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かながわライフサポート事業<下>法人の事業参加が課題 

社会 神奈川新聞  2015年04月07日 09:55

県社会福祉協議会に設けられているライフサポート事業の窓口。直接生活の相談を受けることもある=横浜市神奈川区
県社会福祉協議会に設けられているライフサポート事業の窓口。直接生活の相談を受けることもある=横浜市神奈川区

 生活が困窮しているものの、公的支援から外れてしまう人を対象にした県社会福祉協議会(県社協)の「かながわライフサポート事業」(LS事業)。困窮者の生活再建に役割を果たす一方、事業を支える社会福祉法人の加盟については課題を残す。

 LS事業の実施主体は県社協だが、活動の多くは事業に参加する社会福祉法人が担う。

 加盟する法人は「法人の収支差額のうちの5%」か、「常勤職員の人数1人に付き5千円」の、少ない方を事業の基金に納める。

 事業では利用者に食品などの生活必需品を買ったり、家賃などを代わりに支払ったりすることもある。費用はいったん法人側が立て替え、基金から戻される仕組みになっている。

 支援が終わるまで利用者を支えるコミュニティーソーシャルワーカー(CSW)は、参加法人の職員らから養成される。事業の安定と加盟法人数は不可分の関係だ。

 県社協によると、県内の社会福祉法人のほとんどが加盟する同会の「経営者部会」には、504法人が名前を連ねる。LS事業は2011年に提案され、13年8月に発足。「保育」「高齢者福祉」「障害福祉」など各法人の専門に関係なく、「オール神奈川」としての参加を呼び掛け、29法人でスタートした。今年3月時点では52法人まで増えたが、まだ全体の1割程度。「もっと増えると考えていたが、予想よりも少ない」参加にとどまっている。


 参加法人が伸び悩む理由として考えられるのが、「福祉業界の人材不足」だと県社協の大関晃一さんは考える。

 例えば、高齢者の介護現場の「人材の不足感」は56・5%に上り、12年10月から13年9月までの介護労働者の離職率は16・6%だった(介護労働安定センター調べ)。LS事業は、職員が通常の仕事をしながら支援も手掛けることになる。「『本業が大変』という声が多い。総論では事業に賛成していても、人材不足の中、現実的には参加は難しいと考えているところが多いのではないか」とみている。

 事業の安定と発展を考えれば、全法人の参加が理想。県外の同様の事業では、全法人の参加をほぼ義務付けているケースもあるが、神奈川では希望する法人が自主的に参加する形を取っている。原則として、1人の利用者の支援は、終結まで同じCSWが担当する。利用者と信頼関係をつくり、生活再建に向けて並走していくことがLS事業の大前提。参加の義務付けがそうした意識の低下につながり、「事業がただの経済支援になってしまったら、理念が根底から崩れてしまうという懸念もあり、実施していない」という。


 時間も人的資源も必要なLS事業だが、参加することで通常の業務にもメリットがあると考える法人もある。

 社会福祉法人「すぎな会」(厚木市)は14年4月からLS事業に参加した。

 同会は1962年から、知的障害者のための福祉施設を運営している。障害分野での活動は50年を超えるが、他分野の事業は手掛けたことがない。中尾信利理事長は、事業参加について「内部では当初、『そんなことをやる意義があるのか』『事業の内容がよく分からない』という意見も出た」と話す。

 事業に参加しても法人側に収益が出るわけではない。費用や人手は“持ち出し”にならざるを得ない部分もある。困窮者支援という未知の分野に戸惑いもあった。県社協から事業についての提案があった直後から、1年以上かけて理事や職員に説明を重ね、参加を決めたという。

 通常業務とLS事業を並行することは簡単ではない。だが、事業に携わることは「職員が今後の仕事を進めていく上で、絶対にプラスになる」と中尾理事長は話す。

 同会の生活介護事業所施設長で、CSWの山上裕之さんは「事業に参加すると聞いた時は『こんなことを始めるの?』という気持ちだった」という。

 最初に支援したのは、体調を崩して仕事ができなくなり、生活が苦しくなった男性だった。時間をかけて話し合い、利用できる支援制度などを模索した。それも専門の障害福祉とは縁の薄い分野。困窮者向けの貸し付け制度や手続きなどは山上さん自身が分からない内容も多かった。専門書で勉強し、県社協に問い合わせをしながら対応した。

 男性に提案したのは、当面は生活保護を受給し、体調が回復したら再就職すること。男性は強く断ったが、何度も会って話すうちに気持ちが変わり、生活保護を受給することになったという。支援期間は1カ月半ほど。経済支援の金額は、原則上限に定められている10万円を超えた。

 「支援する必要はあると意識はしていたが、実際にやってみたら大変」と話す山上さんだが、「こんなに生活が困難で、利用できる制度も知らずにいる人が身近にいる」と再認識したという。「制度に結び付いて生活改善のめどが立った時は、自分もうれしかった。福祉の原点があると、あらためて思った」と振り返る。


 同会では、事業の専従者も置いている。担当の浦山長松さんは支援を通じて「知的障害者福祉では、良かれと思って職員が先回りしてしまうことがある。障害者だけに関わっていたら、それが支援だと錯覚してしまう」と感じた。「『貧困』という部分でみんなつながっている。専門が障害だ、高齢者だとやっている時代ではない」と話す。

 現在、CSWは6人。中尾理事長をはじめ幹部職員が資格者の中心になっている。「多くの職員がいろいろなことをやり、知識を得ていくべき。施設長などトップの人がこういう経験をすることは、今後に生きてくるはず。その経験は、法人の健全な発展にもつながるはず」と中尾理事長は話す。

 県社協では今後、法人に具体的な支援の実例を伝え、各地域に潜在的に支援を必要とする人がいることを意識することで、参加法人を増やしていきたい考えだ。事業の利用者を「中間的就労」の形で法人施設で受け入れ、実際に触れ合うことで事業への理解を深めてもらう取り組みも進めていく。

 大関さんは「施設のある自治体での実践を伝え、誰かのためになっていると分かれば、事業のイメージもつかみやすい。実際に対応している法人がある一方で、自分たちは何もしなくていいのか、と思ってもらい、少しずつ加盟法人が増えていってほしい」と話す。


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