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辺野古新基地建設考(1)
時代の正体〈85〉ゲート前は学びの場

時代の正体 神奈川新聞  2015年04月30日 10:52

キャンプシュワブのゲート前で本土の大学生とともに立つ元山さん(右)=1月24日、名護市辺野古(元山さん提供)
キャンプシュワブのゲート前で本土の大学生とともに立つ元山さん(右)=1月24日、名護市辺野古(元山さん提供)

 喧噪をよそに紺碧(こんぺき)の海はこの日もないでいた。

 国際基督教大教養学部4年生の元山仁士郎(じんしろう)さん(23)が都内の下宿先から故郷の沖縄へ飛んだのは1月下旬のことだった。「試験前で迷ったけれど、勉強なら座り込みをしながらやればいい、と」。米軍普天間飛行場に代わる新基地の建設予定地、辺野古の海で何が起きているのか、その目で確かめたかった。

 建設予定地に隣接する米軍キャンプ・シュワブ。そのゲート前で続く抗議活動の輪の中で元山さんがマイクを握った。

 「僕は沖縄で生まれ育った。自分の子どもがまた沖縄で育つとき、どんな世の中になっているのか。本当に考えさせられる」

 集まった反対派は約100人。1週間前、埋め立て工事再開に向けた資材の搬入が確認されていた。止まらぬ基地建設の動き、無視される反対の声。沖縄ならいいのか、沖縄だからいいのか。

 「国家とは何か。その暴力とは。民主主義とはどうあるべきか。ここにいるとよく分かる。学びの場なのだと思う」

 道路を挟んだゲート前を沖縄県警の警察官が固めている。時代の裂け目、沖縄と本土の深淵、沖縄の分断がいまここに口を開けている、と実感した。

 
■異常□

 実家は普天間飛行場から歩いて10分、米軍機が離陸する滑走路の延長線上にあった。

 都内の予備校に通うために19歳で上京し、故郷が「世界一危険な町」と呼ばれているのを知った。ジェット機やヘリコプターの爆音が響かない生活を初めて経験し、「沖縄での日常は異常だったのだと気付いた」。基地があるのは当たり前で、その存在に疑問を抱くことはなかった。

 「米軍に雇われて仕事をしている親戚もいれば、米兵の父親を持つ友人もいる。『米軍基地があるのはおかしい』と言えば、その人たちの存在を否定しかねない。そういうこともあって基地を話題にすることはなかった」

 一方、東京では基地を目にする機会がほとんどなく、沖縄の日常を想像できない。故郷では毎日のように報じられる基地に関する動向や米兵による事件・事故のニュースもめったに取り上げられなかった。

 沖縄と本土に共通して欠けているものがあると感じた。

 「必要なのは意見を戦わせることではなく、疑問に思ったことを自由に語り合い、情報を共有することだ」

 2014年、思いを同じくした沖縄出身の大学生と「ゆんたくるー」を立ち上げた。

 
■共感□

 団体名にある「ゆんたく」は沖縄の言葉で「おしゃべり」という意味。沖縄県知事選1週間前の昨年11月、辺野古を巡るバスツアーを主催した。主張を声高に唱えるデモではなく、まずは現状を知ることが大事だと考えた。沖縄県在住の高校生や主婦ら50人が参加した。

 共感の輪を本土で広げる必要もあった。現地に一緒に行こうとLINEで呼び掛けると、3人の学生の手が挙がった。

 キャンプ・シュワブのゲート前。沖縄県内の大学生も加わり「ゆんたく会」が開催され、インターネット上で実況中継された。

 〈ゲート前の座り込みに夕方から参加しています。常時30人近く参加してる。夕方からは特に大きな動きはなくてテントで待機。高校生、大学生、おじい、おばあと幅広い年代の人が参加しています〉
 〈この時間に名護のお母さんからおにぎりの差し入れ! あったけーーーー!!!抗議に参加してんのは座り込みに参加している人だけじゃない〉
 〈七輪囲んで沖縄談義して基地談義して。話した人の中に明確な答え持っている人なんて一人もいなかった。頭整理つかん〉
 シュプレヒコールを叫ぶのではなく、自分たちの言葉で語りたかった。「怖い、物々しいという印象を持たれたら、一緒に何かをしようとは思われない」

 わずか3日間だったが、動画や書き込みを見て辺野古に向かう学生が一人、また一人と現れた。3月下旬には都内で「沖縄 日本の自由民主主義」と題するシンポジウムを開き、約50人が集まった。

 
■選択□

 米ワシントンで日米首脳会談が行われた28日、東京では「普天間飛行場の辺野古移設の推進を確認した」とのニュースが報じられた。4月28日は63年前の1952年、サンフランシスコ講和条約が発効し、日本が主権を回復した日。同時に、沖縄が日本から切り離され、米国統治下に入った「屈辱の日」でもあった。

 止まらない新基地建設の流れ。では、これは沖縄だけの問題なのか、と元山さんは問い掛ける。イラク戦争を取材した戦場ジャーナリストから聞いた話が頭から離れずにいる。

 「イラク人に『沖縄ってどういうところなのか』と尋ねられたという。米海兵隊が『沖縄から来た』と話すのを聞き、イラクの人たちは沖縄や日本に興味を持っていたということだった」

 体が震えた。「思っている以上に日本は中東諸国で知られている」。米軍基地の存在理由として、あるいは日米同盟強化が必要とされる背景としてテロの脅威が語られてきた。「でも、米海兵隊が沖縄や日本から来ていることが知られているのなら、すでにテロの標的になっていても不思議ではない」

 辺野古に新基地が建設されれば、日本が自ら求めて造られた初めての米軍基地という見方も成り立つ。「果たしてそれを国民は望んでいるのか。僕はノーと言いたい」
 


 新基地建設で揺れる辺野古の海に大学生が集まっている。彼ら彼女らはなぜ、かの地に足を運ぶのか。

 ◆辺野古新基地建設問題 沖縄県宜野湾市の市街地にある米軍普天間飛行場の移設をめぐる問題。1995年の米兵による少女暴行事件を機に、国土面積の0.6%にすぎない沖縄県に国内の74%が集中する米軍基地の整理縮小を求める声が高まり、日米両政府が96年4月、普天間返還で合意した。日本政府は99年12月に名護市辺野古への移設を閣議決定、2013年3月に辺野古沿岸部の埋め立てを県に申請した。仲井真弘多知事(当時)が13年末に埋め立てを承認し、沖縄防衛局が14年8月に海底ボーリング調査を始めた。この問題が争点になった選挙では、同年1月の名護市長選で辺野古反対派の稲嶺進氏が再選し、9月の名護市議選でも反対派が過半数を占めた。11月の知事選では仲井真氏を破って反対派の翁長雄志氏が初当選した。


米軍キャンプ・シュワブのフェンス越しに見える、海底ボーリング調査用の作業船(奥左)と台船=5日午後、沖縄県名護市辺野古
米軍キャンプ・シュワブのフェンス越しに見える、海底ボーリング調査用の作業船(奥左)と台船=5日午後、沖縄県名護市辺野古

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