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時代の正体〈83〉加害事実を出発点に

時代の正体 神奈川新聞  2015年04月26日 14:00

慰安婦として受けた被害の救済を訴える金福童さん=参院議員会館
慰安婦として受けた被害の救済を訴える金福童さん=参院議員会館

 被害者が名乗り出て四半世紀、なお解決をみない旧日本軍の従軍慰安婦問題。救済のために残された時間が減りゆく中、日韓の市民団体が政府に提出した解決案がある。謝罪とは何か、責任を取るとはどういうことか。その問い掛けは、この国の過去と向き合う姿勢をあらためて浮き彫りにしている。

 23日、参院議員会館に約300人が詰めかけたシンポジウム。日本軍「慰安婦」問題解決全国行動共同代表の梁澄子さんは訴えた。

 「解決法は一つ。被害者が受け入れられる解決策を日本政府が示すことだ」

 この問題でつきまとう「いつまで謝ればいいのか」という反発を念頭に、被害者への慰謝はいまだ不十分という前提がそこにある。

 元慰安婦の心はいかに置き去りにされてきたか。

 「政府は解決策を示す際、『人道的』見地、『人道的』措置という枕ことばをつける。加害者として責任を果たす義務はないが、かわいそうだから施しをしてあげると言っているに等しい。被害者の感情を逆なでするだけだ」

 立ちはだかってきたのは「法的には解決済み」という政府の主張。1965年に結ばれた日韓請求権協定は、日本が韓国に5億ドルの経済支援を行うことで請求権は完全かつ最終的に解決したとしている。

 しかし、と梁さんは問い掛ける。

 「日本政府の態度は、あなたが傷ついたのであるなら謝るというもの。私はこういうことをしたから謝るというのが本来の姿。被害者にとっては何をしたのか、それをどう認めているのかが大事だ」

 事実認定こそが出発点。原因が明確でなければ本当の責任も発生しない。加害の事実があいまいなままでは謝罪をしたことにも、責任を取ったことにもならない。そもそも問題が表面化したのは協定締結から四半世紀、元慰安婦の韓国人女性が名乗り出た91年のことだ。
■未完の償い
 解決のための提言は2014年6月、日韓のほかフィリピン、中国、台湾などの被害者と遺族、支援団体の人々でまとめられ、日本政府に提出された。

 道義的ではなく法的な解決、その前提となる事実へのこだわりは「日本政府および軍が軍の施設として『慰安所』を立案・設置し管理・統制した」の一文に色濃い。1993年の河野洋平官房長官談話は軍の関与や強制性を認め、おわびと反省を表明したが、梁さんは「談話後に発見された公文書から、軍は慰安所の立案設置、管理統制の主体だったことは明らかだ」と話す。

 事実認定を一歩進めた上で被害者に受け入れられるために「翻すことのできない明確で公式な方法で謝罪し、それが真実であると信じられるための措置が必要」とする。具体的には賠償や真相究明、過ちを繰り返さないための教育、公人による慰安婦問題を否定するような発言の禁止、反論を挙げる。

 記憶に新しいものとして、首相のおわびの手紙と償い金を被害者に届けたアジア女性基金がある。河野談話を受けて実施されたものだが、基金の財団元専務理事で東大名誉教授の和田春樹さんは「韓国、台湾では被害者の3分の2に受け入れられず、失敗に終わった」と言い切る。

 ここでも「法的解決済み」が壁になった。個人への賠償はできないというスタンスから償い金は国民の募金で賄われ、「政府は責任を取らないのではないか、謝罪は真実なのかと批判された。基本コンセプトに根本的な欠陥があった」。和田さんは「償いの事業は未完で、安倍晋三首相も河野談話を継承するとしている以上、問題解決へ努力を継続しなければならない」と自らの責任に触れつつ、そう促す。


■尊厳と誇り
 その河野談話について疑義を差し挟んできた安倍首相は26日に訪米し、米議会で演説を行う。

 韓国で元慰安婦のハルモニ(おばあさん)を支援する韓国挺身隊問題対策協議会の常任代表、尹美香さんは数日前、ソウルから電話がかかってきたと明かす。

 「ハルモニは言った。私がこうして生きているのに今年もこのままやり過ごすつもりのようだ。自分の人生があまりに悔しすぎて目を閉じることができない、と」

 安倍首相が演説で慰安婦問題に言及しないというニュースを目にしたようだった。尹さんは「戦後70年の節目に被害者に平穏と安息を与えられるかは日本政府、安倍首相にかかっている。被害者の名誉回復のみならず、国際社会で日本の名誉を高めることにもなるはずだ」と訴える。

 シンポジウム翌日の24日、日本外国特派員協会の会見で前日に続いてマイクの前に座る金福童さんがいた。

 軍服工場で働くとだまされ、10代半ばで慰安婦になった88歳が海外メディアの質問に答えていく。

 -安倍首相が米議会で演説することをどう思うか。

 「安倍首相がいま何を思っているか分からないが、日本の過ちを認め、謝罪すべきだ」

 -政府や軍が慰安婦制度に関与したことを否定する歴史修正主義者に言いたいことは。

 「彼らは証拠がないというが、私が証拠だ。そのことをどう説明するというのか」

 -あなたが経験した悲劇について話してほしい。

 「すべての苦しみ、犠牲を話すことなどできない。自分の感情をどう表したらいいのか言葉が見当たらない」

 「子どもを授かることができなかった私を誰も母とは呼ばなかった。私には愛がどういうものかが分からない。日本政府の公式な謝罪が必要だと私が言っているのは、尊厳や誇りが欲しいからだ」

【日本政府への提言】
1、次のような事実とその責任を認めること
(1)日本政府および軍が軍の施設として「慰安所」を立案・設置し管理・統制したこと
(2)女性たちが本人たちの意に反して「慰安婦・性奴隷」にされ、「慰安所」などにおいて強制的な状況の下に置かれたこと
(3)日本軍の性暴力に遭った植民地、占領地、日本の女性たちの被害にはそれぞれに異なる態様があり、かつ被害が甚大であったこと、そして現在もその被害が続いているということ
(4)当時のさまざまな国内法・国際法に違反する重大な人権侵害であったこと
2、次のような被害回復措置をとること
(1)翻すことのできない明確で公式な方法で謝罪すること
(2)謝罪の証しとして被害者に賠償すること
(3)真相究明:日本政府保有資料の全面公開
 国内外でのさらなる資料調査
 国内外の被害者および関係者へのヒアリング
(4)再発防止措置:義務教育課程の教科書への記述を含む学校教育・社会教育の実施
 追悼事業の実施
 誤った歴史認識に基づく公人の発言の禁止、および同様の発言への明確で公式な反駁など

【河野談話と談話をめぐる安倍首相の対応】
 1993年8月、当時の河野洋平官房長官が従軍慰安婦問題に関する政府の調査結果として発表した談話。「慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した」「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった」と認め、おわびと反省を表明した。

 安倍晋三首相は第1次政権下の2006年10月、河野談話について「今に至っても(強引に連行するなど)狭義の強制性については事実を裏付けるものは出てきていない」と衆院予算委で答弁。同時に「自分としては行きたくないけれども、そういう環境の中にあった、結果としてそういうことになった」という「広義の強制性」は認めた。07年3月に閣議決定した政府答弁書でも「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示す記述は見当たらなかった」とした。

 第2次政権の14年6月には、談話の作成過程について(1)韓国側と文言調整した(2)元慰安婦証言の裏付け調査を実施しなかった-とする有識者の検証結果を国会に報告。談話の見直しは否定した。


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