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刻む2014<7>箱根登山鉄道 期待大きな新型車両 小田原支局・草山歩

箱根登山鉄道 神奈川新聞  2014年12月27日 09:52

デビュー当日のアレグラ号=11月1日、強羅駅
デビュー当日のアレグラ号=11月1日、強羅駅

天下の険を走る箱根登山鉄道の25年ぶりの新型車両である3000形「アレグラ号」が11月1日デビューした。初日の出発セレモニーでは強羅駅に多くの地元関係者や鉄道ファンが詰めかけ、その真新しくきらびやかな車両に魅了された。山口昇士箱根町長も「登山鉄道に求められている役割は大きい」と期待を寄せていた。

10月、異動で箱根担当記者となった。鉄道に特段詳しいわけでもなく、登山鉄道について事前に持ち合わせていた知識といえば「何度も折り返しながら急な山肌を走る赤い電車」という程度。赴任早々に出合った新型車両を追ううち、裏方として地道に汗を流す社員や、新型車両に期待する乗客らの思いに胸が熱くなった。

■概念破る発想

「娘を嫁がせるような感じでした。自ら育てたかわいい子が独り立ちしたな、と」。元鉄道部課長代理の板垣匡俊さん(38)=現・小田急電鉄喜多見検車区長=はアレグラ号への愛着をそう表現した。小田急線の通勤車両設計に携わった経験があるため、2010年初夏から14年11月まで小田急電鉄から箱根登山鉄道に出向。今回の新型車両開発では、技術面で中心的な役割を担っていた。

箱根登山鉄道の車両は急勾配や急カーブで小回りが利くよう一般的な通勤車両の70%ほどの長さに抑えられており、「沿線の景色を楽しんでもらいたい」との思いをかなえるには限られた空間をいかに広く見せ、開放感を与えるかが鍵だった。

そのため、社内のプロジェクトチームでコンセプトを定めてからは建築家に車両デザインを依頼。「景色がよく見える側に展望スペースを増やしたい」という要望から左右非対称の座席配置に踏み切るなど、従来の「電車」の概念にとらわれない発想を心掛けたという。

■資金面で難航も

車両の開発を求める声は10年以上前から上がっていた。鉄道部で運転・車両担当を統括する課長の大谷龍二さん(50)は「アレグラ号は待望の車両だった」と振り返る。

同社では、半世紀以上前に製造された木造車両100形が現役運行され人気を博しているが、新しい車両の導入は長らく途絶えていた。観光シーズンには所有している客車を最大限使用しても車両が不足。ピーク時はホームの客が電車に乗り切れず、1時間近い待ち時間が発生する事態も発生していた。

車両開発の機運はあったが、レール圧着ブレーキや散水装置など特殊な装備や技術が求められる登山鉄道の製造には一般的な通勤車両の3倍ほどのコストがかかるため、他業態の赤字穴埋めや老朽化した設備の修繕などが行われるたび、約9億円ともいう開発費用を捻出できなくなった。駅舎の改修なども一段落つき、資金面で余裕が見込めるようになった09年に開発が決定、所有車両数21両、社員数300人弱の小規模なローカル鉄道会社の一大プロジェクトが10年に始動した。だが開発中も東日本大震災により観光客が激減した影響で一時凍結状態となり、当初13年4月末の予定だったデビューは14年11月までずれ込んだ。

■車いすも景色満喫

アレグラ号は継ぎ目のない大きな窓や1両あたり4畳分ほど確保された広い展望ゾーンが特徴だ。

10月半ばに行われた報道陣向けの試乗会では、「いま足元に見える植物がアジサイの枝。梅雨になれば花が下まで見えます」「急勾配なので、フロントガラスからトンネルの出口がうんと下に見えます」「この先は出山の鉄橋。展望ゾーンの腰掛けから早川渓谷の絶景が見えます」との説明。沢のせせらぎや秋風を感じながら夢中で車窓を見やるうち、電車は強羅-箱根湯本間を走り抜けていた。

足元まで視界が広がる展望ゾーンに立ったとき、頭をよぎったのは車いす利用者のことだった。これまで車いすの友人と一緒に電車で出掛けることはあっても、乗車するのはもっぱらドア付近で、景色を話題にすることがほとんどなかったからだ。

「景色を満喫することができました」。車いすの“乗り鉄(乗車目的の鉄道ファン)”で、東京頸髄(けいずい)損傷者連絡会事務局長の麩澤孝さん(49)は車両デビュー間もない11月7日、新型車両目当てで東京都練馬区から箱根を訪れた。

従来の車両ではドア付近に乗車するしかなく、混雑時は駅に着くたび乗降客に気を使う必要があったといい、今回の展望スペース新設に「他の乗客の動きを気にする必要がなく、ゆったり車窓を眺められた」と満足していた。

■新たな箱根の顔に

12月中旬、入生田検車区(小田原市入生田)を訪ねた。社員5人がアレグラ号を清掃している。窓の汚れを落とし、さらに乾布で入念に磨く。ガラスの面積が従来より約30%広くなったため、背伸びして懸命に手を伸ばす若手の姿も。「確かに前より手間は掛かります。でも、少しでもきれいな窓から箱根の景色を楽しんでもらいたいですからね」。検車区長の伊與田透さん(54)が少しはにかんだ笑顔を見せた。小田原市内の工業高校を卒業してから約27年間、車両整備に携わってきた検車区助役の瀬戸政幸さん(46)も「電車は、近所の高齢者や親子連れにも好評なんですよ」と目を細める。

車両や線路の先で待つ町や人々を思いやる。その姿勢こそが、鉄道ファンのみならず多くの人々に愛されるゆえんだと感じた。

また近年、箱根は国際観光地としての存在感を増している。箱根町の調査によると、2013年の外国人宿泊客数は約16万8千人(前年比約81%増)。小田急電鉄が新宿駅と小田原駅に設置している案内所「外国人旅行センター」の利用者数も、03年の約2万人から13年の約12万9千人へと右肩上がりで推移する。

アレグラ号の名称は同社と「姉妹鉄道」提携をしているレーティッシュ鉄道があるスイスの方言で、あいさつの言葉。20年の東京五輪・パラリンピックに向けて、今後さらに増えることが期待される外国人観光客をも「箱根の顔」として迎えてくれるだろう。

【神奈川新聞】


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