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障害者総合支援法、見直しに着手 “縦割り”打破できるか

社会 神奈川新聞  2015年05月08日 10:55

議論の時間的制約に懸念も示された社会保障審議会障害者部会=4月28日、TKPガーデンシティ御茶ノ水
議論の時間的制約に懸念も示された社会保障審議会障害者部会=4月28日、TKPガーデンシティ御茶ノ水

◇常時介護などに焦点
 障害者総合支援法が施行3年目に入り、社会保障審議会障害者部会(部会長・駒村康平慶大教授)が同法の見直し作業に着手した。年末をめどにとりまとめを行い、必要事項は来年の通常国会で法改正を行うというスケジュールだ。ただ、論点は多肢にわたり、短い検討期間で十分な成果を挙げられるのか疑問の声も。障害福祉以外の制度に関わる論点もあり、部会の対応が注目される。



 2013年4月に施行された総合支援法は障害者施策を段階的に進めるため、施行後3年をめどに見直しを行うと付則で定めている。制定時の積み残しの課題のほか、14年1月には障害者権利条約も批准され、多くの問題が浮上している。そのため同年12月には有識者7人のワーキンググループを設置。当事者、家族、事業者、関係機関など38団体のヒアリングを行い、論点を整理して部会に示した。

 論点は、常時介護、移動支援、就労支援、支給決定の在り方、意思決定支援・成年後見制度の利用促進の在り方、意思疎通支援、精神障害者支援、高齢障害者支援、障害児支援、その他のサービスの10分野で計40。ただし各論点は抽象的な問題提起にとどまっている。



■拙速の懸念■
 見直し論議の第1回、4月28日に開かれた障害者部会では、早速委員から懸念の声が噴出した。

 事務局の厚生労働省が示したスケジュール案は、5月末から6月中旬に4回程度で関係団体のヒアリングを行い、7月から11月は月2回程度の開催で個別論点を議論し、11月から12月をめどにとりまとめを行うとした。実質審議は4、5カ月間で10回程度という時間的制約に委員の1人は「無理は無いのか。時間切れで生煮えのまま終わりにしてはならない」と声を上げた。

 来年度の制度改正を目指すべき論点と中長期の論点の仕分け、新制度・サービスを導入する場合は具体的な制度設計などについて、駒村部会長は「今後の進め方はこれから議論していく」としている。


■予算の制約■
 また、第1回の議論で強調されたのが厳しい財政状況だ。委員からは「予算全体の中で考えざるを得ない」「医療と福祉の間、厚労省の所管内、障害福祉分野内で、予算の再配分を検討する必要がある」などと厳しい認識が相次いだ。

 障害福祉サービスは障害者の基本的人権の保障であり国の義務だ。保険制度である年金、医療、介護とは原理も異なる。国の社会保障関係費約31兆5千億円のうち、支援法の自立支援給付費は約3%の約9330億円にすぎず、「経済協力開発機構(OECD)諸国と比べ障害福祉予算はまだ足りない」というのが関係者の一致した見解だ。

 しかし、危機的な財政状況の中で障害福祉だけが聖域でいられるはずもない。大幅な予算増は見込めず、新たなサービスの創設には、既存のサービスの見直し、整理も検討する必要があると指摘された。

 29人の委員の多くは関係団体の代表者。「国民の視点で出身団体を超えた議論をしたい」との掛け声も上がったが、「痛みを伴う議論は難しい」との冷ややかな見方も。必要なニーズに応え、かつ国民の後押しを得られる議論を展開できるのか課題だ。



■垣根を越え■
 40論点の中には、行政の垣根を越えた対応が欠かせない論点もある。

 成年後見制度の後見類型の利用促進は、障害者権利条約に抵触するとの指摘もあり重要な論点だが、所管は法務省。関係団体からは「法務省など関係省庁、関係団体との間に障害当事者が過半数で構成される検討の場を設けるべきだ」との意見も出されている。

