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A型事業所の可能性〈中〉 社会福祉法人の挑戦

社会 神奈川新聞  2015年03月24日 03:00

豊芯会が手掛けるA型事業所=東京都豊島区
豊芯会が手掛けるA型事業所=東京都豊島区

◇支援対象の拡大を

 企業で就労するのが困難な障害者が、雇用契約を結んで働く就労継続支援A型事業所。その新たな可能性を探ろうとしているのが、2月に発足したNPO法人「就労継続支援A型事業所全国協議会」(全Aネット)で事務局を務める社会福祉法人豊芯会(東京都豊島区)だ。東京家政大教授で、全Aネット理事にも就任した上野容子理事長は「障害者だけでなく、さまざまな事情で一般企業で働けない人も対象にしたソーシャルファーム(社会的企業)に発展させたい」と語る。

 ソーシャルファームは、障害者をはじめ高齢者、母子家庭の母親、ニート・ひきこもりの若者、刑務所出所者、ホームレスなど仕事を見つけにくい就労弱者に働く場を提供する事業体。通常のビジネス的手法を基本に市場原理の下で活動し、同じ労働者として従業員の対等性も重視する。公益的な仕事をビジネス的手法で行うソーシャルエンタープライズ(社会企業、社会的企業)の一形態にあたる。

 欧州では、税制上の優遇措置や公共調達など公的支援制度も設けられ発展している。上野理事長は「日本の既存の制度ではA型事業所が一番近い」と語る。「障害者の労働者性を担保しているA型事業所は悪くない制度。いろいろな人が働けるように受け入れ対象の範囲を広げられないか考えていきたい」

■先取り

 豊芯会は就労継続支援A型、B型(非雇用)、地域活動支援センター、生活訓練、グループホームなどの事業を展開し、精神障害者約180人(うちA型21人)が利用し、常勤17人、非常勤29人の職員を擁する典型的な障害者支援団体だ。

 1978年、同区の精神科クリニックの医師が精神障害者の日中の居場所にと、自費でマンションの一室を借りたのが始まりだった。障害者のサポートにあたったのが、クリニックのソーシャルワーカーだった上野理事長。仕事も探したが、最初は1個70銭の雑誌の付録とじ。当時は内職仕事しかなかった。

 地域作業所として93年に商店街で喫茶店をスタート。95年には社会福祉法人となり、さまざまな事業を展開していった。2001年から豊島区の「ひとり暮らし高齢者配食サービス事業」を受託するなどして「何人かに最低賃金を払えるようになった」。06年の障害者自立支援法施行を受け、08年から配食サービスなどをA型事業所とした。

 そして現在の大きなテーマが障害者ではないが一般就労が難しい、制度の狭間(はざま)にある人たちの支援だ。

 制度ができる前から必要に迫られて活動してきた上野理事長は「こういう仕事をしたい。そのためにどんな制度が使えるのか、どんな制度が必要かを考えるべきだ」と語る。

■二極化

 豊芯会では重いアトピー性皮膚炎を患うTさん(45)をはじめ、長年ひきこもりだった男性、育児中の母子家庭の母親といった、障害者ではないが一般企業に就職できなかった人が4人働いている。

 Tさんは就職2年目、結婚直後の24歳の時、職場の内装工事をきっかけに持病のアトピー性皮膚炎が重症化した。かゆさ、痛さから夜も眠れない。外出もできない闘病生活を送り、1年後に退職した。症状が緩和した数年後から職探しを始めたが、「フルタイムは難しいと言うと、どこも雇ってくれなかった」。

 31歳の時、ようやく見つけたのが、豊芯会の配食サービスの運転手の求人だった。事情を説明し、午前中の2時間半だけの勤務で働き始めることができた。Tさんは「妻の支えがあったが、そのまま家に居続けていたら精神的におかしくなっていたと思う。本当に救われた」と当時を振り返る。7年前からはほぼフルタイムで働けるようになり、現在は病状を見ながら一般企業への就職を目指している。

 A型事業所の非常勤職員としてTさんは、障害者の良き先輩役、目標になっているという。福祉の現場について「障害者と支援者の職員だけだと二極化して難しい。多様な人が一緒に仕事をすることが、あるべき姿ではないか」と語る。

 自らの経験から「格差社会が進む中で、落ちこぼれた人や弱い人を支え、立ち直る場所が必要」とソーシャルファームに期待をかける。ただし、事業の厳しさは現場で日々実感している。「注文がなければ(障害者の)賃金は払えない。公的支援がないと難しい」とも指摘した。

◇制度の見直しも進行

 国は現在、障害者総合支援法の「3年後の見直し」作業に入っている。障害者の就労の制度的枠組み、所得保障のあり方は大きなテーマだ。

 障がい者制度改革推進会議総合福祉部会が2011年にまとめた「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」では、就労移行支援事業、就労継続支援A型、B型、生活介護事業、地域活動支援センター、小規模作業所などを「障害者就労センター」(労働法適用)と「デイアクティビティーセンター」(非適用)に再編成。労働法適用における賃金補填(ほてん)の制度化の検討を求めていた。

 多様な働き方の制度化について試行事業での検討も求めた。対象に挙げられたのが、障害者の最低賃金を確保するために賃金補填を制度化した大阪府箕面市の社会的雇用助成制度や障害のある人、ない人が対等な立場で働く滋賀県の社会的事業所などだ。

 箕面市の社会的雇用助成制度は「同じお金(公的資金)を出すなら、障害者の手に乗るお金がより多くなる方法」を取るべきだとして、A型、B型事業所と比べて事業所の運営費、人件費への支給を少なくする一方、利用者の最低賃金の一定額を補填する。滋賀県の社会的事業所は、障害者を50%以上雇用するなどの一定条件を満たした事業所に賃金を含めた運営費、管理費などを助成している。

 いずれも、障害者の最低賃金を保障することで就労機会拡大を図っている。箕面市の試算では、社会的雇用助成制度を国の制度にした場合、非就労による生活保護や日中活動のコストが減るため、年間430億円の社会的コスト削減になるとしている。

 制度的枠組みの問題も、賃金補填と障害年金の関係が議論となる所得保障の問題も、多様な意見が交錯している難題。どこまで見直しが行われるかが注目されている。

【神奈川新聞】


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