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時代の正体〈131〉対立の島から(中)問われた地方の気概

時代の正体 神奈川新聞  2015年07月04日 10:48

住宅密集地にあり「世界一危険な基地」と評される米軍普天間飛行場。日米合意から19年がたったが返還の見通しは立っていない=沖縄県宜野湾市
住宅密集地にあり「世界一危険な基地」と評される米軍普天間飛行場。日米合意から19年がたったが返還の見通しは立っていない=沖縄県宜野湾市

 私がその質問をしたのは、予定の1時間をほぼ使い切り、最後の質問者として指名されてのことだった。

 「辺野古の新基地建設反対という、容易ではない道を歩む決断をされたのはなぜなのか」

 会見場の最前列からうわずった声を響かせる私。同席していた地元紙の沖縄タイムス、琉球新報の記者も表情をこわばらせているかもしれないと思った。

 どこか張り詰めた空気をよそに、目の前の翁長雄志沖縄県知事は、うれしそうにほほ笑んだように見えた。

 そして、「少し長くなりますが」と前置きし、ゆっくりと語りだした。

本 音

 日本記者クラブの取材団の一員として沖縄入りして3日目の6月11日、取材団の申し入れで設定された記者会見だった。地元県政記者クラブも加わり約50人の記者が集まっていた。

 前夜、沖縄タイムスの編集局次長や社会部長らと席をともにした夕食でのことだった。

 私は尋ねた。

 「翁長知事はなぜ、新基地建設に反対しているのでしょうか。基地容認派ともいわれた知事を変えたものは何だったのでしょうか」

 その日、翁長知事は就任半年の節目を迎えていた。「そもそも」といった質問を口にすることに気が引けないではなかったが、知りたい気持ちが上回った。

 編集局次長の表情からは笑みが消えていた。

 「その質問は地元紙の記者にはできない。なぜか。答えの中身によっては、知事の覚悟が本気なのか、口先だけなのかが分かってしまう。だから怖くてできない」

 県民に刻まれた苦い記憶。仲井真弘多前知事は辺野古移設反対を掲げて2010年に再選を果たした。それも結局、民主党から自民党への政権交代を経て、移設に向けた埋め立て工事の申請を受け入れることになった。「知事が意志を貫く覚悟があるのか、常に疑心暗鬼。仲井真前知事には多くの県民が裏切られた思いだった。『同じように』という疑いが消えない」

 翁長知事は自民党の那覇市議として政治家の道を歩み始め、県議、那覇市長を歴任。仲井真前知事の選対本部長も務めた。自ら「日米安保が大切で、安全保障は日本国民全体で考えるべきだという私の主張は、自民党の姿勢そのものだった」と語る保守政治家だった。

 期待の大きさゆえの不安なのだと私は思った。「その翁長さんが保守と革新の立場を超え、一つになろうと呼び掛け、多くの県民から支持を得た。基地闘争史の大きな一ページとなった」と力を込める編集局次長は続けた。「あすの会見でぜひ、本人に直接聞いてみてください」

問 い



 話し始めた翁長知事の口ぶりはよどみなかった。

 「父も兄も保守の政治家だった。本土復帰前から革新と厳しい闘いをした。右だ左だと親戚も分かれて争った。私がずっと思っていたのは、自分で望んで持ってきたわけでもない基地を挟んで、なぜ沖縄県民が闘わなければならないのか。『誰か上から見て笑っている人間がいませんか』という思いを10代のころから抱いていた」

 14年11月の知事選に出馬した決断を熱っぽく語る。

 「私はピエロになるのではないかと思った。だが、『もういい』と。思いを遂げられるか否かは、時代の状況や時の政権の体質もある。5年後には沖縄にとっていい時代が来るかもしれないが、そのときは70歳だ。政治家として自分の人生を考えたとき、政治家としてやるべきだと考えたわけです」

 堂々とした響きに会見場は静まり返っている。

 「沖縄がなお蹴散らされるかはこれからの問題だが、地方、地域が中央からどんな扱いを受けるのか、地方からしっかりもの申さなければならない。今のままでいけば、皆、中央になびき、それも恥ずかしいくらいになびき、その恥ずかしさを誰も感じない。それが今の日本の難しさなのだと思っています」

 沖縄はやはり一人置き去りにされるのか-。その問い掛けが重たく響き、私はしばらく立ち上がることができなかった。

足 元


 それは本土メディアに向けた呼び掛けであり、静かなる叱咤(しった)であった。

 「地方」「地方自治」と繰り返すこと10回を数えた。

 米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設先として辺野古を「唯一の選択肢」とする安倍政権は今夏にも、埋め立ての本工事に着工する構えだ。対して翁長知事は知事権限を行使し、着工を拒む考え。この日の会見では「県の公益が国の公益を上回れば撤回できる」と初めて具体的に言及。前知事による埋め立て承認の取り消しや撤回の判断を8月上旬にする方向で調整している。

 会見に同席した琉球新報の松元剛編集局次長には安堵(あんど)の笑みが広がっていた。

 「今日の会見を聞いて、知事の決断を疑う地元の記者はもういないと思った。知事は一言、今日話ができて良かったと言って帰っていった」

 翁長知事はこうも言っていた。

 「地方自治が侵されることがないよう、形式的とはいえ、地方と国とは対等な関係だとうたわれている。地方から日本を変えてやるぐらいの気持ちでいないといけない。中央政権的で歯止めのない現政権のやり方で物事を進めていけば、厳しい事態に陥りかねない」

 例に引いたのは東京電力福島第1原発事故のことだった。「ノーというものはノーと言い、連帯をしていかなければならない。沖縄だけの問題ではない」

 沖縄の基地問題を普遍化できないように、国対地方の視点を欠いてきた不明を恥じた。


日本記者クラブの会見で思いを語る翁長知事=6月11日、沖縄県市町村自治会館
日本記者クラブの会見で思いを語る翁長知事=6月11日、沖縄県市町村自治会館

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