 また、長期入院している精神障害者の地域生活への移行ではグループホームの整備などが不可欠で、財源は退院で浮いた医療費を回すのが合理的だ。しかし、医療と福祉で別々となっている「財布」の壁が立ちはだかる。

 縦割り行政を打破する検討ができるのかが問われる。


○抜本的改革必要な課題も
 注目される論点には、ワーキンググループのヒアリングで多くの団体から要望が出た「パーソナルアシスタンス制度」の創設や障害者の生活の質を左右する移動支援の充実、そして就労支援の問題などがある。

 パーソナルアシスタンス制度は、利用者の主導で、利用者の信任を得た特定の人が包括的、継続的に介助を行う制度。2011年の「障がい者制度改革推進会議総合福祉部会」の提言でも創設が求められていた。

 国内では札幌市が10年度から独自に制度化。市が重度身体障害のある利用者に費用を支給し、利用者は費用の範囲内でライフスタイルに合わせて介助者と直接契約を結び介助を受ける。ヘルパー資格がなくても地域の人が有償の介助者になることができ、障害の特性やニーズに応じて柔軟に介助を受けることができる。ただし、利用者には介助者の確保、指導、シフトの調整、報酬の支払いなどの責任、負担も生じる。

 制度化にあたっては、対象を重度の身体障害者に限定するのか、費用の直接支給のメリット・デメリット、介助者の要件、介助者へのバックアップ体制などが検討課題だ。

 また、単独で外出が困難な障害者にヘルパーが付き添い、誘導や車いすの介助などを行う移動支援も課題の一つ。現在は、市町村が地域の特性などに応じて実施する地域生活支援事業の位置付けだが、多くの団体が「支援法の個別給付とすべき」と主張している。対象も「通園、通所、通学、通勤、社会参加など、通年かつ長期にわたる外出等においても利用できるようにするべき」などの声が上がっている。

 16年4月施行の障害者差別解消法で定める合理的配慮から、「通勤時の移動支援は福祉サービスではなく企業側が提供することが必要」との指摘もある。地域の現状への評価、財源問題、差別解消法との関係など、部会の判断が注目だ。

 就労に関する制度的枠組み、賃金補填(ほてん)、所得保障の問題は、障害者の自立と国民負担軽減をともに実現させ得る重要な論点。抜本的な制度改革が必要になるだけに、中長期の検討体制の構築が課題だ。

障害者支援法見直しの主な論点



(1)常時介護
・パーソナルアシスタンスについて、どう考えるか。
・パーソナルアシスタンスと重度訪問介護との関係についてどう考えるか。
(2)移動支援
・個別給付に係る移動支援と地域生活支援事業に係る移動支援の役割分担についてどう考えるか。
・個別給付に係る移動支援について、通勤・通学等や入所中・入院中の取り扱いをどう考えるか。
(3)就労支援
・障害者の就労に関する制度的枠組みについてどう考えるか。
・労働施策等の福祉施策以外との連携についてどう考えるか。
(4)支給決定の在り方
・支給決定プロセスの在り方をどう考えるか。
(5)意思決定支援・成年後見制度の利用促進の在り方
・障害者に対する意思決定支援についてどう考えるか。
・成年後見制度の利用支援についてどう考えるか。
(6)意思疎通支援
・意思疎通支援事業についての財政的措置のあり方についてどう考えるか。
(7)精神障害者支援
・病院から地域に移行するために必要なサービスをどう考えるか。
・総合支援法における意思決定支援と、精神保健福祉法の「精神科病院に係る入院中の処遇、退院等に関する精神障害者の意思決定及び意思の表明の支援の在り方」との関係性についてどう整理するか。
(8)高齢障害者支援
・障害福祉サービスの利用者が介護保険サービスへ移行する際の利用者負担について、どう考えるか。
・障害者総合支援法第7条における介護保険優先原則について、どう考えるか。
(9)障害児支援
・医療的ケアが必要な障害児や重症心身障害児をはじめ、障害児支援の質の向上をどのように図っていくか。
(10)その他のサービス
・障害福祉サービス等の利用者負担の在り方についてどう考えるか。


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