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時代の正体〈96〉安倍首相の言葉(1)

時代の正体 神奈川新聞  2015年05月15日 12:21

自衛隊の海外活動拡大を図る新たな安全保障関連法案を臨時閣議で決定し、記者会見する安倍首相=14日午後、首相官邸
自衛隊の海外活動拡大を図る新たな安全保障関連法案を臨時閣議で決定し、記者会見する安倍首相=14日午後、首相官邸

 安全保障関連法案の閣議決定を受けた会見に立ち、安倍晋三首相は強調した。「国民の平和と暮らしを守り抜く」。そして「戦争法案などといった無責任なレッテル貼りは全くの誤りだ」。集団的自衛権行使も可能になり、専守防衛の自衛隊の任務は地球規模に拡大した。それでもなお語られる「平和」。戦後日本の大転換に手を掛けた首相の言葉を問う。

「リスク減」不透明


 安倍首相は言葉に力を込め、言い切った。

 「米国の戦争に巻き込まれるのではないか。そのようなことは絶対にあり得ません」

 指摘されるさまざまな懸念は杞(き)憂(ゆう)にすぎないと強調するように、こうも言った。

 「平和安全法案を整備することは、結果として紛争に巻き込まれることも、日本が攻撃を受けることも、日本人の命が危うくなることもリスクとしては減少していくと考えている」

 日米同盟の実情に詳しい拓殖大大学院の川上高司教授はしかし、疑問を呈する。

 戦争に巻き込まれることもあり得る。自衛隊が後方支援で行ったとき、平和維持活動(PKO)で米国や国連の部隊と一緒に行ったとき、テロに襲われ、戦闘に巻き込まれる事態はあり得るのではないか。

 抑止力でリスクが減っていくということは断言できない。

 抑止力とは万が一の事態に備えるためにあり、危険自体が減るとはいえない。こちらが戦争の備えをすれば、向こうも戦争の備えをする。安全保障のジレンマに陥る可能性がある。抑止力強化は不可欠であるが、同じくらいそれを低減するための信頼醸成措置、つまり外交努力が欠かせない。

 歴代首相は、日米防衛協力指針(ガイドライン)の改定や防衛関連法案を定めるときには、まずは、諸外国に対して丁寧に説明を行った。「近隣諸国との対話を通じた外交努力を重視している」と言うが、肝心の中国に対して十分に説明をしたのであろうか。外交の本質は脅威を下げる努力である。

 「集団的自衛権を行使するにあたり、三つの要件による厳格な歯止めを法律案の中にしっかりとそろえた」というが、本当に歯止めになるのだろうか。国会の事前承認というが、重要影響事態の場合は、例外措置があって、事後承認でもいいということを言っている。

 今回の安保法制整備によりリスクが増えることはない、と強調する安倍首相は自衛隊についても言及した。

 「自衛隊がかつての湾岸戦争やイラク戦争に参加するようなことは今後も決してない」。そして「自衛隊発足以来、今までも1800人の隊員が殉職されている」。

 想定されている「ペルシャ湾の機雷掃海」は戦争参加に当たらないということを意味しているのであろうが、果たしてそうか。法案を整備し、戦闘地域外で後方支援の一環で機雷掃海をした場合でも、相手側からすれば「日本も戦争に参加している」と見られかねない。

 1800人が殉死したのも災害派遣によって。記者の「自衛隊員が危険にさらされるのでは?」という質問に対する答えが不十分。PKOで駆け付け警護などで犠牲になった場合はどうなのか、どういう武器を用いて、どういう危険性があるのか、を尋ねた質問だと思うが、答えになっていない。

後方支援も「戦場」

 「もはや一国のみではどの国も自国の安全を守ることはできない事態であります。この2年、アルジェリア、シリア、そしてチュニジアで日本人がテロの犠牲となりました」

 会見の冒頭、わずか十数秒で安倍首相が引き合いに出した「テロの犠牲」。中東で戦場取材を積むジャーナリストの安田純平さん(41)はそこに欺瞞(ぎまん)をみる。

 同じジャーナリストとして親交のあった後藤健二さん、同じくシリアで命を落とした湯川遥菜さん。「2人の救出のために政府はほとんど何もしなかった。安倍首相は安保法制整備の理由に『邦人保護』を挙げたが、その気があるとは思えない」

 安倍首相はやはり邦人の命を持ち出し、こうも言うのだった。

 「日本のNGOの人たちに危険が迫り自衛隊が救援を頼まれて、しっかり装備している自衛隊員が救助に行けなくていいんでしょうか」

 やはりこうした場面でテロの犠牲者を政治的に利用してくるのだなと思いやられる。人命への冒涜(ぼうとく)でしかない。

 安倍首相は日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増していると言うが、そのことと中東のテロの話はどう関係があるのか。会見を一通り聞き、邦人保護というより、もっと自衛隊を海外へ派遣したいという本当の目的が透けて見えた。論理のすり替えと、ごまかしで満ちた説明だと思った。

 危ういと感じるのは、これからやろうとしていることがどういうことなのか、安倍首相本人は理解できているのか、よく分からない点にある。

 安倍首相は断言した。

 「国際貢献の幅を一層広げて参ります。わが国の平和と安全に資する活動を行う米軍をはじめとする外国の軍隊を後方支援する法改正も行います。しかし、いずれの活動においても、武力の行使は決して行いません。そのことを明確に申し上げます」

 後方支援というが、それはすなわち戦争の内実なのだということが分かっているのだろうか。

 戦争とは後方支援地域の拡大にほかならない。最前線では支配地域を拡大させようと武力による攻防が行われる。だが戦争全体でみれば大半は後方支援だ。

 今回の法整備によって、例えば基地から基地への輸送も担えるようになる。それこそ襲撃の対象になる。実際の紛争における他国軍の被害をみれば、輸送中に襲撃されるケースは少なくない。襲撃を受ければ当然反撃せざるを得ない。だが現実には襲撃してきた敵が一体どの勢力なのかといった情報はおそらく把握できないだろう。闇雲に反撃することになり、戦闘が際限なくエスカレートする可能性はいくらでも考えられる。

 かわかみ・たかし 1955年熊本県生まれ。拓殖大海外事情研究所所長・教授。防衛庁防衛研究所主任研究官などを経て現職。著書に「日米同盟とは何か」「アメリカ世界を読む」など。

 

やすだ・じゅんぺい 1997年信濃毎日新聞入社、2003年フリージャーナリスト。04年イラク・ファルージャ近郊で武装勢力に拘束。その後も戦場取材を続けシリア内戦、イラクなどを取材。


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