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障害者の健康支えたい 自閉症者の母で医師・鈴木さん

社会 神奈川新聞  2015年04月23日 12:24

障害者が安心するようイラスト入りのカードを使って診察する鈴木明子さん=綱島鈴木整形外科
障害者が安心するようイラスト入りのカードを使って診察する鈴木明子さん=綱島鈴木整形外科

 重度の自閉症者の母でもある横浜市港北区の医師鈴木明子さん(49)が、障害者向けの外来診療を行っている。その名も「明子外来」。初めての場所が苦手だったり、体調不良を言葉で伝えられなかったりする特性のある人にも、イラスト入りのカードを使うなど工夫を凝らし、障害者の育児経験も生かして診療を進める。障害者にも予防的な健康管理に取り組んでほしいとの願いがある。

 東急東横線綱島駅から徒歩3分。夫の邦夫さんが院長を務める綱島鈴木整形外科で毎週火曜日の午前と、第1、第3土曜日の午前に設けているのが明子外来だ。

 3月、知的障害と自閉症を伴う60代のA子さんが、グループホームの女性職員に連れられてやってきた。

 A子さんは1年前まで歩けたが、昨年突然歩かなくなった。足が痛いようなのだが、会話ができないため原因が分からず、職員もどう対処すればいいか困っていた。

 車いすを押されて診察室に入ってきたA子さんの表情は硬くこわばっている。鈴木さんは、ベッドに横たわった人が描かれたカードを見せ、「ベッドに横になって足を見せてくださいね」と声を掛けた。A子さんはカードを手に取り、興味深そうに見つめたまま、鈴木さんや職員に介助されてベッドに移動し、診察を受けた。

 続いてエックス線を撮影している患者の写真を見せ、「次はレントゲンを撮りましょう」。無事に撮影を終えると、お菓子を手渡す。「また来てね」と鈴木さんが手を握ると、A子さんもうれしそうに笑顔を振りまいた。

 職員も「障害者の特性を知っている先生なので、安心してかかれる」と頼りにしている様子だ。


 22歳になる鈴木さんの長男は、知的障害とてんかんを伴う重度の自閉症だ。

 鈴木さんはかつて横浜市総合リハビリテーションセンターのリハビリテーション科の医師だった。2歳になっても発語がない長男は、当時の勤め先だった同センターで自閉症と診断された。

 重度自閉症児の子育ては困難の連続だった。

 感覚過敏が激しく、幼稚園時代は友達の弁当に苦手な食べ物が入っているだけで吐いてしまう。いつもと違う状況が苦手で、外出先でパニックを起こし、車から30分以上出てこないこともあった。「自分が障害者を診察する医師でありながら、障害のあるわが子をうまく支えられない申し訳なさでいっぱいだった」

 長男は成人し、福祉作業所に通う。成長とともに心配になってきたのが中年期以降の健康管理だ。生活習慣病が現れやすくなる今後は医療機関の受診機会が増える。言葉を発することができない長男の不調をどう把握し、検査や治療に結びつけるか。今は医師である自分が担うことができるが、将来に不安は尽きない。

 障害者育児の経験と医師としての専門技能を生かせるはずだ、との思いで、6年前に手探りで始めたのが明子外来だ。長男の介助のために常勤を諦めた自分が、医師としてどんな仕事ができるか模索していた時期でもあった。

 外来では自閉症者の特性を踏まえ、(1)耳で聞くより目で見た方が理解しやすいという「視覚優位」の特性を活用すること(2)診察や検査の見通しを事前に伝えること-に注意して診察を進める。

 聴診器や検温の様子を描いたイラストでこれから行う検査を伝え、何をするのかの見通しを持ってもらうことで落ち着いて診察が受けられる。

 自閉症者は見通しを立てる力が弱いため、待つことが難しい。そのため火曜日は予約制を取っている。初診患者には事前に保護者に電話を入れ、患者の特徴を聞いて、診察時には個々に合わせた配慮をする。

 初めての人や場所も苦手なケースが多い。保護者が前もって病院を訪れ、院内の様子や鈴木さんの写真を撮影し、診察前に見せて患者を安心させることも多いという。

 これまでの受診者約200人のほぼ全員に発達障害か身体障害がある。他院で診察を断られた経験をした人も少なくなかった。「病院に通えなくて困っている障害者がこんなにいたのかと驚いた」

 障害を理由に受診を断られることは本来あってはならないが、病院が敬遠する理由はいくつか思い当たるという。

 A子さんの診察も、腰のエックス線は患者が正しい姿勢を取れずに正面からは撮影できなかった。診察後に施設職員からの質問にも応じたため、診察時間は1時間弱に及んだ。

 ほかの患者でも1枚撮るために何度も練習を繰り返したり、緊張をほぐすため一緒にアニメソングを歌ったりして、診療時間が30分を超えることはよくあるという。「報酬面では赤字」と明かす鈴木さんは「問診できなかったり、検査を拒否されたりして、きちんと診断できない場合もある上、診察時間も長くかかる傾向があり、敬遠されるのでは」と推測する。

 体調不良をうまく表現できない障害者の場合、ほかの人から見てはっきりと分かる症状が出てきたころには、早期発見、早期治療の機会を逃していることもある。また、体調不良を不機嫌などの形でしか表現できない場合、「精神的な不調」と解釈され、内科的疾患の存在が見逃されやすい恐れもあるという。

 知的障害や感覚障害が重いほど未経験の物事への警戒感も強くなるが、病院側にも敬遠されがちだ。しかし、そうして通院を避け続ければ、いつまでも病院は「苦手な場所」のままで、結局、病状が深刻化するまで病院に行かないという悪循環に陥る。

 「自閉症の人の特性や診察ノウハウを広く知ってもらい、障害者が受診しやすい医療機関が増えれば」

 「明子外来」から輪が広がることを願っている。

 25日には知人の婦人科医師の協力を得て、障害者向けの婦人科相談も同整形外科で実施する。予約制。問い合わせは、同整形外科電話045(542)3355。

▽「一般医療機関も理解を」

 鈴木さんによると、障害者の大半は、風邪などの際には一般の内科や小児科を受診している。幼少時からかかりつけ医をつくり、定期的に診察を受けている障害者も多い。

 しかし、重い知的障害や自閉症がある人が検査できないなどの理由で一般の医療機関に敬遠されることがあるのも事実だという。成長につれてこだわりが強くなったり、転居したりして、青年期に入ってから受診が難しくなるケースもある。

 特別支援学校時代には健康診断や衛生管理、適度な運動などの予防的な健康管理習慣を確立していたのに、作業所などでの就労に移行した後に途切れてしまうケースも少なくない。鈴木さんは「一般医療機関にも自閉症の人の特性を知ってもらい、障害者の健康管理を支えてもらいたい」と話している。


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