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大動脈の安全に課題 東京五輪控え対応強化の声も

社会 神奈川新聞  2015年07月01日 03:00

 列島の大動脈、東海道新幹線車内で男が油のような液体をかぶり、火を付けた事件は関係者に衝撃を与えた。大量の旅客を輸送し、利便性と正確なダイヤを売りにする一方、荷物検査は行われておらず、危機管理の専門家からは対応強化を求める声も。2020年東京五輪・パラリンピックを控え、テロ対策の観点からも大きな課題が突き付けられた。


▼過去議論も
 鼻を突く異臭、充満する煙。東京から新大阪に向かうのぞみの先頭車両で異変は起きた。後方の車両へ逃げ出す乗客。ある女性は「怖かった」と身を震わせ、言葉を継げなかった。

 JR東海によると、東海道新幹線の1日当たりの平均乗客数は約42万4千人(13年度)。1編成(16両)の定員は1323人で、1時間当たりの運転本数は最大15本に上る。

 国土交通省によると、ガソリンなど可燃性液体の持ち込みは鉄道営業法などに基づき原則禁止されているが、乗客の荷物検査は実施されていない。東海道新幹線では1993年、今回と同様に走行中ののぞみ車内で会社員が刺殺される事件が起きたが、その後も荷物に危険物が混入していないかチェックする体制は取られてこなかった。

 国交省の担当者は「過去に内々で議論したことはあるが、なかなか厳しい」と打ち明ける。混雑する駅で、乗客全員を対象に短時間で検査をするのは難しいためだ。

 JR東海の担当者も「利便性を考えると、空港のように一人一人を止めて荷物を検査するのは困難」とし、警備員の巡回や防犯カメラの設置で安全対策に努めていると強調する。他のJR各社も「検査するとなると、どれほどの時間がかかってしまうか。現実的ではない」(JR東日本)、「不特定多数の人が利用するため危険物や凶器は事前に調べようがない。性善説に立つしかない」(JR九州)と頭を抱える。JR西日本の広報担当者は「今後、踏み込んだ対策が求められるかもしれない」と語った。


▼エックス線
 海外では、日本の新幹線とは運行本数などが異なるものの、相次ぐテロへの対策として高速鉄道の主要駅などで乗客の荷物検査を行っているケースもある。

 英国のロンドンとフランスのパリを結ぶ高速鉄道「ユーロスター」は、駅で乗客のパスポートを確認する際に荷物検査を実施。英政府は1月、フランス週刊紙銃撃事件を受け、フランスから英国に向かう人や車両の検査を強化すると表明した。

 04年に列車爆破テロがあったスペインでも、駅で高速鉄道に乗車する際、エックス線による荷物検査を実施。ロシアでも首都モスクワなど主要都市を結ぶ高速鉄道などで、乗客の荷物を金属探知機で検査している。

 一方、フランスの「TGV」や、ベルギーを中心にフランス、オランダ、ドイツを結ぶ「タリス」は荷物検査をしていない。


▼国民の理解
 日本でもテロへの警戒が高まる中、専門家からはこれまでの対応の甘さを問題視する声も出ている。

 「新幹線がテロなどの標的になりやすいことは以前から分かっていたのに、日本では危険性を語ることはタブー視されてきた」。青森中央学院大大学院の大泉光一教授(危機管理論)は厳しく指摘する。

 今回の事件は公共交通機関での安全対策の不備を露呈した格好だと危機感を示し「乗客の所持品チェックは行うべきだ。鉄道事業者だけではなく、国民の理解も重要になる」と話した。


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