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戦闘発生時の「日報」廃棄 陸自3カ月足らずで 南スーダンPKO

時代の正体 神奈川新聞  2016年12月14日 05:59

情報公開請求で「不開示決定」とした理由が示された通知書。「既に廃棄しており、保有していなかったことから、文書不存在につき不開示としました」と記載されている(布施さん提供)
情報公開請求で「不開示決定」とした理由が示された通知書。「既に廃棄しており、保有していなかったことから、文書不存在につき不開示としました」と記載されている(布施さん提供)

国連PKO施設へ向かう陸上自衛隊員。新任務の「駆け付け警護」と「宿営地の共同防衛」を担う=2016年12月12日、南スーダン・ジュバ(共同)
国連PKO施設へ向かう陸上自衛隊員。新任務の「駆け付け警護」と「宿営地の共同防衛」を担う=2016年12月12日、南スーダン・ジュバ(共同)

【時代の正体取材班=田崎 基】南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣されている陸上自衛隊施設隊が首都ジュバで大規模な戦闘が起きた今年7月7~12日にまとめた日報が、3カ月足らずで廃棄されていたことが13日、分かった。ジャーナリストの布施祐仁さん(39)がこの期間の日報を情報公開請求したところ、「既に廃棄」を理由に「不開示」とされた。布施さんは「国民も国会議員も後に検証できない」と、貴重な1次資料の廃棄を問題視している。

 情報公開は9月30日付で請求。日報が作成された翌日から起算したとしても3カ月もたたず廃棄していることになる。


PKO施設へ向かう陸上自衛隊の車両=2016年12月12日、南スーダン・ジュバ(共同)
PKO施設へ向かう陸上自衛隊の車両=2016年12月12日、南スーダン・ジュバ(共同)

 陸自の内部資料によると、派遣部隊の「日報」は後の訓練のための基礎資料として活用される「主要教訓資料源」とされ、特にPKO派遣などでは錬成訓練のシナリオや、現地での教訓を後に反映させるために使われる重要な資料とされる。

 陸上自衛隊文書管理規則では、PKO業務に関する文書の保存期間基準を「3年」と規定している。一方、備考欄に「随時発生し、短期に目的を終えるもの及び1年以上の保存を要しないものの保存期間は、1年未満とすることができる」と例外を記載している。廃棄の根拠について統合幕僚監部報道官室は神奈川新聞社の取材に「すぐには分からない。調査している」と回答した。


ジャーナリストの布施祐仁さん
ジャーナリストの布施祐仁さん

 布施さんは、この例外規定に当たると判断し廃棄したと推測するが、「『短期に目的を終えるもの』とは到底考えられない。恣意(しい)的に判断したとすれば、その妥当性が問題になる」と指摘する。

 南スーダンでは政府軍と反政府勢力による武力衝突が相次ぎ、7月8~11日にはジュバで大規模な戦闘が発生、270人以上が死亡した。非政府組織(NGO)の女性職員がレイプされたり、施設内の備品が略奪されたりしている。

揺らぐ文民統制

 派遣正当性 検証に影響も
 南スーダンへ派遣されている自衛隊が作成した「日報」がわずか3カ月足らずで廃棄されていたことにジャーナリストの布施祐仁さん(39)は危機感を募らせる。「国民や国会議員が1次資料で検証できない。つまり自衛隊の運用で最も重要なシビリアンコントロール(文民統制)が利かないということ。それは民主主義の危機を意味する」


ジャーナリストの布施祐仁さん
ジャーナリストの布施祐仁さん

 「日報」に着目したのは、次の派遣の際に行われる訓練や基本教育の基礎資料として使われていることが分かったからだった。南スーダンで起きた7月の大規模戦闘の状況について日報に記載されているはずで「非常に中身のある文書なのではないか」と見込んだが、回答は予想外の「廃棄」だった。

 これまでも自衛隊に関連する資料を情報公開請求してきた布施さんは「黒塗りならまだ分かるが、3カ月足らずで『廃棄』というのは見たことがない。違和感があるし、ふに落ちない」と不信感を強める。

 日報の意義について「自衛隊の派遣継続や新たな武器使用任務の付与の可否を判断する上で、7月の大規模戦闘で自衛隊がどういう状況に置かれ、どう判断し、どう行動したかはとても重要な1次資料だったはず」と指摘。今後の有事の際、派遣継続などの判断の正当性を検証する上でも欠かせないはずだった。

