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時代の正体〈78〉虚偽さえ交えた主張

時代の正体 神奈川新聞  2015年03月29日 17:45

日の丸とプラカードを掲げ市役所前を行進するデモの参加者=14日、川崎市川崎区
日の丸とプラカードを掲げ市役所前を行進するデモの参加者=14日、川崎市川崎区

 何を主張し、どうしたいのか、意味がよく分からないという点でヘイトスピーチ(差別扇動表現)の典型といえた。外国人を排斥したい自己の感情を正当化したいがため、差別することを目的に行われた「デモ」。世間の注目を集めた事件を持ち出し、虚偽さえ交えた街頭宣伝にうなずく者などそうはいまい。私にはそう思えたのだが…。

 警備の警察官に脇を固められ、大声を張り上げる一団が市役所前を通り過ぎてゆく。日章旗がうち振られ、掲げられたプラカードに「外国人犯罪追放! 奪った命・土地・金 即座に返せ! 日本居住の権利無し!」の文字が躍っていた。

 川崎で9回目となるヘイトスピーチ・デモが行われたのは14日のことだった。参加者約40人。2年前は100人を超える規模だったことを思えば退潮傾向にあるが、それでも前回昨年11月の倍ほどの人数が集まっていた。

 抱えて歩く大型の拡声器を通じて主張が聞こえてきた。

 「川崎の多文化共生とは反日外国人である特別永住者に隷属するという意味であることを皆さん、ご存じですか」

 分からなかった。多文化共生、つまり互いの民族性や文化を尊重し合うことがどうして隷属になるのか。旧植民地出身者とその子孫である在日コリアンが大半を占める特別永住者がなぜ反日外国人になるのか。

 こうも言った。

 「年金、手当、生活保護をばらまき、参政権を与え、市政に干渉するチャンスをつくり、外国人職員を採用するなど在日韓国朝鮮人ばかりを優遇する腐った市政を行っています」

 年金も諸手当も生活保護も基準に沿って付与されているにすぎない。市が参政権を与えている事実もない。「干渉」は、外国籍市民の声を市政に反映させる外国人市民代表者会議の取り組みを指しているようだが、なぜ「優遇」になるのか。職員採用も他自治体同様、外国籍にも門戸が開かれているというだけで、採用されても管理職になれないという制限がある。やはり優遇にはほど遠い。

 さまざまに浮かぶ疑問への根拠は示されぬまま、ボルテージはシュプレヒコールで最高潮に達した。

 「日本人にとってあるまじき川崎の残虐殺人鬼を絶対に許さないぞーっ」

 「許さないぞーっ」

 川崎市川崎区の多摩川河川敷で中学1年生の男子生徒が殺害された事件で容疑者の少年3人が逮捕されたのは、その2週間余り前だった。

 少年の1人は母親がフィリピン人であると週刊誌で報じられ、インターネット上でも拡散していた。

 デモ行進に先立ち、公園で開かれた集会で参加者が口にしたのも事件のことだった。

 「いたましい事件が起きました。『おれらは川崎国』と言っている外国人の子どもに首を切られ、中1の子どもが、日本人が、犠牲になることが許されてはいけないんです」

 「日本侵略を許さない国民の会」代表という女性は拡声器のマイクを手にいらだちを隠さなかった。

 「ほかにも外国人による殺人なりレイプなりが増えている。それをマスコミも警察も発表していません。私たちが止めなければもっと増えていくんですよ」

 京都の朝鮮学校前で「スパイの子ども」などと罵声を浴びせた街宣活動が人種差別に当たるとして有罪判決を受けた「在日特権を許さない市民の会」(在特会)、その神奈川支部を名乗る男性も言った。

 「県内に外国人は57人に1人の割合でいる。その犯罪があまりに異常。だから残りの56人に気を付けましょうと言っている。そういう外国人、一部の民族への優遇政策はおかしいと言うことのどこが差別なのか」

 すると「今日はどうしてもやらなければならないことがある」と、デモ主催者である男性が歩みいでた。

 殺された男子生徒の名前を間違えながら、「××君の、ああ、◯◯君と外国人犯罪に倒れられた多くの日本人の冥福を祈って、黙とう!」。

 集会の冒頭から2度、名前を呼び間違え、見かねた参加者に指摘されても覚えられないようだった。デモ行進に出発しようという時、言った。

 「もう一度申し上げます。えーと、××君? ◯◯君だっけ? 今回のデモは、◯◯君のあだ討ちのデモであるとともに、ニッポンをわれわれ日本人の手に取り戻すためのものです」

デモの列を前にインドネシア人の男性2人が立ち尽くしていた。苦笑を浮かべ、「私たちは仕事をしに来ている。悪いことをしに来ているわけじゃない」。20歳と24歳。1年半前に実習生として来日し、横浜市鶴見区の建設会社で働く。月給15万円という。

 通りすがりの夫婦にも聞く。事件を外国人排斥に結びつける主張には首をかしげるばかりだったが、地元で起きた事件に関心を持ち、週刊誌やネットで情報を集めているという。

 妻(34)は言った。

 「考えたのは加害者、被害者の親は何をしていたのだろうかということ。子どもにとって育つ環境が大事だとあらためて感じました。両親に愛され、大事に育てられていたら、あのような事件を起こすこともなかったのでは」

 胸に生まれたばかりの女の赤ちゃんを抱っこしていた。

 「日本人にいい人、悪い人がいるように、外国人にもいい人、悪い人がいる。それを国籍を基準に判断しても何の教訓も得られない。まして、こうして差別するようなことは筋違い」

 女性は学生時代、在日コリアンの友人がいたことを明かし、続けた。

 「ヘイトスピーチを熱心にしている人たちは自分たちの主張のためにいろいろと調べている。普段、外国人と接することがなければ、彼らの言っていることに明確に反論できる人は少ないのでは」

 そうして、まさに傍らの夫(32)がこぼすのだった。

 「実際、犯罪率は日本人より高いですもんね」

 私は説明した。

 そもそも警察庁発表の「検挙件数」「検挙人数」は警察の取り締まりの結果を表しているにすぎないこと。そのデータを基にしても2013年の一般刑法犯検挙人員総数に占める外国人の比率は4・0%だったこと。

 さらに、ある属性ごとに犯罪率を比較し、何らかの対策が導けるのであれば、数%にすぎない外国人を問題にするより、例えば都道府県別に犯罪発生率を調べ、高いところに住む人々を丸ごと問題視すべきだという理屈が成り立ってしまう。あるいは、女性より犯罪率が高い男性は従って、監視や取り締まりが強化されるべきだということになる。そうならないのは外国人にだけ、特別なまなざしが向けられているからだ-。

 そう説明すると男性は、思ってもみなかったという顔をして「ああ、そうか」とうなずいた。

【神奈川新聞】


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