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黄信号の地域産科 秦野赤十字病院その後(下)周辺へしわ寄せ 救急態勢募る危機感

社会 神奈川新聞  2014年12月27日 03:00

産科継続を求める要望書を高木繁治院長(右)に手渡す古谷市長=6月、秦野赤十字病院
産科継続を求める要望書を高木繁治院長(右)に手渡す古谷市長=6月、秦野赤十字病院

来年度から分娩(ぶんべん)の休止が正式決定した秦野赤十字病院(秦野市立野台)。年間700件のお産の場が地域から失われるのは痛手だが、影響はそれだけにとどまらない。

まず大きいのが周辺病院への「しわ寄せ」だ。近隣の総合病院としては伊勢原協同、東海大学(ともに伊勢原市)、平塚市民(平塚市)、小田原市立(小田原市)などがあるが、産科医不足の現状はどこも同じ。秦野・伊勢原・中郡産婦人科医会の平井規之会長は「民間も含め、現状で手いっぱいのところがほとんど」と語る。

伊勢原協同病院は8月に移転し新病院を開院させ、産科医療を充実させた。許容件数にも余裕があったため、現状では秦野赤十字病院で担っていた分娩の受け皿となっているとみられる。

しかし平井会長は「すでに協同病院でも悲鳴が上がっている」という。現在は東海大を除くどの病院も外部から産科医の派遣を受けているが、しわ寄せで激務に拍車が掛かれば労働環境が悪化するのは明らか。「ドミノ倒しのように次の引き揚げを招きかねない」と平井会長は指摘する。

妊婦の救急治療態勢も危ぶまれている。同地域では最も危険度の高い患者が搬送される「3次救急」を東海大病院が、次の「2次救急」を秦野赤十字病院が担ってきた。同病院の産科の弱体化は、地域全体の救急態勢の危機につながる。同産科医会では今後、救急態勢の対応を協議する予定という。

■補助金で市も苦悩

秦野市が毎年1億5千万円の補助金を出して機能を期待する「市立病院」が招いた事態に、市議会12月定例会では市議から「補助金の減額を検討すべき」との声が上がった。

しかし、同病院にとって産科は「収益全体の大きな柱」。分娩休止による減収に加え、補助金までカットされては経営自体を揺るがしかねない。同病院は「減額となれば厳しい状況になる」と話す。

市としても、経営難により同病院が弱体化すれば本末転倒となる。市は補助金続行の条件を「産科の継続」としたが、分娩が行われなくても産科自体が残ったことで「継続」と見なす“甘め”の判断を下す見込みだ。

市議会で古谷義幸市長は「多額の財政支援をする立場から、これまで以上に経営に参画できないか要請する」と答弁した。病院側は「他の赤十字病院でもそういった前例はない」としながらも、「市が求める経営参画がどの程度のものか分からないが、まずは協議に応じたい」としている。

■復活のめど立たず

市は今後、同病院との協定の見直しを検討する。今回の混乱を反省して情報共有と関係強化を目的とし、病院側も「要望があれば応じていく」としている。

だが分娩の復活のめどが立たない状況に変わりはない。市独自の産科医優遇のための財政支援や、県内の病院にとどまらず産科医を確保していく施策を県とともに検討していくことなど、市側にも病院側にも、既存のあり方に縛られない柔軟な対策が求められる。

平井会長は「万が一のときも一人の妊婦、一人の子どもの命が助かるよう、最善を尽くせる態勢を地域全体で整えるのが周産期医療の責務だが、このままでは今まで助かった命さえ救えないかもしれない」と危機感を募らせる。秦野市は「子育てのしやすい社会づくり」を掲げる。その根っこを細らせたままでは、枝葉の広がりは期待できない。

【神奈川新聞】


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