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就労体験の現場・横須賀発<中> 理解者 「その子なり 自然に」

社会 神奈川新聞  2015年06月05日 13:42

心を開き、農作業にも慣れた女性2人を温かく見守る鈴木秀子さん(左)=みうら鈴木園
心を開き、農作業にも慣れた女性2人を温かく見守る鈴木秀子さん(左)=みうら鈴木園

 5月下旬の三浦半島。夏の到来を予感させる太陽の下、日よけ帽をかぶって農作業に励む若者たちの姿があった。

 横須賀市は本年度、ひきこもりの人や生活困窮者を社会復帰につなげるために正式に就労体験を事業化した。事業化前から先駆的に若者を受け入れてきた三浦市南下浦町上宮田の農業「みうら鈴木園」では現在、横須賀市の紹介で2人の女性が働いている。

 同園に通いだして3年目になる加奈子さん(22)=仮称=は、小学5年生の時に同級生とのトラブルで「学年全体からいじめられた」というつらい過去を持つ。人間不信に陥り、長らく家にこもった。「あのころの恐怖感が拭い去れなくて、一歩を踏み出すのが難しかった」。将来の展望を描けなかった。

 「いまだ心のどこかに引っ掛かっている。また拒絶されたり、ひどいことをされたりしないかと。でも、家の中にいるのも良くないので働きたい」。同園でも当初は戸惑ったが、もう慣れた。トマトやカボチャ栽培のほか、ミカン畑で木の枝切りなども手伝う。

 17歳のさくらさん=仮称=は中学卒業後から就職先を探している。下に3人のきょうだいがおり、家計は楽ではない。だが、履歴書を送っても面接にたどり着くのも難しく、不採用の連続。やはり、小学校と中学校でいじめに遭い、1年間ひきこもった。夢は「料理関係の仕事がしたい」という。

 同園の鈴木孝代表取締役(41)は、横須賀市の依頼前から発達障害の高校生を受け入れるなどしてきた。おいが重度障害者で、行く末は「障害者も働ける場所にしたい」という思いが根底にある。そして、若者たちを温かいまなざしで迎え入れてきたのが母の秀子さん(72)。三浦市の民生委員を務め、精神障害者支援のボランティア活動も続ける。

 秀子さんは「その子なりに、自然にここにいられるような状況をつくっていければ」と心掛ける。相手の細かな事情には踏み込まず、向こうから口を開くまで気長に見守り続ける。加奈子さんについては「最初は暗かったけれど、表情が劇的に明るくなり、今では私の体を気遣ってくれる」と変化を肌で感じ取る。

 学校教育から離れたひきこもりの若者は、周囲の見守る視線が届かなくなり孤立しがちだ。だからこそ、横須賀市の担当職員は「近くに理解者がいることが大事で、社会との絆をつくり直してあげることが先決だ」と話す。

 加奈子さんは言う。「いきなり働くのが無理な場合もあるので、実体験を踏むことで自信がつく」。ただ、これだけは分かってほしい。「私と同じ状況の人がたくさんいると思うけれど、普通の人には『ただ怠けている』と思われがちだし、偏見もある。そうやってひとくくりにされるのは、本当に嫌だ」


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