 稲田朋美防衛相は11月22日の参院外交防衛委員会で、7月の大規模な戦闘に関して「南スーダン情勢については可能な限り国民の皆さんに説明する」と答弁。こうした閣僚発言からも、日報の廃棄は問題点が多い。


PKO施設内で防護壁の設置作業をする陸上自衛隊員。奥は避難民キャンプ=2016年12月12日、南スーダン・ジュバ(共同)
PKO施設内で防護壁の設置作業をする陸上自衛隊員。奥は避難民キャンプ=2016年12月12日、南スーダン・ジュバ(共同)

 仮に日報で停戦合意が破綻している状況が報告されていたり、反政府勢力が「紛争当事者」として支配地域を有していると判断されていれば、国連平和維持活動(PKO)派遣の基本方針である「PKO参加5原則」に反する。つまり派遣は憲法9条に違反し、違憲ということにもなる。

 布施さんは「南スーダンは既に、政府軍と反政府勢力の対立、あるいはヌエル族とディンカ族の部族対立という単純な構図ではなく、もっと複雑化してしまっている。戦闘地域も当初の北東部から全土へと拡大している。政府は『武力紛争』を『衝突』と置き換え、反政府勢力の『支配地域』を『活動が活発な地域』と言葉だけ置き換えている」とし、政府が意図的に情勢判断をゆがめていると見る。「自衛隊を派遣するために事実をねじ曲げ、つじつまを合わせようとしているとしたら、問題は極めて大きい」と話している。


PKO施設へ向かう陸上自衛隊の車両=12日、南スーダン・ジュバ(共同)
PKO施設へ向かう陸上自衛隊の車両=12日、南スーダン・ジュバ(共同)

「9条」と「自衛隊」と「国際貢献」と-



 安全保障や憲法論議に詳しい倉持麟太郎弁護士は、南スーダンPKO派遣に憲法上の問題があると指摘する。問題の根底には「国際貢献」と「憲法9条」の矛盾、現実との乖離(かいり)と、私たちがどう向き合うかにあるという。


倉持麟太郎弁護士
倉持麟太郎弁護士

 「威勢良く『国際貢献が必要だ』と言い、同時に『9条守れ』ということに欺瞞(ぎまん)がある。突然道ばたで突然爆弾が爆発するようなところへ、丸腰で国際貢献に行け、と言っているのが、いまの日本だ。1日に何百人という人が殺されるようなところへ、『人』が行っているという戦闘の現実をどう受け止めるか」

 日本政府が南スーダンで起きている状況を「武力紛争」といわず「衝突」と言っていることに、決して交わらないパラレルワールドを見る。「自衛隊の海外派遣や国際貢献は『必要性』という側面しか語られない。だが、常に『許容性』と同時に議論しなければならないはずだ。つまり高い必要性があったとして、許容し得ないものは行えない。それが法である」

 そして、倉持さんはこう指摘する。「憲法は9条で『プリ・コミットメント』をしている。事前にできないことを宣言しておくことで危機的状況に陥らない、という発想だ」

 人は、目の前で助けを求める人がいれば手を差し伸べ助ける。自らの手に武器があれば引き金を引いてでも助けようとする。また、その武器を意のままに扱おうとする誘惑にも負ける。


PKO施設内で警戒する陸上自衛隊員が身につけている拳銃=2016年12月12日、南スーダン・ジュバ(共同)
PKO施設内で警戒する陸上自衛隊員が身につけている拳銃=2016年12月12日、南スーダン・ジュバ(共同)

 そうした状況に陥ることを事前に避けるために、憲法は「国際紛争を解決する手段」として「武力を行使」しない、と権力を拘束している。

 「この前提に立てば、論理的には南スーダンから即時撤退するか、あるいは9条とPKO参加5原則を変えるしか選択肢はない」

 だが、撤退は南スーダンを見捨てることを意味する。「そうした選択を私たちはできますか。日本は、虐殺が起きていても9条があるので帰国します、と言えますか。そこにまず立ち戻らなければいけない。その原点に立ったとき、では何か他の支援ができるのではないかと、外交的働きかけの可能性を模索したり、国際貢献のあるべき姿を議論した上で9条の改正を現実的に考えることもできるのではないでしょうか」


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