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刻む2016〈6〉川崎中1殺害裁判 暴力に潜んだ孤立

社会 神奈川新聞  2016年12月21日 14:48

事件から1年後の命日、多くの大人たちが殺害現場に置かれた上村さんの遺影の前で手を合わせた=2月20日、川崎市川崎区の多摩川河川敷
事件から1年後の命日、多くの大人たちが殺害現場に置かれた上村さんの遺影の前で手を合わせた=2月20日、川崎市川崎区の多摩川河川敷

 なぜ、SOSに気付けなかったのか。

 学校や地域の大人たちから、13歳で命を奪われた被害少年の無念さを思い、助けられなかったことを悔やむ声が何度も聞こえてきた。不登校といった「異変」に、もっと危機感を抱くべきだったと。

 一方で、加害少年たちにもあったはずの変化の兆しに、周囲はどれだけ気付けていただろうか。

 昨年2月、川崎市川崎区の多摩川河川敷で、当時中学1年生だった少年が殺害された事件。今年2月から続いた加害少年3人の裁判員裁判では、寒空の下、連日多くの人が傍聴券を求めて横浜地裁に集まった。法廷で浮かび上がったのは、厳しいしつけや複雑な家庭環境に置かれていた少年たちの姿だった。

 どんな理由があろうと、カッターナイフで何度も切り付け、真冬の川を泳がせた行為が正当化されることはない。まして、人の命を奪うことなど許されるわけがない。

 しかし、そうした残忍な犯行に及んだのも、被害者と同世代の少年だ。事件当時17歳だった無職少年の祖母は裁判で語った。「(孫は)あまりにも家族と一緒にいなかった。居場所もなかった」

 見逃されたSOSは、被害者だけでなく加害者を生む可能性もある。悲劇を繰り返さないためには何が必要か。裁判を傍聴しながら、問い続けてきた。

見えにくい存在 


 裁判を前に少年らを知る人物を探そうと、取材班は夜の川崎のまちを歩き回った。バスケットボールをしていた公園や、たまり場だったゲームセンターなどに何度も足を運んだ。

 事件発生から約1年、加害少年らをよく知る人物は簡単には見つからない。高校を中退した3人が、いかに狭い人間関係の中で生きていたか、周囲から見えにくい存在だったかを表しているようにも思えた。

 事件当時18歳だった主犯格の少年と1学年下の無職少年は、別の傷害事件や窃盗事件で保護観察中だった。学校や家族以外の大人たちと接する機会はあったはずだ。にもかかわらず、なぜ孤立を深めていったのか。反省して立ち直ることはできなかったのか。

 「小学生以降、父親から体罰を含む厳しいしつけを受けていた。中学時代にけんかを売られて勝ったが、報復で不良少年に追い回された体験などがトラウマになったと推測される。言葉による解決能力が弱く、暴力容認の価値観がある」

 主犯格の少年の裁判で、情状鑑定した臨床心理士がこう証言した。

 1学年下の少年の裁判でも、臨床心理士が事件当夜の心理を説明した。「2度にわたり海外での単身生活を強いられ、高校進学後は居場所や安らぎを求めて非行仲間に接近した。上村さんを呼び出した楽観や危機意識の乏しさは、不遇を耐え続ける成育過程で生じた無力感が作用している」

 母親はフィリピン出身で、実父とは籍を入れず離別。

少年が2歳の時に別の男性と結婚し、妹の誕生後に離婚していた。少年は裁判で、中学時代に殴られたり、万引の見張りをさせられたりしたことを明かしたが、「(母親に相談は)していない。話しても分からないと思った」。

 法廷で、難しい質問にはタガログ語で答えた母親。母子の話し合いが十分なされていたか、と問われた少年は「タガログ語が理解できず(話を)流していた。言っても分からないことがあるから、伝えなくていいと思った」と繰り返した。


 2人の少年に、そうした家庭や学校の悩みを相談する場はあったのか。非行がエスカレートして大きな事件を起こすまで、周囲の大人が何か気付くことはできなかったのか。

 疎外感に裏打ちされた暴力-。

 10代のころ非行を繰り返し、少年院に3回入った男性会社員(26)は、当時の自分をこう振り返った。「親から暴力を受けていた。なぜ、世間で否定されている行為が自分の身に起きているのか分からなかった」。暴力が悪いというなら、どうして誰も自分を助けてくれなかったのか。導き出した結論は、「弱いやつが悪い」。暴力が肯定化されていったという。

 では、どうしたら負の連鎖を断ち切ることができるのか。前述の臨床心理士は、判決後の取材にこう答えている。

 「成育過程で生じた被害感を十分に取り扱うことで自らの弱さを直視し、ほかでもない加害者であると自覚する。そこから贖罪(しょくざい)は始まる」

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