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私が自由であるために 安部さくらさん
時代の正体〈48〉ハタチの叫び(上)

時代の正体 神奈川新聞  2015年01月10日 09:46

大学の最寄りの駅で雑踏を見詰める安部さん。目に映る未来は決して明るくはない=横浜市戸塚区
大学の最寄りの駅で雑踏を見詰める安部さん。目に映る未来は決して明るくはない=横浜市戸塚区

東京電力福島第1原発事故が起きたのは高校1年生の時だった。1カ月後、近所でデモがあった。カメラマンの父(57)に誘われ、見に行った。

思い思いに「原発、いらない」と声を上げ、プラカードを手にした人の列をドラムの軽快なリズムが導く。

楽しそうだった。

「お母さんが小さい子どもの手を引いて歩いていて。デモってどんなものかも知らなかったけど、みんな言いたいことを言っていて、こういうやり方があるのか、と」

想像以上の人の多さに驚き、やがて安部さくらさん(20)=東京都練馬区=は愕然(がくぜん)とする。

「自分は何も知らない」

原発反対と叫ぼうにも、原発の知識は皆無に等しかった。

知りたい、知らなきゃ。

大学に進むと平和について考えるサークルに入った。

■違和 明治学院大横浜キャンパスの国際学部に通う2年生。昨年12月9日から10日未明にかけ、仲間とともに首相官邸前にいた。学生有志の集まり「SASPL」(特定秘密保護法に反対する学生たち)によるデモだった。

寒空の下、初めて握ったマイクで震える声を響かせた。

「私はこれから先も知ることをやめません。考えることをやめません」

「言いたいことを、思ったことを表現することをやめません。おかしいことをおかしいと言うことをやめません」

午前0時、特定秘密保護法は施行された。

防衛、外交などの分野で特定秘密を指定し、国民には何が秘密かも知らされぬまま、漏えいに重罰を科す。知りたいという思いを阻むその法律に反対するため、2月から都内でデモを重ねた。友人たちを誘い合い、10月の渋谷には2千人が集った。

3・11をきっかけに政治の動きを追うようになると、すべてはつながって映るようになった。

原発再稼働に向けて粛々と進む手続き、施行された秘密保護法、閣議決定で認められた集団的自衛権の行使、自民党1強体制が補強された突然の解散総選挙。

その先に待つものは-。

背筋に冷たいものを覚えるより前、違和感が先だった。

「自分が本気で『戦争反対』って叫んでることが信じられない」

吉祥寺、原宿の古着屋を巡っておしゃれをするのが好きな、どこにでもいる女子大生の一人にすぎないのに。「とんでもない時代だと思う」

■警句 変化をはっきりと感じた瞬間があった。

毎夏、広島や長崎へ赴き、被爆者の体験談を聞いてきたが、「秘密保護法が話題になる前の2013年夏と、法律が成立して集団的自衛権の行使容認が閣議決定された後の14年夏で、語り部の熱意が一変していた」。

前年に続いて話を聞いた80歳近い被爆者は語った。

「本当に70年前の戦争の直前とよく似た状況になっている。いま止めなければ、もうすぐ戦争が始まってしまう」

世間を覆う漠然とした閉塞(へいそく)感、海外での戦争に前のめりになる政府、自由にモノが言えない雰囲気。

これまで経験を語ろうとしなかった被爆者が重い口を開き始めていた。入院している病院を抜け出し、集会に駆け付けた被爆者もいた。

異口同音に語られる「戦前と似ている」の警句。「私は聞いてしまったし、知ってしまった。『今日の聞き手は、明日の語り部』と言う。私が伝えていくのだと思う」

■理由 デモをやったところで政治を動かせるわけじゃない。過剰に反応しているだけじゃないか。そう冷笑するもう一人の自分もいた。

思い出されたのは、大学の教授の言葉だった。

オオカミ少女になれ-。

「国が危機的な方向へ向かっている。そう気付いたら『おかしいよ!』『まずいよ!』と言いふらせばいい。実際、そうならなくてもいい」

そう。危ないと感じる自由、それを口にする自由が私たちにはある。

「友だちをデモに誘ったら、変な目で見られるんじゃないかと思ったけど、それは私が勝手につくっていた壁だった。思った以上に話を聞いてくれて、共感して行動を共にしてくれた」

暮れの衆院選で初めて選挙権を行使した。票を投じた候補者は落選した。声を上げているのはしょせん少数派で、やっぱり無駄じゃないのか。

「そうじゃない。私が票を入れた候補者は落ちたけど、誰に入れるか考えた時間に意味があった」

思索を重ね、出した答えがある。

「声を上げるということは自分自身が自由であり続けることそのもの。やめるということは私が自由を失うということ。自由を手放す選択肢はあり得ない」

一歩前に足を踏み出し、マイクを握る。視線が集まるのを感じる。スピーチはいつまでたっても苦手だ。

「でもそれは、まさに私が自由だという感触に他ならない」

絶望の未来を知り、そこから導かれるいまがある。

「明日への希望を語り続けたい。それは、私自身が自由であり続けてこそできることだから」

■ ■

戦後70年、岐路に立つこの国で声を上げ始めた若者たちがいる。12日に成人の日を迎える「ハタチの叫び」を聞く。

【神奈川新聞】


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