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  3. 死のノート、再び 吉田鋼太郎の死神きらり

神奈川新聞  2004年09月10日公開  

「デスノート THE MUSICAL」で死神を演じている俳優・吉田鋼太郎
「デスノート THE MUSICAL」で死神を演じている俳優・吉田鋼太郎

 西島秀俊主演の「MOZU」では悪役、小栗旬・生田斗真主演の「ウロボロス」では刑事と、人気ドラマでいぶし銀の演技を見せている俳優・吉田鋼太郎(56)が、新作で「死に神」に扮している。ドラマや、映画ではなく、ミュージカルでだ。劇団四季出身だが、歌も踊りも苦手。しかし「日生劇場」(東京都千代田区)で始まった「デスノート THE MUSICAL」では、その羽を生き生きと羽ばたかせている。

 どんちょうが開いたステージに雑然とイスが並ぶ。主人公・夜神月(やがみ・らいと)が通う学校の教室で、生徒たちが「この国の正義はどこにある」と口々に叫び始めた。ばらばらに置かれたイスの向きのように、答えは定まらない。「正義はどこだ」と観客の心を揺さぶっていく。

 ステージの床から真っ黒な長い爪がにょきりと伸びた。まさぐった先には真っ赤なリンゴ。うれしそうに獲物をすくい上げると、おもむろにむさぼり始めた。口角にあふれた果汁。手にしているのは好物のリンゴだが、人の魂にかじりついているように感じ、ぞくりとした。

 口に運ぶのを止めると、突然「つまんねー」と叫び出した。「毎日、人間の名前をノートに書く。死ぬのを待つ。名前を書く。死ぬのを待つ……」セリフらしいものを口にした直後、「飽き飽きだ」と吐き捨てた。「遊んでみるか」と右手に持ったデスノートを人間界へ落とした。ゆらり、舞い落ちていく闇のノート。拾い上げたのは月だった。

 「ノートに名前を書かれた人間は、40秒後に死ぬ」。ノートを手に入れた月は、犯罪者を自らの手で次々と裁いていく。死神の存在を確認できるのは、ノートに触れた人だけ。吉田と秘密を共有した月は、舞台に転がったリンゴのように心をもて遊ばれ、吉田は月と、吉田の存在が見えない月の周りの人間たちの間を、すり抜けていく。ふと「ウロボロス」の副音声で小栗や吉田ら演者が、ドラマを見ながら裏話を告白していく企画「ウラバラス」が頭をよぎった。同企画は共演した吉田羊の妖艶さ、演じているときの心の揺れなどを話していくもので、生の言葉が物語とは違う血をそこに通わせた。

 吉田は、舞台の中で間をつくり、また間を埋める存在になっている。ひりひりと緊張が続くステージで「月、リンゴ買ってくれよー、大好きなんだよー、買ってくれなかったら自殺しちゃうぞ」とじだんだを踏み、共演者が吹き出す場面もあり、観ているこちら側がうろたえるほどに自由だ。笑う“セリフ”ではなく、笑う間を生む。月、そして観客の心もぐいととらえる。生のウラバラスに触れている感覚だ。

 命を賭けた心理戦を描いた原作マンガは、世界で累計発行部数3000万部を突破。ミュージカルは「日本から世界に発信し、日本を代表する作品に」と米ニューヨーク、ブロードウェイなどで上演された「ジキル&ハイド」「ドラキュラ」などの音楽を手がけた作曲家フランク・ワイルドホーンが書き下ろした。ホイットニー・ヒューストンなどに楽曲提供をしてきたワイルドホーンの作品は、「全力で歌わなければ届かない」と吉田と同じ四季出身の柿澤勇人(27)。全身の力を振り絞り放つ歌声、思い。こちらも前のめりになる。

 死神・吉田ももちろん歌っている。女の死神・レムと声を合わせるシーンは、演歌のデュエットのようにも感じられた。月はダブルキャストで、演技派の浦井健治、対峙するLには小池徹平。同地では29日までで、大阪、名古屋、さらに現地キャストで韓国公演を行う。












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