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安保法案 衆院通過受け
【カナロコ・オピニオン】(4)参院の意義懸け審議を

カナロコ・オピニオン 神奈川新聞  2015年07月17日 03:00

カナロコ・オピニオン
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 「むずかしいことをやさしく-」。井上ひさしさんが書いている。

 倣ったつもりかどうか。安倍晋三首相が自民党のネット番組で披歴した、たとえ話を用いた安全保障関連法案についての説明である。

 いわく、「友人のスガさんの家に強盗が入った。『家に来て、一緒に戦ってよ』と言われても、私は助けられない。安倍家が危ないわけではない」。またいわく、「安倍は生意気だなどと言っている不良たちが友達のアソウさんに殴りかかったら、私も一緒にアソウさんを守る」云々(うんぬん)。

 10本もの改正案を1本にくくった上、初めて聞く名辞が議論の場でしばしばやりとりされる難しい法案である。押し込みやならず者との立ち回りを例に引いた話が、本質を突いているとは思えない。

 そもそも井上さんは、続けて、「やさしいことをふかく」と説いている。ネット番組を視聴する人たちには若い人が多いとみて、安易に「分かりやすいだろうから」と考えたとしたら、若い人たちをみくびってもいよう。

 公職選挙法が改められ、18歳以上であれば来年夏に行われる参院選で投票できるようになる見通しだ。高邁(こうまい)な精神に基づく法案である。ちまたの殴り合いと同列に捉えてみてはと促されたことに、番組を見た若い人たちはもっと反発してもいい。

 政府が116時間に及んだと強調する衆院特別委員会での答弁は、「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく」説明しようという姿勢が感じられなかった。

 それどころか、延長した会期末を見据え、法案の成立を図るには衆院での議決は今しかない、との思惑がうかがえた。議論が深まらなかったことと無関係ではあるまい。

 民主主義はもともと手間と時間がかかるものである。異なった立場の人を傍らに追い、少数意見に配慮せず、ただ先を急ぐやり方とは相いれない。

 法案は昨日、衆院本会議で採決がなされ、与党などの賛成多数で可決された。議論の場は参院に移る。民意を踏まえれば、参院は存在意義を懸けて法案審議に臨まなければなるまい。

 「もっと丁寧に時間をとって説明すべきだった」。間違うなかれ。これは特定秘密保護法が成立した一昨年12月の国会閉会後に、安倍首相が述べた文句である。

 なにより安倍首相、理解が得られてこその丁寧な説明ではないか。9月の今国会閉会時に、また同じせりふを聞かされるのは御免被る。
 
 (論説主幹・林義亮)


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