる。社会的にヘイトスピーチへの意識が高まっていると感じている。われわれのサービスがまだまだ改善が必要な状況だという認識させられた。社会としてこの問題を学んでいかないといけないし、私たちも対応していかないといけない」

 「米国本社も日本で法律ができて、人々の意識が変わってきていると認識している。もう少し日本からの声に耳を傾け、対応できるようにならないといけないと議論している最中だ。きょうも米国本社とやりとりして、そうした日本の現状を前提に、われわれの対応が適切か、スピードをもっと速められないか、啓発を広報できないものか、そうしたことを本社の経営の中で確認したいと伝えた」

 -企業にとってもヘイトスピーチ解消法の影響は大きい。

 「言論の自由が阻害されないようにするため、われわれも知見、見識を高めることが求められるようになった。法施行によりそう認識させられる機会になった」

「あるべきゴールの姿は同じ」


 -ツイッター社はフェイスブックやグーグルなどとともに24時間以内にヘイトスピーチを削除する取り決めをドイツ政府や欧州委員会と結んでいる。

 「ドイツではヘイトスピーチは法律で処罰される。この問題の歴史と社会的コンセンサス、知見がある。日本はようやく社会として学んでいこうという段階だ。欧州のように企業同士で連携し、話し合う必要があると感じる。欧州の事例からも学びたい。日本政府と同様の取り決めも考えられるが、日本だけでいいのか。不適切ツイートの問題は日本に限った話ではない。日本政府とだけではなく、アジア諸国で同じようなことが必要だ。日本法人が先導的役割を果たせるのではないか」

 -米国本社主導なのがもどかしいか。

 「日本の利用は濃度が濃く、大変活発だという認識は米国本社にもある。改善してほしい、改善していくんだということについては優先度を上げて対応してくれると信じている」

 「もちろん日本独自の取り組みも可能だ。われわれの熱量も高まっている。もう少し時間をいただくが、確実に改善する方向にしたい。スピード感では生ぬるいと指摘されても申し訳ないというほかないのが現状だが、あるべきゴールの姿は同じだと思っている」

 -海外での暮らした経験があると聞くが。

 「異国で生活していた幼少期、差別的な言葉を受けた経験がある。だから、差別のない環境を望むようになった。ツイッターのサービスに携わり、より自分事として思いを寄せている部分がある。幸い私の場合は雨降って地固まる結果になった。支えてくれる仲間がいて、当人と話し合った結果、憎しみは残っていない。きれい事と思われるかもしれないが、互いに節度を持って向き合い、解決していくのが理想だし、ツイッターもそうした場であればいいと思う。だが、向き合うことのできない力関係が現実にはある。だからこそ、私たちがどれだけサービスを改善できるかという仕事は重要だと思っている」





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