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がん患者の就活(下) 企業側の理解不可欠

社会 神奈川新聞  2015年01月05日 11:42

がん患者の声に耳を傾け就職をサポートする小沢さん =ハローワーク横浜
がん患者の声に耳を傾け就職をサポートする小沢さん =ハローワーク横浜

県庁にほど近い横浜市中区のハローワーク横浜。相談窓口が仕切りを隔てて並ぶフロアの一角に専用窓口が設けられている。デスクには「長期療養者職業相談窓口」と記された手作り表札が。「あまり目立つと利用者が気にするから」。スタッフの小沢美弘さん(68)が配慮を口にした。

小沢さんは2級キャリア・コンサルティング技能士の国家資格を持つ就職支援ナビゲーター。2013年5月に設けられたがん患者向けの相談窓口を担当する。

仕事と治療の両立ができる社会づくりを目指す国のモデル事業で、患者の体調や治療スケジュール、希望する仕事などについて聞き、要望に沿った職場を紹介するのが役目だ。横浜市立市民病院(同市保土ケ谷区)と県立がんセンター(同市旭区)に1カ月に2度足を運び、看護師の立ち会いで出張相談にも取り組む。

なるべく残業や営業ノルマなどがなく、ストレスが少ない職種や自宅から近い職場を紹介するようにしている。利用者には回復傾向の患者もいれば、末期の患者もいて、状況はさまざま。志望に沿わない場合もあるが、「丁寧に話し合い、納得する道を探している」。スタッフがその場限りで担当する通常の窓口とは違い、小沢さんが継続して担当するため、利用者の理解を深めることで適切なアドバイスができるという。

続く模索

昨年9月末までに52人が窓口を訪れ、支援を望む利用者33人をサポートした。半数近い14人が医療機関の受付事務や飲食店の調理業務、カフェのホール担当といった仕事に就いた。

それでも「担当者としては物足りない。目標は就職率100パーセント」と話す小沢さんは「この事業を把握している企業は少ない。がん患者も働けるということを知ってもらうため、地道に取り組んでいきたい」とさらに前を向く。

一方、ハローワーク横浜の上席指導官、土屋秀樹さん(42)はがん患者の就労支援の難しさを吐露する。「正直、どの会社ががん患者を積極的に採用しているのか分からない。そもそもそういう会社があるのかどうかも分からない」

がん患者の採用や支援制度をうたう会社を把握するのは簡単ではない。県内の各企業に支援事業を説明するチラシを配布し、ホームページでも知らせているが、これまで問い合わせはなく、各企業の理解度はつかめていないのが実情だ。土屋さんは「患者が働ける環境を整えている会社があれば情報として蓄積し、間口を広げたい。どうすれば効果的に周知できるのか」と頭を悩ませている。

患者への対応も模索が続く。「できれば看護師と就労支援の両方の資格を持つ人が適任だが、該当する人は少ない」と小沢さん。自身はがんについて専門的な知識はないといい、「利用者に『医療の知識はあるのか』と尋ねられ、返答に困ってしまうことがあった」と苦笑する。

土屋さんは「まだ実績があまりないので半信半疑の利用者もいる。だからこそ関係づくりが重要になる」と受け止める。「患者のこと、病気のことを理解することを心掛けている」と話す小沢さんも、横浜市立市民病院の看護師らと勉強会を行い、バッグに忍ばせている参考書を折々に開いては、スキルアップに腐心する日々だ。

生きがい

現状では専用窓口を訪れ、就職に至った患者は、回復傾向にあって体調が良好な人に偏っている。治療中で定期的に通院が必要だったり、抗がん剤の副作用に苦しんでいたりする患者が就職できるケースは少ない。小沢さんは「『入院して家族に迷惑を掛けたので、働いて元気な姿を見せたい』という人もいる。さまざまな価値観に応じた就労環境があるのが理想」と話す。

内閣府が13年1月に実施した「がん対策に関する世論調査」の結果によれば、がんの治療や検査で2週間に1回程度通院する必要がある場合、働き続けられる環境だと思うかと聞いたところ、「そう思わない」と回答した人が68・9%を占め、「そう思う」は26・1%にとどまった。

国のがん対策について、どういったことに力を入れてほしいと思うかとの問いには、「がんの早期発見(がん検診)」(67・2%)、「がん医療に関わる医療機関の整備(拠点病院の充実など)」(54・2%)に次いで「がんによって就労が困難になった際の相談・支援体制の整備」(50・0%)が挙がった。

小沢さんが訴える。

「がん患者になっても希望や目標を持つことで生き生きとした生活を送れる。それに応えてくれる企業が必要だ」

自身は定年後に資格を取得し、ハローワークに勤めるようになった。働くことを支える仕事-。都内の私立中高一貫校で事務職に就いていたころ、生徒たちにアドバイスしたことにその原点がある。不良の子が就職という人生の岐路に向き合い、自らの存在意義を見いだし、成長していく姿に目を見張った。

小沢さんは今、より困難な状況で就職がかなったがん患者から感謝の言葉を掛けてもらうことに「やりがいを感じる」。人の役に立ち、その手応えが得られてこその人生。がんとともに生きる時代、窓口を訪れる患者は「妥協せず、志望する仕事をしたいという強い思いを抱いている人が多い」。がん宣告で見失いかけた希望をそうして取り戻そうとする姿に、働くことの意味をあらためて見る思いがしている。

NPO法人「がん患者団体支援機構」などが09年に行ったアンケートでがんと診断された後の仕事の変化を尋ねたところ、「そのまま」は56%、「ほかの仕事」に変わったのは10%、「無職になった」は29%に上った。

【神奈川新聞】


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