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絵本
津波そのとき〈3〉 「てんでんこ」園児に

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神奈川新聞  2004年06月06日公開  

野田村の園児90人の「津波てんでんこ」を絵本にした宇部さん
野田村の園児90人の「津波てんでんこ」を絵本にした宇部さん

 再び津波が襲ってきたときに、しっかりと命をつなぐ。4年の節目を前に東日本大震災の教訓を試される場面があった。

 2月17日午前8時6分、マグニチュード(M)6・9の大地震。3分後、岩手県沿岸に津波注意報が発表された。最大震度4と大きくはなかったものの、震源は4年前のあの日を想起させる三陸沖だった。

 三陸海岸から約650メートルの住宅街に位置する久慈市の久慈湊保育園では、登園したばかりだった園児約20人が職員の誘導で近くの高台へ急いだ。避難先に決めていた神社への階段を上る手前で、中田恵子園長(60)がバッグから一冊の絵本を取り出す。

 「やぶをぬけ、はたけをつきぬけて…。てもあしもつめたくなってぼうのようです。いきがきれて、のどがひいひいなっています。なかないのに、なみだがでて、はなみずもでてほっぺにこおりついてきます。それでも、はなちゃんもみんなも、つなみてんでんこ てんでんこ てんでんこ… はやあるき はやあるき はやあるき」

 読み聞かせたのは、1月に刊行されたばかりの「はなちゃんのはやあるき はやあるき」。評判を耳にした中田園長が偶然にも前日の16日に買い求め、園に置いておこうと出勤時にバッグに入れていたのだった。

 自分たちが直面する状況に重なるような場面が描かれた絵本。保育園児だった主人公のはなちゃんは命を守り、小学生になる。

 「はなちゃんは、まえにもましてはなちゃんです。はなちゃんがにこにこしていると、みんなえがおになります」

 避難先で読み終えた中田園長は、園児たちの顔つきに胸をなで下ろした。「同じ世代の主人公が立派に行動する姿に勇気をもらったのか、みんな聞き入っていた。園児は1人が泣きだすと、連鎖するようにみんなで泣いてしまう。だから、落ち着かせることが必要だった」

 絵本は実話に基づく。久慈市に隣接する野田村であった「奇跡の脱出」。4年前の巨大津波で、村にある家屋の3割に当たる約480棟が全半壊したが、海沿いにあった野田村保育所の園児90人は、押し寄せてくる津波から一人一人がわれ先に逃げる「津波てんでんこ」を実践。職員とともに1キロほど離れた高台の村立野田中学校へ急ぎ、難を逃れた。

 この保育所で調理師として働く義妹からエピソードを聞いた久慈市の主婦宇部京子さん(63)が、当時の状況を詩にまとめたのは2年前。震災直後から野田村に食料を届けるなど支援に携わり、被災地の状況が落ち着きを取り戻し始めたころ、思い至った。「この話を書き残さなければ」

 詩集制作の経験を生かしつつ、保育所職員への聞き取りを重ねた。師事する児童文学作家に完成した自作の詩を見せると、絵本にするよう勧められた。

 中田園長は思う。「子どもはもちろん、職員も学ばなければ。互いに助け合える『てんでんこ』のために」。避難の大切さを幼い子にも分かりやすく、でも不安にはさせない。将来を見据えた模索が続く。

【神奈川新聞】


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