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英記者ジョン・ミッチェルさん 
時代の正体〈64〉沖縄、続く「戦争犯罪」

時代の正体 神奈川新聞  2015年02月10日 11:42

1981年、普天間飛行場で発見されたドラム缶(ミッチェルさん提供)
1981年、普天間飛行場で発見されたドラム缶(ミッチェルさん提供)

1960、70年代のベトナム戦争時、沖縄では枯れ葉剤が貯蔵され、使用され、そして廃棄されていた-。そんな埋もれた「戦争犯罪」を追うジャーナリストがいる。英国・ウェールズ出身のジョン・ミッチェルさん(40)=川崎市川崎区、明治学院大学国際平和研究所研究員。米国政府がひた隠し、日本政府が追従する現在進行形の問題として、環境汚染や住民らの健康被害に警鐘を鳴らす。戦後70年、基地負担に苦しみ続け、基地あるが故に枯れ葉剤被害の危険性にもさらされる沖縄。今春にはベトナム戦争終結40年を迎えるが、こう強調する。「沖縄では、今も戦争は終わっていない」

■日米の境界なく

漂うのは、塩素とガソリンが混ざったような臭い。「ベトナムにあるダイオキシンのホットスポットと同じですね」。2014年11月、米軍嘉手納基地の返還地に造られた沖縄本島中部の沖縄市サッカー場の改修工事現場。枯れ葉剤の専門家が発した一言に、ミッチェルさんは鳥肌が立った。

13年6月以降、米軍が投棄したとみられるドラム缶が次々と掘り出された。異臭を放ち、多くは原形をとどめていない。一部にはベトナム戦争時の枯れ葉剤製造大手の社名が記され、枯れ葉剤の主要成分など有害物質が検出された。これまでに発見されたドラム缶は80本を超える。

「沖縄に枯れ葉剤が存在した動かぬ証拠」。土壌汚染や人体への危険性が懸念されるサッカー場をそう表現する。工事直前まで子どもたちが駆け回っていた。フェンス越しの米軍基地内には小中学校が見える。「枯れ葉剤の汚染に日米の境界はない。沖縄で今も続く戦争犯罪です」

■米国は存在否定

「ベトナム戦争中、(隣接する)米軍北部訓練場で枯れ葉剤が使われたという噂(うわさ)が絶えない」。やんばるの森に囲まれた本島北部の東村高江を訪ねた10年9月、住民からそう打ち明けられた。以来、米国やベトナムにも足を運び、沖縄に駐留した退役米軍人や元基地従業員、住民、専門家らへの取材を重ねた。

骨髄がん、糖尿病、神経障害、流産や先天性異常児の出産…。退役軍人らは「枯れ葉剤が原因とみられる病気で苦しみ、子どもにも影響していた」。だが米国は「証拠がない」と繰り返し、沖縄での枯れ葉剤の存在を否定。「ベトナム帰り」の退役軍人と異なり、「沖縄帰り」の人々が求める医療補償を門前払いしてきた。「高額な賠償責任と、日本との間に生じる政治的問題を恐れ、隠蔽(いんぺい)している」。日本政府は米国を追認しているといい、「手放しに米国を信じてはいけない」と警鐘を鳴らす。

地道な取材で退役軍人らの証言を引き出し、写真や米軍の内部資料も入手した。核兵器や化学兵器同様、枯れ葉剤が極秘裏に沖縄の米軍基地に持ち込まれ、地中に埋められたり海に投棄されたりする一方、退役軍人や沖縄の人々は危険性を知らされないまま被ばくしていた。

那覇軍港では枯れ葉剤入りのドラム缶が次々と運び込まれ、安全装備を支給されなかった荷役作業の米兵や沖縄の基地従業員は、全身に液体を浴びた。辺野古のキャンプ・シュワブでは漏れ出した大量の液体が海に流れ出た。普天間飛行場では高濃度の化学物質を含んだ水が民間地に流出、掘り起こすとドラム缶100本以上が見つかり、一部には枯れ葉剤を示すオレンジ色の帯が記されていた-。そんな証言も次々と集まった。

「米国がどれほど深く枯れ葉剤を埋めようとも、真実は隠せない」。浮かび上がったのは、ベトナム戦争の支援基地として米本土からベトナムに枯れ葉剤を運び込む経由地・沖縄での「戦争犯罪」だ。

多くの米軍基地では頻繁に除草用として使われた。1960年代、本島東部で海水浴をしていた230人以上の子どもたちがやけどなどの症状で負傷した事件は、同時期に付近で散布証言がある枯れ葉剤の影響が濃厚だ。米兵が闇市で転売するなど、住民らが農地や家庭で除草用に使っていたという。

■急務の健康調査

「米軍に雇われた人々が早くに亡くなった」「地域で白血病を患う人数が突出している」。枯れ葉剤による健康被害を懸念し、住民らが証言した。「沖縄の水がめ」と呼ばれるやんばるの森でカメやカエルなどの奇形が発見されたと、2007年に地元紙が報じている。

ミッチェルさんにとって特に気掛かりなのは、次世代への影響だ。出生異常や小児がんなど、深刻な症状を抱える米軍基地内の子どもは少なくないという。

だが米国内と異なり、日本では地域ごとの健康調査を行っておらず、住民の病気の実態は把握できていない。枯れ葉剤と沖縄の人々の健康被害に相関関係は確認されていないが、「調査されていないだけ」と指摘。「政府は一刻も早く住民や元基地従業員の健康調査を行うべき」と訴える。

まちづくりにも影を落としかねない。例えば、普天間返還後の跡地利用。沖縄経済の活性化に大きく寄与すると期待されるが、環境浄化には何年もかかるといい、「普天間の危険性は空だけではない。地面の下にも埋まっている」。

■本土でも危険性

すでに返還された基地跡地、近い将来の返還予定地、今も米軍が占有する基地内など、枯れ葉剤は「沖縄ではどこに埋まっていてもおかしくない」。背景にあるのは、米軍が好きなように利用できた「軍事植民地」という沖縄の歴史だ。

基地の過重負担を強いられる沖縄の現状を「世界的にも異常」と強調し、「人権問題。沖縄への差別がある」と言い切る。沖縄の枯れ葉剤問題は米国や英国、フランス、ロシア、中国など世界各国のメディアが報じているが、「東京中心の日本のメディアは報道しない。とても、とてもおかしい。自分たちとは関係ないと思っているようです」。

枯れ葉剤問題はしかし、沖縄だけの問題ではない。「神奈川など本土の米軍基地も、ダイオキシンやポリ塩化ビフェニール(PCB)、ヒ素、鉛などの有害物質で汚染されていてもおかしくない」

だが、日米地位協定が実態把握を阻む。日本側は米軍の許可なく基地内に立ち入ることができない。返還時の原状回復や補償の義務は米国にはなく、どれほど汚染が進んでいても浄化費用は日本が負担する。14年10月、日米両政府は日本側の立ち入りを認める新たな環境協定締結の実質合意を発表したが、実効性は未知数だ。「地元自治体は必要な時に基地内の環境調査を行う権限を持つべき」と強調する。

沖縄の枯れ葉剤問題は、この国のありようを映す鏡だ。「決して、対岸の火事ではない。日本全体に関わる終わりのない犯罪です」

ミッチェルさんの4年間の調査報道をまとめた「追跡・沖縄の枯れ葉剤」(阿部小涼さん訳)が昨年11月、高文研から出版された。256ページ、1944円。

【神奈川新聞】


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