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NPO法人ピースデポ事務局長代行・塚田晋一郎さん
時代の正体〈77〉意識の低さがひずみに 

時代の正体 神奈川新聞  2015年03月28日 03:00

塚田晋一郎さん
塚田晋一郎さん

 新たな安全保障法制の骨格を定めた共同文書が自民、公明両党の与党協議会で正式合意された。軍縮と安全保障の調査・研究を続けるNPO法人「ピースデポ」(横浜市港北区)の事務局長代行、塚田晋一郎さん(31)は危機感を隠さない。「首相の一存で何でもやりたい、という姿勢があけすけに表れている」。若き研究員はしかし、そのあまりの露骨さに希望さえみている。

 懸念は現実のものになった。「自衛隊がいくらでも恣意(しい)的に派遣されかねない」。指摘するのは共同文書に散見される「基本とする」「原則とする」という文言だ。

 「大事なところで限定解除のキーワードが盛り込まれている。国会承認という歯止めがあっては困る、という強い意思の表れ。憲法の平和主義を変えないで法制化することは解釈改憲にほかならない」

 憲法の中核をなす平和主義を揺るがす重大な変容が進もうとしているとの認識に立つが、しかし、議論は広く国民の間に浸透していない。重大性の認識も共有されていない。

 拙速な手続きは安倍晋三政権の内実を映し出す。

 「一貫しているのは『米国追従』という姿勢だけだ」

 安倍首相は4月末から5月の大型連休に訪米する方針を示している。それまでに与党協議を終えオバマ米大統領に日本の新しい安保法制について具体的な進捗(しんちょく)を報告したかったという見立てだ。4月の統一地方選への影響を最小限にしたいという思惑も絡み合い、自衛隊をどのような事態に派遣するのかといった重要事項の合意は先送りされた。

 しかし、と塚田さんは言う。「問題は安倍首相一代だけの話で済まなくなるということ。これが布石となり米国の求めに応じて自衛隊が海外へ次々と出て行かなければならなくなる」


■帰結
 世界で起きている不条理に違和感を抱いたのは2001年9月11日、米国同時多発テロがきっかけだった。マンハッタンの超高層ビルへ航空機が突っ込み黒煙を上げている様子を生中継で目にした。翌月には米国がアフガニスタンに侵攻、当時の小泉純一郎首相はただちにこれを支持した。

 「アフガニスタンは世界で最も貧しい国の一つ。最も富める国が、最貧国を攻める。これは一体、どういうことか」

 調べ、研究し、分析してみた。

 「テロ集団とされるグループが生まれるのには背景がある。つまり国際化の中で究極的に発達した資本主義経済が生み出す負の側面のしわ寄せがアフガニスタンやイラクに集中した結果だった」

 アフガン攻撃が始まった同年10月、高校3年の塚田さんは「アメリカの戦争をやめさせよう学生・市民の会」を立ち上げ代表に就いた。

 「オレたちは恵まれているか」と題するチラシに当時つづった。

 〈アフガニスタンを「正義」「人道的」「国際社会のため」という言葉を用いて攻撃することは果たして理に叶(かな)ったことと言えるでしょうか。(中略)アフガニスタンには饑餓に瀕(ひん)している人が約400万人もいるとされています〉

 そしてこう結んだ。

 〈あなたも一緒にやりませんか?〉

 2カ月間、毎週日曜日に東京・渋谷のハチ公前でイベントを開催し、約6千人分の署名を集めた。大学卒業と同時にピースデポで核軍縮や安全保障を調査・研究するようになった。

 それから十数年、不条理がただされるどころかさらなるひずみを生み続け、そして自分たちの国も止めようもないところまで来てしまったと感じる。「1970年代以降、若者たちは平和や戦争、政治を語ってこなかった。民主主義は機能不全に陥った。安倍政権のありようは当然の帰結でもある」


■反論
 内閣官房のホームページに安保法制に関する一問一答が掲載されている。

 その一つに「解釈改憲は立憲主義の否定ではないのか?」との設問がある。

 内閣官房による答えはこうだ。

 「今回の閣議決定は、合理的な解釈の限界をこえるいわゆる解釈改憲ではありません。これまでの政府見解の基本的な論理の枠内における合理的なあてはめの結果であり、立憲主義に反するものではありません」

 塚田さんはツイッターで反論した。

 〈「解釈改憲」も「立憲主義」も、そもそも主権者である国民が評価・判断することであり、政府側からこれを言うのはおかしい。スタートのところからはき違えている〉

 そして政権を切り捨てる。

 〈安倍さんが戦後日本最低の首相であることに疑いはないでしょう。後にも先にもここまでって、ないんじゃないかと思う。こういう人をトップにしてしまったという事実と僕らは向き合うべき。一人一人がもっと賢くならなければならない。平和も民主主義も、空気や水とは違う。ほっといたら無くなるもの〉

 政権の動向を注視するならば14年12月の総選挙は極めて重要な局面だったといえるが、投票率は52・66%(小選挙区)で戦後最低を記録、自民党は全有権者の約2割の得票数で衆院の約6割の議席を獲得した。

 「有権者の意識の低さこそが、この政権を生み出したエネルギーになっている」

 特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認など、安倍政権が矢継ぎ早に打ち出してきた施策は、世論調査で「反対」が過半数を占めている。にもかかわらずその施策を進めている自民、公明両党が衆院議席の3分の2を握っている。

 「小選挙区・比例代表制という選挙制度も相まって民意を反映した政権とは言いがたい。世論調査の結果を合わせ見ても、民主主義は完全に機能不全に陥っているといえる」

 だが塚田さんはそこにほとんど唯一の期待を抱く。「自分たちの意思が政策に反映されていないと感じ、これまでデモに参加したことがなかった若者や主婦が動き始めている」

 端緒は東日本大震災と東京電力福島第1原発事故。この国があらぬ方向へ進もうとしていることで高まる危機感、そこに希望がある。

 01年に塚田さんらが渋谷で集めた署名数は約6千人分。今月22日に首相官邸周辺で行われたデモには約1万4千人(主催者発表)が参加し、「安倍政権NO」などと書かれた紙を手にした。

 「民主主義が壊れているなら声を上げ、もう一度取り戻さなければいけない。そこには例えば戦後、国民が初めて普通選挙権を手にしたときのように、新しい感動があるはずだ」

◆つかだ・しんいちろう ピースデポ事務局長代行、集団的自衛権問題研究会研究員。2008年明治学院大国際学部卒、ピースデポで核軍縮や沖縄の米軍基地問題等の調査・研究に従事。「核兵器・核実験モニター」編集委員。「戦後日本初の海外軍事基地」(岩波書店「世界」12年10月号)など執筆。東京都出身。

【神奈川新聞】


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