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ルポ 69年目の夏
武蔵屋の一番長い日 

カルチャー 神奈川新聞  2015年07月31日 15:00

 戦後70年を迎える今年7月、ハマっこにとってかけがえのない二つが表舞台を降りた。横浜高校野球部の渡辺元智監督と野毛の武蔵屋だ。
渡辺さんは48年間監督を務め、28日の夏の県大会決勝で現役を退いた。武蔵屋は31日、69年の暖簾(のれん)を降ろした。
 その武蔵屋最後の日をルポした。

22時00分

 既に閉店したが、店の外観をスマホで撮影する人の姿が絶えない。若い男性は「結局一度も入れませんでした。早いうちに来ておけばよかった」と悔いていた。

閉店したことを確認して立ち去るカップルも。店の前には三毛猫が顔を出し、様子をうかがっていた。

21時45分

 閉店して2時間がすぎた。野毛で飲んでいて、武蔵屋の閉店を聞いたという若い男性が店に前に訪れた。「これまでに2度来たことがあったが、最初は注文の仕方がわからなくて…」と懐かしそうに話す。「店内は常連客ばかり。昭和の雰囲気たっぷりの店は、他にないでしょう」

21時20分

 にぎやかだった時間は過ぎ、店内に残っていた常連客たちはすべて帰る。店主の木村喜久代さんと店を切り盛りしたアルバイト、元アルバイトたちが集まり、乾杯。家族のような、にぎやかな夕食が始まった。

20時50分

 店を出てきた女優の五大路子さん
「(武蔵屋は)いつも私に生きる力と元気を与えていただきました。昭和のぬくもりをおばちゃんからいただいて、それは忘れてはいけない宝物です」

20時45分

 店を出てきた居酒屋評論家の太田和彦さん
「武蔵屋はお金がない若者も名士も平等に入れる安い店だけど、客になる条件が一つあって、それは酒品を持っているといこと。そういう店を大切にしていることが横浜の品格になっている。(都市に品格を与えるような)そういう店は日本でここだけでした。ここを超える店はできるのかなあと思います」

20時25分

 店内で五大路子さんらの合唱が始まる。
ここは武蔵屋3杯屋~ 
1杯目は一日の疲れを癒すため 
2杯目は明日への力を培って 
3杯目は己を陽気に人を楽しませ 
ここは武蔵屋3杯屋~


20時20分

 2012年に武蔵屋を舞台化した「野毛 武蔵屋」に主演した女優の五大路子さんら来店。

20時14分

 店内で一本締め

20時12分

 閉店後も名残惜しそうに店の前に集まるファンに店主の木村喜久代さんが姿を見せる。
「本当に長い間ありがとうございました。入れなかった人ごめんなさい。本当にありがとうございました」

19時45分

 閉店後も店内にとどまった常連客たち約20人が「おばちゃん、長い間どうもありがとうございました」と一斉にお礼を述べた。大きな拍手がわき上がる。「さあ、2杯目飲もうぜ」の冗談に、笑い声が上がる。店主の木村喜久代さんは「みなさんのおかげで、どうもありがとうございます」とあいさつ。涙を浮かべつつも、握りしめたハンカチでぬぐう。「長生きしてね」と常連の男性。みな、笑顔を見せていた。

19時35分

 入り口の引き戸に「本日は終了です」の張り紙が張られた。名残を惜しむ常連客ら15人ほどが店頭に集まって、店の外観の写真を撮っている。

19時30分

 来店の受付が終了に。 

19時14分

 店内に、仲の良い若い男女の客の姿があった。38歳の男性は1996年から武蔵屋で学生アルバイトをしていたという。当時は店主で姉の木村喜久代さんと妹の富久子さんが切り盛りしていて、アルバイトはこの男性一人だけ。「優しいお客さんばかりで、バイト料をもらいながら社会勉強させていただきました」。今日初めて連れてきたのは男性の婚約者。「1年生の秋から4年生まで働いた武蔵屋はぼくの青春そのもの。店の味を覚えてもらいたい」との男性の願いに、婚約者の女性は「頑張ります」と笑顔を見せていた。

