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時代の正体〈94〉与党合意を問う(下)

時代の正体 神奈川新聞  2015年05月13日 15:48

最終合意を受け会見する与党幹部と詰め掛けた報道陣=11日、衆院第2議員会館
最終合意を受け会見する与党幹部と詰め掛けた報道陣=11日、衆院第2議員会館

 自民、公明両党の与党協議で11日に最終合意した安全保障法制。会見では高村正彦自民党副総裁と北側一雄公明党副代表が並んで説明に立った。その発言と法案の中身を軍縮・安全保障に詳しいNPO法人ピースデポの塚田晋一郎さん(32)と、沖縄の基地問題や外交に詳しい民間シンクタンク新外交イニシアティブの猿田佐世さん(38)に聞いた。

 「例えばPKO(国連平和維持活動)5原則に合致していない場合でも『重要影響事態』だとして自衛隊を使うことはあり得るか」という記者の質問に公明党の北側一雄副代表は「適用する場面が全く違う」と応じた。自民党の高村正彦副総裁も「北側さんの言う通り」と口をそろえた。

 紛争当事者間で停戦合意が成立していることなどをPKO参加の条件とする5原則と、日本の平和と安全に重要な影響がある場合、日本周辺以外でも米軍など他国軍を支援できる重要影響事態。明確な使い分けができるだろうか、と塚田さんは眉をひそめる。疑念は法文の随所に散見される。

 日本の安全保障は「平時」「有事」「周辺事態」と三つの局面を想定した法体系で形づくられてきた。新しい法案では、従来の法体系を一変させ、「国際平和共同対処事態」「国際連携平和安全活動」「重要影響事態」「存立危機事態」といった新しい概念をつくりだし、非常に複雑な枠組みになっている。

 専守防衛の日本の安保は「外から来る危機を未然に防ぐ」という概念でやってきた。ところが今回の法案では、恒常的に日本とは直接関係のない海外へ自ら出向いて行くことを前提にしている。安保の思想が百八十度変わること意味している。

 米軍を後方支援する自衛隊は客観的にみれば一体的にみなされる。海外に拠点を置く日本企業や在外邦人はもちろん、国内でもこれまで以上に危険にさらされることになるだろう。そのリスクを背負うという覚悟が政治家や国民にあるのだろうか。


 与党協議が最終合意に至ったことについて記者から問われた北側副代表はこう話した。

 「最も大事なことは国会に法案が提出され、国会の論戦、論議の中で政府が分かりやすく説明し、国民の皆さまに理解を得ていくこと」

 話の順序が逆だと塚田さんは切り捨てる。「国会や国民への説明もなく多くのことを決め、後から『ちゃんと説明します』というのは不条理」

 複雑な法体系は本来の狙いを覆い隠すためだろう。

 狙いは米軍の求めに応じて海外へ自衛隊を派遣しやすくすること。だがそれを正面から宣言してしまっては批判をまともに受けてしまう。


 10本あった法律を「平和安全法制整備法」という1本にまとめてしまっていることにもそれは表れている。国会審議を手早く済ませたい思惑もあるのだろう。本来は自衛隊法一つとっても、重要な改正があり、一つ一つ時間をかけた審議が欠かせないはずだ。

 日米外交や安全保障に詳しい猿田さんも、北側副代表の「適用する場面が違う」という断言に首をかしげる。「法律は、こうした場合にこう適用するという一定の想定があってこそ成り立つ。今回の法案ではその説明がない」

 安保法制を成立させるという目的が先行してしまい、語られるべき「必要性」がどこにあるのかが不透明だからだ、と猿田さんは指摘する。

 一生懸命勉強し、今回の安保法制を理解しようとしている人でも難解なのではないか。弁護士として働き、日米外交を専門にしている私でもすっきりしない部分は少なくない。突き詰めると、北側副代表の言う「適用する局面が異なる」という切り分けが果たしてできるのだろうか、という疑問に行き着く。

 懸念は1発の銃弾から事態が切れ目なく発展し、それに伴ってなし崩し的に「事態」も適用法文も変化し、自衛隊の活動が切れ目なくエスカレートしてしまうことだ。


 同じ疑問は「(地球の裏側で自衛隊が武力を行使することは)ちょっと考えられない。思い浮かばない」という自民党の高村副総裁の発言にも猿田さんは感じている。

 法整備に当たっては、発生しうる事態に現行法では対処しきれないので法改正する必要があるという「必要性」がまず論じられるべきだ。こうした順序なら想定される事態が示されるため、国民も理解しやすい。

 だが今回、こうした具体的な事例に則した必要性の議論はほとんどなされていない。断片的にホルムズ海峡での機雷掃海など数例が挙げられたが、それも位置付けはあいまい。現実にはどの法文が適用されるケースなのか、明確に線が引けない場面が出てくる可能性がある。

 なぜこうなってしまったのかと言えば、米軍の負担を軽減するために日本が自衛隊の活動範囲を広げ、日米同盟を強化することで強大化する中国に対抗するという目的が先にあるからだ。


 つまり法整備自体が目的化している。

 2014年7月の閣議決定から与党協議が整うまでに1年もたっていない。日本の安保政策が一変する重大な法改正にもかかわらず、国民的議論はなく、検討の過程も断片的に知らされたにすぎなかった。矢継ぎ早に新しい「事態」が定義されたりしながら、法案が出来上がっていった。

 そもそも世界の国々の平和に寄与することが、なぜ日本の平和につながるのか。説明を欠いていることが多すぎる。

つかだ・しんいちろう 1983年東京都生まれ。ピースデポ事務局長代行、集団的自衛権問題研究会研究員。2008年明治学院大国際学部卒、ピースデポで核軍縮や沖縄米軍基地問題を調査研究。

さるた・さよ 1977年愛知県生まれ。02年弁護士登録。09年米国ニューヨーク州弁護士登録。日本の国会議員の訪米を企画するなど直接の日米外交交渉を企画運営。新外交イニシアティブ事務局長。


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