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あなたの思い、届けます 漂流郵便局

話題 神奈川新聞  2015年04月03日 12:21

漂流郵便局に届いた思いの一部
漂流郵便局に届いた思いの一部

 過去、現在、未来の物、こと、人に宛てた手紙を受け付ける郵便局が香川県三豊市にある。

 「漂流郵便局」と名付けられたその場所には、2013年10月から現在までの間に4287通のはがきが届けられ、日を追うごとに数を増している。宛名は「図書館でいつも隣になるあなたへ」「過去の私」「死んでしまった愛犬」「未来の地球」など差出人次第。通常の郵便物は、宛名がないと「宛名不明」で差出人に戻ってしまうが、漂流郵便局宛ての郵便は局内に設置された私書箱の中で永遠に漂ったままだ。

 郵便局の存在を知ったとき私は、我慢していた「あのときの自分」が思い出され、「あぁ、そうか」とほっとした。言えなかった言葉はどこに行くのかと考え悩んだ時期、このままだと自分が壊れてしまうと、渡さないことを前提に1枚のはがきに思いをしたためたことがあった。ペンを取ったあのときの私は--。壊れそうではなく、壊れていたと今は思う。

 当時の私は、相手の言葉や行動によって感情がはがされ、空っぽになっていた。悟られまいと平穏を装う私は嘘のかたまりだった。弱さをみせたくない。表面と内面のギャップが広がっていった。原稿の中で強くあろうと意識するほど、隠した嘘が際立っていくのを感じ自分を責めていた。

 もし今、顔を上げられないような苦しみを抱えているのなら、その思いを文字にしてみませんか--。痛みを感じるのは、弱いからじゃない。痛みは心をしっかりととらえる機会。右に行くか、左に曲がってみるのか、進まず少し戻ってみたっていい。漂流郵便局宛てのはがきのように、行きつ戻りつする時間だって人生には必要だ。

漂流郵便局ができるまで



 漂流郵便局は1964年に建物が完成。1891年に「粟島郵便局」の看板を掲げ、近隣の3つの島に郵便を配達し地元民から親しまれていたが1991年に閉鎖し、時を止めていた。2013年に開かれた瀬戸内芸術祭に出展する作品を探していたアーティストの久保田沙耶が同地を訪れた際、島の波打ち際にたまったペットボトルやさびた空き缶などの漂流物を目にし、「自分もここに流れた着いたかけらのひとつ」と感じたことから、郵便局を改装し再生させた。当初は1カ月間の限定公開を予定していたが、全国から届けられる思いはどんどんふくらみ、閉幕後もはがきが寄せられたことから、展示公開を継続することを決めた。

 届いた手紙は毎月第2、第4土曜日の午後1時から午後4時まで、自由に手に取ることができる。巡り合った手紙がもし自分宛と気がついたなら、持ち帰ることも可能だ。久保田によると、過去2度「自分のだ」と持ち帰った人がいるそう。思い出はそのままに。手紙をまた漂わせておく選択をしてもいい。決めるのは自分だ。

 久保田は「郵便局に足を踏み入れ、『自分もここに流れ着いた』と感じたときは正直、怖い気持ちもありましたが、同時に救われたように感じたんです。宛名不明の手紙は、亡くなってしまった方、道ならぬ恋をしている人、海外からも届いています。返事がないものへのコミュニケーションは想像力がかき立てられ、宛先不明の存在を知ることができるはず。キャンバスに絵を描いているような気持ちで描いて欲しい」と思いを込めた。届いた手紙69通をまとめた書籍「漂流郵便局」(小学館)も発売中。

 --あのときの自分を振り返って、苦い気持ちがふくらみかけた。「今なら誰に書く?」。そう問われ、考えた。今は、言えなかった気持ちではなくて、いつか出会う自分が愛する人宛てに、先に記しておきたいと思う。「出会うことができて良かったよ。ありがとう」と。【西村 綾乃】
 
 手紙のあて先は▼〒769-1108 香川県三豊市詫間町粟島1317-2 漂流郵便局留め ○○様 ※はがきのみ受け付け、著作権は漂流郵便局に譲渡すること、差出人の住所などは不要。


漂流郵便局を生み出したアーティストの久保田沙耶さん
漂流郵便局を生み出したアーティストの久保田沙耶さん







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