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神奈川県知事選:検証 黒岩流〈5〉メッセージ 正確さよりも衝撃度

政治行政 神奈川新聞  2015年02月25日 11:15

薄膜太陽電池を手に普及拡大事業を説明する黒岩知事。太陽光発電普及の起爆剤として2年間で10億円の県費を投じる仕掛けで、「神奈川から新たな市場を創出したい」と強調した=2014年4月
薄膜太陽電池を手に普及拡大事業を説明する黒岩知事。太陽光発電普及の起爆剤として2年間で10億円の県費を投じる仕掛けで、「神奈川から新たな市場を創出したい」と強調した=2014年4月

「メッセージは雑な表現でいい。相手に一瞬で思わせられるかだ」

昨年1月、平塚市の東海大で講演した知事の黒岩祐治が、学生たちに持論を熱っぽく語りかけた。

キャスターとして常に心がけてきたのは「刺さる言葉」。当時取り組んだ救急医療キャンペーンでは、医療行為は医師にしか許されていないのを知りながら、あえて「医療行為のできる救急隊を実現しよう」とのフレーズを用いた。2年後、救急救命士法が成立。自らのメッセージが世の中を動かしたと実感した瞬間だった。

黒岩は「分かりやすさと、正確な言い方は必ずしも一致しない。言葉選びに悩むが、伝わるメッセージを優先することもある」と明かす。

神奈川フィルハーモニー管弦楽団の支援では、「神奈フィルがつぶれる!」というセンセーショナルな物言いが奏功した。個人や企業から多額の寄付金が集まり、再建につながった。

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正確さよりも衝撃度。従来の首長にはない発想で繰り出されるメッセージは、しかし空回りすることも少なくなかった。「横浜をブロードウェーにする」「神奈川を独立国にする」「マイカルテ構想で医療革命を起こす」。いずれも華々しい物言いと、黒岩が実際に進める取り組みとの落差ばかりが際立った。

典型は、前回知事選で掲げた「4年で200万戸に太陽光パネル設置」の公約だ。選挙前、側近らは「数字を明記すべきでない」と止めたが、数字が持つ衝撃度に黒岩はこだわった。

「夢のような数字」(県幹部)は、4年間で達成の道筋を描けず、2割弱の数字にまで下方修正を余儀なくされた。それでも黒岩は事実上の公約撤回に対する反省よりも、太陽光発電が加速する全国状況を指し、「200万戸のメッセージがマーケットに飛び、各企業が本気でパネルを作り始めた。われわれは起爆剤となった」と胸を張った。

マイカルテ構想のお薬手帳電子化実験の低迷、国家戦略特区の規制緩和適用の乏しさ…。黒岩はこうした状況を会見で問われても、同じようにあまり反省めいた言葉は口にしない。

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「こんなにいろいろやっているのに、マスコミがなかなか取り上げない」。就任から丸2年を迎えた2013年春ごろ、横浜市内で開かれたランチセミナー。支援者らを前に冗談めかしてぼやく黒岩の姿に、前回知事選を手伝った側近は思わずつぶやいた。「メッセージ力、落ちたな」

刺激的な文言を乗せる黒岩のメッセージは、今では議会でも「言っていることは立派だが、形が整っていない。歴代知事と比べても重みがない」(ベテラン県議)と額面通り受け取られていない。メディアも同様だ。黒岩県政に関わる報道は1年目に比べ、確かに減っていった。

言葉の衝撃度と実態の落差ゆえに力を失っていくメッセージ-。海老名市長を3期務める県市長会会長の内野優は、同じ首長の立場から気に掛ける。「太陽光パネル200万戸は大きな目標で悪いことではない。ただ、政策は一貫性が求められる。トーンダウンしたときにきちんと説明責任を果たさなければ、信頼を失ってしまう」

=敬称略

◆「4年で200万戸に太陽光パネル設置」 東日本大震災直後、黒岩知事が2011年4月の知事選で掲げた公約で、唯一の数値目標として「4年間で太陽光パネル200万戸の設置」を示した。東電福島第1原発事故を受けた「エネルギー革命」を目指したが、就任半年後に事実上撤回。新たな導入目標を55万戸分と大幅下方修正し、14年4月には34万戸分とさらに引き下げた。

【神奈川新聞】


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