18時50分

 年輩男性が多い列に、仕事帰りの若い女性の姿もちらほら。20人ほどに延びる。

 横浜市役所の勤務時代から45年ほど通っていた男性(85)「戦後の関内は接収されていたので、ぼくたちが若いころ飲みに行くのは野毛しかなかった。武蔵屋は、小柄な先代が大きな土瓶でついでくれたのを覚えている。赤い顔をしては入れてくれなかった。騒いでも追い出されるので連れて行く相手を選んだよ」

18時40分

 看板猫の「クロ」が玄関先に出てきて、客に愛想を振りまく。道路にごろんと横になる。

18時30分

 73歳の男性。「懐かしい歴代のバイトたちも戻ってきてくれた。今日が最後というのは、どうにも言葉にならない」と目に涙を浮かべる。

16時30分

開店して2時間で来客が100人突破。1人当たりの滞在時間は約20分。

16時00分

 店から出てきた常連客の男性(66)=伊勢原市。横浜市役所に入局した23歳から現役時代を通して武蔵屋に通っていた。野毛に飲みに来たなら1軒目に武蔵屋に立ち寄るのが暗黙の決まりだったという。先代から「どこかで飲んできただろって、怒られたからね」。先代は、客の健康だけでなく店内の雰囲気にも気を遣っていたという。「店の雰囲気を乱す人がいたら、お金を取らないで追い返してしまう。そんな頑固な人だった」。「武蔵屋は良心的な店だったね。娘さんが93歳まで営業を続けてくれたことに感謝したい」


14時30分

 開店。店内には28人。アルバイトはOBも含め8人。
30日と同じように日本酒1杯、タマネギの酢漬け、おから、赤飯がセットで1000円。


14時4分



 扉が開く。「営業はまだしませんが、暑いので中に入ってください」 列の20人が店内へ

14時3分

 1999年から10年間、アルバイトをしていた「あみちゃん」が娘を連れて来店。「最後なんでお手伝いします」

13時54分

 武蔵屋で出されている日本酒「櫻正宗」の岩口利斉東京支店長がフラワーアレンジを手に勝手口へ。「お礼に伺いました。69年も櫻正宗上撰辛口だけを使っていただいているお店はあまりありません。戦後の混乱期にも絶やさず供給してきたところから縁が続いてます」

13時20分

 居酒屋評論家の太田和彦さんから贈られたフラワーアレンジが店頭に置かれる

13時8分

 店主の木村喜久代さん(93)が到着。「(並ぶ列に向かって)ありがとうございます。(店の中に向かって)暑いから中に入ってもらったら」

13時5分

 25年前に武蔵屋でアルバイトしていた男性から、「おばちゃんにメッセージお願いします」とノートが渡される。「あんまり長く書くと、木村さんが疲れるから短めにしました」と列の1人。

12時

 最初の客が並ぶ。6年前から通う渡邊勇一郎さん(52)。先週、店主の木村さんから閉店の知らせを直接電話で聞き、神戸から駆けつけたという。手には大きな花束も。


閉店報道後



 閉店が公になったのは22日の火曜日。その直後の営業日の23日に店を訪れた。17時開店なので、16時30分に向かうと、もう30人ほど並んでいた。あまりの列に「あいさつだけでも」と店主に声をかけただけで帰る人も。延々2時間待ってやっと入店。24日には閉店20分前でも店に列があった。
 閉店の日前の30日、あまりの人の多さに「三杯屋」ならぬ「一杯屋」で営業することに。客は200人ほどだった。
  




閉店の紙が貼られた=19時35分
閉店の紙が貼られた=19時35分

19時30分
19時30分

18時30分
18時30分

18時30分
18時30分

16時30分
16時30分

15時40分
15時40分

店に到着した木村喜久代さん=13時8分
店に到着した木村喜久代さん=13時8分

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