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芸術家・ろくでなし子さん
時代の正体〈76〉女性目線 許されぬ性

時代の正体 神奈川新聞  2015年03月26日 03:00

都内で開かれたトークイベントで事件について語るろくでなし子さん=1月27日
都内で開かれたトークイベントで事件について語るろくでなし子さん=1月27日

 わいせつなデータをメールで配信したなどとして、わいせつ電磁的記録頒布の罪などで起訴された芸術家ろくでなし子さん(43)の初公判が4月15日、東京地裁で開かれる。表現活動として配布した自らの女性器のデータが「わいせつ」とみなされた事件。バッシングにもさらされた女性芸術家はタブーの背後に社会のゆがみを見る。

 保釈後、米国とフランスのメディアから取材を受けた。「なぜ、女性の体の一部に過ぎない女性器がわいせつ物になり、犯罪とされるのか」という質問に続けて、こう言われたという。

 「日本は風俗産業が盛んで、男性向けの性的サービスがあふれている。電車に乗れば、雑誌のつり広告にセックスの話題が書かれていて、インターネットで検索すれば女性が犯されている画像が出てくる。こうしたものが野放しのまま、性欲をかき立てるわけではない作品をつくったあなたが逮捕されるなんておかしな国だ」

 もっともな意見だと思った。「なぜ逮捕されたのか、私も分かりません」と答えるしかなかった。

 「わいせつ」とされたのは自分の性器のデジタルデータ。3Dプリンタに入力すれば、女性器の造形物が出来上がるという作品だった。

 「女性器は人が生まれてくる場所だからこそ大切にすべきなのに。そもそも、体の一部の呼称を口にすることがなぜいやらしいことになるのか。なぜ女性自身が自分の体の一部の呼称を口にすることがはばかられるのか」

 明確な理由はやはり思い浮かばなかった。


 

虚  構 

 昨年12月、東京地裁で開かれた拘留理由開示公判に出廷し、意見陳述した。

 人が生まれてくる場所だからこそ、むしろ大切にすべきだと思うこと。なのに、汚らわしいもののように扱われ、覚えた怒りをバネに楽しく明るく作品を作ってきたこと。だから作品はかわいくデコレーションしたものやiPhoneカバーやボートなど楽しく笑えるものばかりであること。「ですから私の作品などを『わいせつ』と決めつける警察にとても驚きましたし、納得がいきません」

 漫画家としてデビュー。「ノリで」性器を整形手術し、その体験を題材にした漫画を描いたのが始まりだった。出版社に続編を依頼され、ネタの一つとして性器を型にとってみた。デコレーションを加え、アートとして世に出した。

 インターネットの掲示板2ちゃんねるで「頭がおかしい」「性器を見せたがっている変な女がいる」とバッシングを受けた。なぜ、それほどたたかれなければならないのか理解できなかった。

 思いをめぐらせ、見えてきたのはゆがんだ社会の構図だった。

 「成人した女性が性について真面目に語ろうとするとふしだらと指を差される。つくづく男性社会なのだと思った。結局は女性に性の知識を持ってほしくない。男性がいつまでも優位に立ちたいのだろう」

 男性に消費させる形のエロチシズムは許されるが、女性が主体となって性を語ることは許されない。結果、大切であるはずの性の話自体が表に出にくくされてゆく。

 「例えば望まない妊娠についてがそう。男性にも責任があるのに、妊娠した女性ばかりがふしだらだと責められる。避妊具を着けてほしいと口にすれば『慣れた女』『遊び人』と思われるのではという不安が女性の中にある。女性が性を語ることは『はしたない』としてきた社会が、性を口にすることへのゆがんだ恐怖心や負い目を女性に植え付けていったと思う」

 おかしいことはおかしいと世に問いたい。だから創作したい意欲が湧き起こる。おかしいと感じた一つがたまたま女性器をめぐるタブーについてだった。


 

抑  圧 

 裁判官を前にした意見陳述では「公開の法廷の場ですので、性器に関する呼称について、被疑者は工夫をして意見陳述してください」と注意された。構わず俗称を口にしたところ、裁判官は再度「発言について制限します」と宣告した。最終的には「性器」と言い換えることにした。

 ほどなく抑圧、禁忌は性だけはないと知る。

 日本人の人質事件についてツイッターでつぶやいていたら、「ろくでなし子は政治的なことを言い始めたから嫌い」という反応があった。「政治的な話をするとなぜ嫌われるのか。政治や宗教、天皇制を話題にしただけで拒絶反応を示す。突き詰めていくと同調意識と思考停止に行き当たる」

 話はやはり女性器の表現の仕方に戻る。

 「法律的にその表現は禁じられているということより、『誰かから文句が来たら困るから』という理由で、誰も受けていない被害を想定してトラブルを回避する心理が働いている」

 やはり、分からない。「週刊誌が女性器をかたどったアート作品を特集し、その一つとして作品が掲載されたのが始まり。出版社は警察から警告を受けたようだが、それで済んだ。誌面の一部に作品が載ったに過ぎない私は逮捕された。私は思ったことを表現し、創作活動をしてきただけなのに」

 そこに恣意(しい)の影を感じざるを得ない。

 「警察が気に入らない人物なら、被害者がいなくても逮捕されるということ。私の場合はフリーで活動していて、会社員でもないし、特に売れてもいないし、変な活動をしている人間なら逮捕しやすい、ということもあったのだと思う」

 逮捕、起訴を通じて目の当たりにした権力のむきだしの圧力。そしてそれは誰にでも向けられ得るものではないのか。裁判で明らかにされるべきは、そうした「わいせつか否か」にとどまらない普遍的な問いなのだと感じている。




 

ろくでなし子さんが逮捕、起訴された経緯 ろくでなし子さんは2013年、女性器をモチーフにした作品を創作する際、インターネットで寄付を募り、支援者に自分の女性器をスキャンして作った3Dプリンタ用データを配った。警察は、このデータがわいせつ電磁的記録に当たるとして、昨年7月、わいせつ電磁的記録頒布の疑いで逮捕。後に釈放されたが、同12月、わいせつ物公然陳列の容疑で逮捕、同罪などで起訴された。ろくでなし子さんは「データや作品はわいせつではない」とし、無罪を主張している。今回の事件を描いた漫画や対談などをまとめた「ワイセツって何ですか?『自称芸術家』と呼ばれた私」(週刊金曜日)を4月上旬に刊行予定。

【神奈川新聞】


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