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ミュージカル「デスノート」で天才殺人鬼・夜神月を演じる柿澤勇人(他の写真を見る)
ミュージカル「デスノート」で天才殺人鬼・夜神月を演じる柿澤勇人(他の写真を見る)

 ノートに名前を書かれた人間は必ず死ぬ。

 死神が落としたノートを手にし、理想の世界を築き上げようとする秀才・夜神月(やがみ・らいと)と、名探偵・L(エル)との頭脳戦を描いたアニメ「DEATH NOTE」が、ミュージカル「デスノート・ザ・ミュージカル」としてよみがえる。公演は4月6日に東京・日生劇場で幕開け。俳優の浦井健治(33)とWキャストで天才殺人鬼の主人公・夜神月を演じる俳優、柿澤勇人(27)に聞く。

 身長175センチ、すらりと伸びた手足が印象的だ。プロフィルに目を落とすと、「50メートル走のベストタイムが5秒9」と記されている。「高校時代ですよ」と謙遜したが、聞けば3、4歳のころからアルゼンチンのサッカーの名選手、ディエゴ・マラドーナにあこがれボールを追っていたそう。1986年のW杯メキシコ大会、イングランド戦で約60メートルをドリブルし、5人を抜いて得点を決めた伝説のシーンを収めた映像を、すり切れるほど見ては練習に励み、カズ(三浦知良)などが所属していたJ1「ヴェルディ川崎」(現・東京ヴェルディ1969)のジュニアユースに入団し、プロを夢見た。

 “トリコマ”の愛称で知られる都立駒場高校に進学。全国から強豪が集まる正月の国立競技場を目標に見据えたが、部員200人、4軍まであるチームの中で頭角を現すのは困難を極めた。「中学までは自分よりもうまい子がいなくてプロになれると信じていたけど(先発出場できる)11人の枠に入ることは難しかった」。幼いころからの夢が遠のきそうになった高校1年生のとき、課外授業で出向いた劇団四季のミュージカル「ライオン・キング」の舞台に触れ、そのエネルギーに圧倒され「自分も立ちたい」とスポットが輝くステージにひかれた。

 高校の3年間はサッカーを続け、レギュラー入りのため力を尽くした。かなえた3年生のとき、目標を「ライオン・キング」の舞台に立つことに方向転換。マラドーナに魅了された少年は、当時テレビ番組の企画で「ライオン・キング」のステージに立とうと鍛錬していた芸人・ナインティナインの岡村隆史がダンスに打ち込む様子を追いかけた映像をバイブルに、舞台の勉強に励んだ。祖父は三味線奏者、曾祖父は浄瑠璃の語り手で、ともに人間国宝というエリート家系。芸の厳しさを知る家族から猛反対されたが、「2年間だけ」と約束し、昼間は大学に通学、夜は養成所で表現を学んだ。

 「1度決めたことは投げ出さない」のが信条。倍率100倍以上の難関を突破し、2007年に劇団四季に入団。半年後には「ジーザス・クライスト=スーパースター」でデビューと、めきめきと頭角を現していく。一方で、演劇と学業を両立することにもこだわり、7年をかけて大学を卒業。演劇が好き、芝居が好きという気持ちが自分を奮い立たせるが、「自分は舞台にふさわしいのか、いつも不安」と目を伏せる。

 不安な背中を押してくれたのは「ライオン・キング」(2008年)の舞台に抜てきした演出家の浅利慶太から、「自分の時計を見ろ」と言われたこと。「自分をダメだと思うな。役者の花が開くときは、それぞれ違う」と言われ心が軽くなった。表現の世界には正解がない。蜷川幸雄に見いだされ演じた「海辺のカフカ」(2012年)では「性格をねじ曲げられるくらい、ぼこぼこにされた」と苦笑い。同作は6月には再演が決定。約2年ぶりの再会を前に「成長したと認めてもらえなかったら役者を辞めよう」と心が揺れたが、「芝居が良くなった」とほめられ「続けていいんだな」とほっとした。同作では本場ニューヨークやロンドンなど世界に飛び出すことも決まった。

 闘志を全面に押し出す性格ではないが、焚き付けられた情熱の火を静かに燃やし続けるタイプ。役に向き合い、己に向き合い、柿澤ならではの“ライト像”を深めている。拾ったノートに名を記した人間が死んだとき、ライトは自分が人殺しになったのだとうろたえる。しかしノートの力を使えば、闇に姿を隠した犯罪者を葬ることができる。「この仕事ができるのは、僕一人だけだ」と“信じ”狂っていく。「普通の青年が狂っていく怖さを見せたい」と力を込めた。

 「演劇は社会を映す鏡だ」と蜷川に教わった。どんなことも正面から見るだけではなく、斜めから後ろから、横から、多方向から見て、感じなければとアンテナをはりめぐらせる。「役者になり、ずいぶん屈折した人間になった」と笑う。インタビュー後に行った撮影では、ライトの二面性を表したいからと鏡越しに撮影することを告げると、頭にはてなが浮かんだよう。「見てもいいですか?」との声に撮影データを見せると、「あぁ、分かりました」と口元をほころばせ鏡に向かうと、1カットごとに表情を変えて見せた。

 憂い、幸福、不安、怒り。柿澤が感じたすべてが、役ににじみ出ていくのだろう。

かきざわ・はやと 1987年10月12日、神奈川県生まれ。07年に劇団四季の養成所に入団。「ジーザス・クライスト=スーパースター」で舞台デビュー。数々の主役をこなし、09年末に退団。以後、映画、ドラマ。舞台へと活動の場を広げている。4月から始まるミュージカル「デスノート・ザ・ミュージカル」は、2003年から「週刊少年ジャンプ」に連載され、世界累計発行部数3000万部を超えた同名マンガが原作。9月からは、宮沢りえ主演の「海辺のカフカ」(村上春樹原作、蜷川幸雄演出)に出演し、英米、韓国、シンガポール、豪州に飛び出して行く。
詳細は公式サイト(http://www.horipro.co.jp/kakizawahayato/)で確認を。






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