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障害者権利条約描く絵本 理想示す“北極星”に

社会 神奈川新聞  2015年04月19日 10:05

人権諸条約の後押しで誕生したイエローリボン君
人権諸条約の後押しで誕生したイエローリボン君

 障害者権利条約の大切さを広く知ってもらおうと、1冊の絵本がつくられた。「えほん障害者権利条約」(汐文社)。全盲で日本障害フォーラム幹事会議長を務める藤井克徳さん(65)が文と構成を練り、そのイメージを版画家の里圭さん(37)がぬくもりあふれる版画にして落とし込んだ。巻頭言はつづる。〈権利条約は今の社会へのイエローカードであり、「こんな社会をめざしましょう」とさし示す北極星でもあるのです〉
 障害者権利条約を擬人化した「イエローリボン君」が主人公の物語。

 すでに世界のルールとして存在していた人権諸条約に「ちがいの中にこそ、その人らしさがある」「ちがいを大事にしよう」と後押しされ、2006年、国連で産声を上げた。ジャマイカを皮切りにハンガリー、パナマ、クロアチアと世界各国で受け入れられ、日本へ渡ってくる。批准は14年1月のことだ。

 イエローリボン君は問う。

 〈条約がきちんと守られたらどうなるのだろう?〉
 続く文章は藤井さん自身の願いだ。

 〈ボクは思いうかべました。街の中の段差はすっかり消え、みんなの中にある心の壁もなくなっていきます。いやな言葉も聞かれなくなりました。車いすに乗りながら、白い杖(つえ)を使いながら、手話や補聴器を使いながら、ヘルパーさんといっしょに、どんどん街に出ていきます。学校や仕事場にも障害のある人がたくさん。くらしかただって変わってきます〉
 バリアフリー化されたスポーツ観戦、自らがプレーヤーとなる障害者スポーツ、手話で楽しめる演劇や落語-。描かれる場面の数々はなおも存在する「壁」の裏返しでもあった。


 藤井さんは絵が描けない。そこで白羽の矢が立った里さんは静岡市内の知的障害者施設で働く職員でもあった。藤井さんは「温かい版画だと聞いていたし、何より障害者の人権問題を熟知している」と依頼した理由を話す。

 版画15枚、イラスト2枚を用いた全32ページの絵本は今月完成した。なかでも力作は街の様子を描いた見開きページ。

 里さんは、藤井さんから聞いた話や資料を基に理想の社会をそこに描いた。駅、学校、公園、映画館、喫茶店といったところに車いすの障害者やお年寄り、子どもら約60人が登場し、助け合いながら楽しそうに暮らしている。

 添えられた文章にはこうある。

 〈障害者権利条約が大切にされればされるほど、街の中で障害のある人を多くみかけるはずです。障害のある人にも明るさや笑顔がふえるはずです。それは、だれにとっても住みやすい社会となるでしょう。赤ちゃんにも、子どもにも、お年寄りにも、おなかに赤ちゃんがいる人にも、外国の人にも、けがや病気の人にも、そればかりでなく、疲れた人や大きな荷物を持った人にも〉

 里さんは「私が働く障害者施設の仲間を思い浮かべながら描き、版画の中にも登場してもらった。だから、その仲間たち、そして多くの障害者にも読んでもらいたい」と笑顔を見せた。


 障害者権利条約批准後、16年4月に障害者差別解消法が施行されるなど、条約履行の取り組みが始まっている。しかし、藤井さんは「さらなる前進には国民の理解が欠かせない。だが、関係者以外の人になかなか知られていない」ともどかしさを抱えてきた。

 果たして、この条約が捉える射程は障害者の問題だけなのか。イエローリボン君の旅は、そんな投げ掛けで終わる。

 〈ボクは、もう障害のある人たちだけのものではありません。みんなが大切にされる社会を作るためのヒントがぎっしり。世界がなかよくしていくためのアイデアだって。さあ、わけへだてのない社会のはじまりです〉
 冒頭でも書いていた。

 〈国連などによると、世界中の人のうち、6人に1人がなんらかの障害があるとされています。なかには生まれたときから、幼いときに、学校に通っているときに、働いているときに、とくに高齢になってから、障害をあわせ持つ人はたくさんいます。こうみていくと、障害のある人は特別な存在ではありません。もっと身近なこととして考えてもらっていいと思います〉
 藤井さんは言う。

 「小学4年生以上の子どもたちが対象だが、読み聞かせをする大人にも読み応えのある内容にしようと考えた」

 絵本後半には、ベートーベンの交響曲第9番の楽譜に重ねた51の条約項目のイラスト、大人向けの解説ページ、年表を掲載した。

 楽譜を載せたのには理由がある。楽譜は世界中で用いられる共通の言語であり、共通のルール。ただし、同じ楽譜でも奏で方によって曲想や音色は違ってくる。「条約の力を引き出す演奏ができるかはそれぞれの国、地域にかかっている」と藤井さんは強調している。

 市販は今月下旬から。税込み1620円。藤井さんは「一般の図書館のほか、学校図書館や公共施設、企業などでも利用してほしい」と呼び掛けている。問い合わせは、汐文社電話03(6862)5200。

 ◆障害者権利条約 2001年の国連総会でメキシコのフォックス大統領が提唱した。02年から審議が始まり、「私たち抜きに私たちのことを決めないで」との考えから、障害当事者も審議に参加し発言。06年12月、国連総会で採択された。

 条約は、障害者と障害のない市民との平等を規定。合理的配慮、積極的差別是正措置、アクセシビリティー(利用の容易さ)などを求めた。障害は、機能面の障害だけでなく、環境(障壁)との関係で変わるとし、「医学モデル」から「社会モデル」に障害観の重心を移した。

 日本では、障害者団体が「形だけの批准ではなく、主な法律や制度を改革するのが先」と訴え、障害者基本法の改正、障害者差別解消法の成立などの後、14年1月に批准した。世界で141番目だった。

 ◆日本障害フォーラム(JDF、嵐谷安雄代表) 日本身体障害者団体連合会、全日本ろうあ連盟、全国社会福祉協議会など、国内を代表する障害福祉関係団体13団体で2004年に設立。障害者権利条約履行の推進、障害福祉施策の提言、推進などに取り組んでいる。


絵本「障害者権利条約」を出版した藤井克徳さん(右)と版画を担当した里圭さん
絵本「障害者権利条約」を出版した藤井克徳さん(右)と版画を担当した里圭さん

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