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戦争遺品、個人所有限界も 記憶継承課題に

社会 神奈川新聞  2015年08月12日 03:00

岩崎さんが寄贈、展示されている伯父の遺品=厚木市寿町の市郷土資料館
岩崎さんが寄贈、展示されている伯父の遺品=厚木市寿町の市郷土資料館

 日中戦争で戦死した伯父の足跡を20年前に出版した男性が、「個人で持ち続けるには限界がある」として出版の資料になった遺品328点を厚木市に寄贈した。近年、高齢化した所有者による同様の相談例が目立っており、戦争の悲惨さを伝える遺品の継承が今後の課題になりそうだ。

 「或る戦いの軌跡-岩崎昌治陣中書簡より」(近代文芸社、313ページ)は、平塚市河内の岩崎稔さん(71)が1995年、伯父にあたる陸軍工兵軍曹・岩崎昌治さん=厚木市戸田出身=の中国戦線への出征から戦死までを家族への手紙を中心にまとめた。

 手紙は37年9月の召集直後から、38年6月に渡河作戦中に被弾して27歳で戦死するまで頻繁に届いた。転戦の様子が分かる手書きの地図も同封されていたり、現地の住民が多数巻き込まれた南京作戦に参加した際の記述があったりしたため、一戦没兵士の証言記録ながら歴史研究者の注目も集めた。

 同市への寄贈は今年2月に行われた。昌治さんの遺品は本を書くきっかけになった数十通の手紙のほか、写真や戦死を伝えた当時の新聞記事、身に着けていた時計や千人針など、稔さんが所有していた全てという。

 岩崎さんは「遺品を手放すのは寂しいが、高齢になってこのまま持っていれば、紛失してしまう恐れもある。これからも生活や人間そのものを変えてしまった戦争の事実を多くの人に知ってもらうには、公共機関で保管・活用してもらう方がよいと思った」と話している。

 遺品の一部は同市郷土資料館で30日まで開催中の戦後70年展に出品されている。

 同資料館によると、戦争資料に関する市民からの寄贈はこの10年間で9件あった。市内の男性が相談に訪れて、約90点の遺品が処分を免れたケースもあったという。

 戦争の記憶を風化させないために「語り部」の存在は重要だ。体験者や遺族の高齢化が進む中、その役割は「ひと」から遺品や戦跡などの「もの」に移行していくと専門家は指摘している。

 同資料館は「今回のように戦争に関する遺品を寄贈したいと申し出る事例は今後増えてくるのではないだろうか。施設的に保管や展示スペースの制約はあるが、失わないための手だてを考えていきたい」と話している。


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