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A型事業所の可能性〈下〉 障害者雇用の現場から

社会 神奈川新聞  2015年03月25日 17:10

全国から約230人が参加した全Aネットの設立総会 =2月28日、都内
全国から約230人が参加した全Aネットの設立総会 =2月28日、都内

 「障害者、社会的弱者、ひいては誰もが働きやすい社会の実現を目指し、良きA型を作り上げていきたい」。2月に開かれた「就労継続支援A型事業所全国協議会」(全Aネット)の設立総会で理事長に就任した社会福祉法人進和学園(平塚市)統括施設長の久保寺一男さんが決意を語った。全Aネットには社会福祉法人、NPO法人、営利法人など約140団体・個人が加入。「社会的活動に経験の深い福祉施設やNPO法人だけでなく、ビジネス経験に富んだ一般企業も加わった。三者の英知を集める」と意義を強調した。

 全Aネット設立のきっかけは、制度の趣旨に反し、障害者の働く意欲や能力向上を損なう「悪(あ)しきA型」の存在が指摘されたことだった。「危機感を持ったA型事業所の有志が自浄作用を働かせたいと全国組織の結成を呼び掛けた」と久保寺さんは言う。

 「悪しきA型」とは、主に営利法人が確固とした事業がないにもかかわらず事業所を設立するケース。職員の人件費は切り詰め、障害者には短時間で適当な仕事をしてもらう。障害福祉サービス給付費や1人当たり最長2年間、年間最大240万円支給される特定求職者雇用開発助成金(特開金)から障害者の最低賃金などを払い、残りを利益にするといったパターンだ。特開金の受給が終わると利用者を辞めさせ、新たな利用者を入れて特開金の受給を繰り返す例も指摘された。

 厚生労働省も昨年、A型事業所への特開金支給の厳格化を図ったほか、障害者福祉サービス等報酬改定で短時間利用への給付費を減額する措置を取ってきた。

 しかし、この問題を追及してきたNPO法人共同連(名古屋市)の斎藤縣三事務局長は「あまり効果はなく、悪しきA型の増加にブレーキをかけることにはならない」と警鐘を鳴らす。短時間利用の給付費減額は「精神障害者に寄り添っている良質の事業所には打撃だ」と指摘した。

 ■多様性

 一方、全Aネットに参画した事業所の関係者が口をそろえるのが、A型事業所の可能性だ。「一般企業よりも多様な働き方を実現できる。障害者の労働の可能性を広げる制度」と久保寺さんは力を込める。営利法人からは事業の安定化や地域貢献、地域活性化、社会福祉法人からはソーシャルファーム(社会的企業)を視野に入れた福祉の拡大を期待する声が上がる。

 全Aネットは、これまで交流の少なかった社会福祉法人、NPO法人と営利法人が情報交換し助言しあう場を提供する。ある社会福祉法人の理事長は「企業の人と話したことがなかったので、じっくり話を聞いてみたい」と福祉の理念とビジネス経験の融合に期待する。A型事業所の中には十分な事業収入を上げられず、B型への移行を検討しているケースも出ている。障害者に最低賃金を保障するに足る事業を確立するのは容易ではないのが実情だ。

 労働法規が適用されないB型事業所では、平均月額工賃は約1万4千円に過ぎない。約18万人の利用者のうち「3分の1はA型事業所で働けるのではないか」との指摘もある。A型事業所の背後には、より難しい課題を抱えたB型事業所の問題が横たわっている。

 ■先行き

 全Aネットは今後、各都道府県連絡協議会の設立、A型事業所のあり方に関する研究事業や研修会の開催、A型事業所の存在意義の浸透を図るため広報誌発行などを行う。各事業所の要望を調査、集計し、国、都道府県、市町村への要望活動にも取り組むという。

 国は障害者総合支援法の「3年後の見直し」作業に入っている。A型事業所を含めた障害者の就労の制度的枠組みの問題、賃金補填(ほてん)の是非を含む所得保障の問題など難問が山積している。全Aネットはどのような見解を示し、あるべき姿を発信していけるのか。久保寺さんは「重度の障害者も雇用できるようにA型事業所を発展させたい」と先を見据えた。

 ◇みなし雇用導入を

 設立総会では「障害者の経済学」の著書もある慶応大商学部の中島隆信教授(経済学)が講演を行い、A型事業所の長所を生かす制度改革の必要性を指摘した。

 中島教授は障害者雇用の利点について「福祉はできないことに注目するが、雇用はできることに注目する」と指摘。その上でA型事業所について「雇用型のため労働者の権利が守られる。最低賃金適用原則のためモニタリングが比較的容易である。市場との接点が作りやすい。福祉べったりではないという利点があり、さらなる後押しが必要」と強調した。

 その上で「(事業主にある割合以上での障害者雇用を義務付けた)法定雇用率は曲がり角に来ている。企業に雇用されている障害者の高齢化も進んでいる。法定雇用率達成のためだけに設立された特例子会社は企業内施設化する危険もはらんでいる」と指摘。「企業のA型事業所への仕事の発注を障害者雇用にカウント(みなし雇用)すればA型事業所の市場が拡大する。規模の経済性も働き生産性も上がる」と提言した。

 ◇中小企業も導入議論

全Aネット設立と呼応する形で県中小企業家同友会は6月25日、A型事業所のあるべき姿を検討する同友会全国フォーラムを神奈川中小企業センタービル(横浜市中区)で開催する。

 実行委員長で県同友会障害者委員長の榎本重秋さんは「同友会は障害者が働ける会社を作っていこうと取り組んできた。正規雇用も進み、さらにA型事業所を作る会員も増えてきた。正しいA型の方向性を示したい」と話す。

 フォーラム副実行委員長で藤沢市でA型事業所「るる湘南」の経営も行っているFCC社長の深沢正司さんは「A型事業所は多様な仕事を創出でき、障害者にいろいろな仕事につくチャンスを提供できる」と指摘。悪しきA型への対策では「良きA型の運営が厳しくならないよう十分に配慮が必要」とし、フォーラムでの議論に期待を寄せている。

【神奈川新聞】


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