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介護報酬引き下げ 問われるサービスの質 神奈川県立保健福祉大・山崎泰彦名誉教授に聞く

社会 神奈川新聞  2015年02月07日 09:55

山崎泰彦名誉教授
山崎泰彦名誉教授

4月に迎える3年に1度の介護報酬の改定で政府は2・27%の引き下げを決定した。9年ぶりのマイナス改定で、下げ幅は過去最大に近い。介護サービス事業者からは経営悪化を懸念する声が広がっているが、被保険者には介護保険料やサービス利用料の伸びが抑えられる恩恵もある。改定の狙いについて、厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会長を務めた神奈川県立保健福祉大の山崎泰彦名誉教授(69)に聞いた。

介護報酬改定の審議には直接関わっていないが、昨年の介護保険制度改正を審議した別の部会長を務めた。

「個人的には、サービスの重点化や効率化が求められる中で、介護報酬を引き上げる理由を見つけるのが難しいと思っていた」という。

引き下げる理由は数多くある。

一つは喫緊の課題である介護給付費の抑制。

介護保険制度が始まった2000年度の介護費は約3兆6千億円だったが、14年度は10兆円に達した。介護報酬を1%引き下げれば、利用料や保険料、税金といった国民負担は年間約1千億円軽減できる。

4月からの介護保険料は当初は約15%引き上げ予定だったが、今回のマイナス改定などでこれを約10%にとどめ、全国平均で5550円程度となる見通しだ(現行は約5千円)。

もう一つは介護事業者の高い利益率。昨年の実態調査では、介護事業者の利益率は平均8%で、一般的な中小企業の2~3%と比べて格段に高い。

中でも社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームには1施設平均約3億円の内部留保があり、これを人件費に充て、職員の待遇改善やサービス向上を図るべきだとの指摘もある。

これらの「もうけ過ぎ」との見方に事業者側は反発している。施設によって内部留保のばらつきは大きく、経営難に陥る施設もあると危機感を募らせる。

しかし、山崎さんは「そもそも社会福祉法人は地域公益活動を行うからこそ非課税扱いになっており、多額の内部留保はそぐわない。余裕があるならサービスの向上、職員給与の引き上げ、地域貢献に充ててほしい」と主張する。

今回の改定では、介護の必要性が高い中重度者や認知症高齢者のためのサービスの加算は手厚くした。

「今まで通りのサービスを続ければ事業者は減収になるが、加算のつくサービスを増やせばかなり補える。望ましいサービスへの誘導効果に期待したい」

その上で「高齢化の進展による利用者増で、介護給付費は着実に増える。それが介護保険料の引き上げに連動する」という見立てだ。

■深刻な人材不足

介護報酬とは「事業者が必要な介護サービスを継続的に提供するための財政的基盤」だと山崎さんは説明する。介護サービスの継続的提供には介護職員の確保が不可欠。そのため介護報酬全体ではマイナス改定だが、職員の処遇改善に充てる加算制度は充実させ、賃金を月1万2千円程度引き上げる。

厚労省の賃金構造基本統計調査によると、13年の福祉施設介護員の平均賃金は月約22万円で、全産業平均を約10万円下回る。処遇改善加算などで多少の給与改善はあったが、介護職の多くが手取りは20万円に満たないのが実情だ。

景気回復に伴う雇用状況の好転で、介護現場での人材不足はさらに深刻になっている。このままでは団塊の世代が全員75歳以上になる25年度には、介護職員が約30万人不足するという同省の推計もある。特に産業の多い都市部では、あえて重労働低賃金の介護の仕事を選ぶ人は少なくなっている。

「これまでは失業率が高かったこともあり、なんとか介護人材を確保してこられた。だが景気回復で特に都市部では、ほかの業種とも人材確保を競わなければならなくなった。非常に厳しい状況だと認識している」

介護報酬の人件費分については、国家公務員の「地域手当」に準拠する形で現在は7段階が設定され、都市部は加算されている。だが「この加算では人材確保には不十分。もっとメリハリをつけ、特に大都市部はさらに増額が必要」というのが持論だ。

介護職の離職理由には低賃金のほかに、人間関係の悩みや研修の不十分なども挙げられている。「小規模な介護事業所が多く、多様な職場経験や研修の機会などに恵まれない。コストの効率化のためにも、事業者間の連携や合併を進めて大規模化する必要もあるかもしれない」

■実感できる価値

介護保険の被保険者のうち、要介護・要支援者の認定者は2割弱にとどまる。ほとんどの人が医療サービスを受ける機会がある健康保険と大きく異なり、国民の合意形成を難しくしている点でもある。

しかし制度開始から15年を経て、街にはデイサービスの送迎車が走るなど、介護事業者を見かける機会が日常化した。

自身もこの間、妻の母の在宅介護を経験。介護保険の訪問入浴や医療保険の訪問診療などを利用し、03年に自宅でみとった。

「介護保険制度は社会に受け入れられたと感じる。今はサービスを必要としていない人も、介護は将来的に避けられない不安材料だという認識が共有できる時代になった」と一定の達成感はある。

00年度の制度開始時には全国平均で月2911円だった介護保険料は、15年度には5550円程度とほぼ倍増となる。25年度には8200円程度まで上昇する見通しで、地域によっては1万円を超える可能性が出てきた。

「介護保険の価値を被保険者が実感できなければ、今後の保険料の負担増を受け止めてもらえない」という危機感は強い。

今後の課題は人材確保やサービス向上。合わせて、無届け施設への対応や悪質サービスの排除に本格的に取り組む必要も強調する。「制度の普及や保険料負担増とともに、介護サービスに対する社会の視線も厳しくなる。事業者に対する行政の指導監督も強化していかなければならないだろう」

◆やまさき・やすひこ 1945年生まれ。68年横浜市大卒。上智大教授、県立保健福祉大教授などを歴任し、2011年から同大名誉教授。介護保険制度に関する審議は社会保障審議会の二つの部会で行われ、制度の見直しを審議する介護保険部会長を務めた。ほかに社会保障制度改革推進会議委員、かながわ高齢者保健福祉計画評価・推進委員会委員長など。横浜市緑区在住。

【神奈川新聞】


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