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メーカー訴訟で確立目指す
原発ある未来選ぶ?

社会 神奈川新聞  2015年03月08日 03:00

ノー・ニュークス権を提唱した島弁護士
ノー・ニュークス権を提唱した島弁護士

 新しい人権として、原子力の恐怖から免れて生きる権利「ノー・ニュークス権」の確立を司法の場で目指す動きがある。安全性が不安視される原子力発電所の存在が、憲法の保障する社会的生存権、幸福追求権を侵害しているとして発想された権利だ。東京電力福島第1原発事故から迎える4度目のこの春。県内にも反響が広がっている。

 ノー・ニュークス権が訴状に明記され、法廷で初となる議論が想定されているのが、2014年1月に提訴された「原発メーカー訴訟」。国内外の4千人超の市民らが、福島の原発事故で受けた精神的慰謝料として1人100円を求め、原発メーカー3社を東京地裁に訴えた。5月にも第1回口頭弁論が開かれる見込みだ。

 原発事故の責任は電力会社が一手に負い、本来責任を負うべきメーカーは免責とされてきた。原子力損害賠償法(原賠法)が規定する責任集中制度によるもので、被害者保護と原子力産業育成の両立を図る目的からだ。原告側は「メーカーに対する賠償請求が否定されていることが財産権、平等権、裁判を受ける権利を侵害し、違憲であり無効」と争う考えだ。

 ノー・ニュークス権の提唱者で原告側弁護団長の島昭宏弁護士(52)は「原賠法によってメーカーが社会的な批判や賠償を免れていることこそが、安全性を最優先することを妨げてきたのではないか。福島の事故後も技術輸出を図ろうとするなど、原子力産業の無秩序な肥大化も容認してきた」と厳しく指摘する。

 ひとたび事故が起きると、地元住民は強制避難・移住を余儀なくされ、財産権や居住・営業の自由といった数々の人権が損なわれる。島弁護士は「さらに」と立ち止まる。

 「福島の原発事故で明らかになったが、原発は安全性が完全には確保されていない。事故の有無でなく、日ごろからそうした環境で生活を強いられること自体が、また人権を損ねているのだと問いたい」

 不安に駆られることなく安全な生活を送れることを「人が人としてふさわしく生きていくための最も重要な根幹」と考える。国外にも原告参加を求めたのは、憲法前文の「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」との一節も踏まえてのことだ。

 現行憲法には明記されていないが、プライバシー権など判例で固まっている新しい人権は存在する。島弁護士は「裁判を通じ、ノー・ニュークス権の存在が認められれば成果は非常に大きい。その人権を根拠に、原発被災者の支援拡充や原発再稼働差し止めを求めるのに生かされる」と話す。

 裁判の勝敗にかかわらず、ノー・ニュークス権への関心を集めることが、原発社会への再考を促す新たな判断材料になると信じる。「原発のある未来か、そうでない未来か。考えを深めてもらう機会にしたい」と島弁護士は言う。



 原発メーカーの責任を問うこうした動きに対し、メーカー側は「国の立法、政策に係る事項であり、コメントする立場にない。法令に従い対応する」「原賠法は、原因にかかわらず電力事業者への責任集中を定め、万一の事故の場合に市民に対して適切で迅速な補償が行われるための制度と認識している」などと説明。あるメーカーは「今回の事故を検証した複数の調査機関は、いずれも今回のアクシデントは津波と津波による海水ポンプの機能停止および全電源喪失によるものと結論づけており、原子炉の設計が問題とはしていない」とコメントした。

◆憲法上の生存権と幸福追求権 生存権については25条で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」とする。幸福追求権は13条で「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と規定した。

県内で広がる共感

 「原発はいいもんだぜ。ウラン数グラムで石油何千リットル分ものエネルギーを生む。資源のない日本には最高だよ」。関西電力美浜発電所の炉心設計にあたった兄がかつて漏らした。

 「当時はむしろ賛同していた」と語るのは、今訴訟原告の男性(67)=南足柄市。自身も大学院で原子炉の研究に明け暮れた。「憧れの技術だった」

 考えを変えたのは福島第1原発事故の後だ。多くの人のふるさと、住まい、職を奪った。被ばくの脅威。漏れ出した放射性物質の除去の困難さ。南足柄でも名産品の茶葉からセシウムが検出され混乱が生じた。「原子力発電で得る効果を上回る費用、犠牲が生じた。今後も完全な被害回復は難しいはず」

 ノー・ニュークス権を知った時、原発のリスクを語るのに最適な説明に思えた。「事故が起きるまで目を向けず、知ろうとしなかった責任として、賛同を通じて声を上げねばと思った。絶対に安全だと言えない原発に依存した社会には限界がある、と」

 同じく原告に名を連ねる介護施設アルバイトの女性(43)=海老名市。事故後、脱原発関連のデモや集会に参加するようになった。「どうしたら原発をなくしていけるか、もっと知りたいと思った」からだ。

 しかし、そうした場で得た情報や思いを共有する難しさにも直面した。かつて派遣社員として働いた都内の会社では「オフィスの前を脱原発デモが通るから手でも振って応援して」と何げなく周囲に呼び掛けたことが問題視された。

 「会社から『営業妨害だ』と叱責(しっせき)された。再び同じことをしない旨の書類に署名まで求められた。原発の安全性に多くの人が疑問を感じているのに、話題にすることすらタブー視された」

 原発輸出に向けた動きも出ていた2013年秋、ノー・ニュークス権を知る。「原発反対と唱えるだけでは仕方ない。訴訟を通じ、権利としてあるものと広く伝えられれば共感を広げられる。それが脱原発社会への一歩だし、福島の事故への反省にもなる」

 原告弁護団に県内から加わる岩永和大弁護士(36)=川崎パシフィック法律事務所=は、川崎市内に暮らす震災避難者の相談を受けてきた。ノー・ニュークス権を主張する意義をこう説明する。

 「今後に判例が積み重なる契機になるかもしれないし、さらにもっといい別のアイデアが出てくるかもしれない。すぐに大きな成果に結びつかなくても、これからを変える布石をみんなで打ちませんか、ということでもあるのです」


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