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黄信号の地域産科 秦野赤十字病院その後(上) 背景に医師不足 分娩休止が正式決定

社会 神奈川新聞  2014年12月26日 11:30

来年度以降の分娩休止を決定した秦野赤十字病院=秦野市立野台
来年度以降の分娩休止を決定した秦野赤十字病院=秦野市立野台

秦野赤十字病院(秦野市立野台)に産婦人科医を派遣してきた昭和大学(東京都品川区)が本年度いっぱいでの医師引き揚げを通告してきた問題で、来年度以降の分娩(ぶんべん)休止が最終決定されたことが25日までに分かった。妊婦検診などは継続するが年間約700件のお産を担ってきた同病院の産科は形骸化することとなり、地域の産科医療は黄信号がともったままだ。

同病院に毎年1億5千万円の補助を続け「市立病院」としての役割を期待する秦野市は、同大が5月に産科医引き揚げを通告して以降、県や同病院を通じ翻意を求めてきた。県が窓口となって行った交渉で当初は完全撤退を決めていた同大側が、3人の常勤医のうち1人を残すという譲歩をしたことで決着した。

分娩は複数の産科医がシフト制で受け入れ態勢を整える必要があるため、今後の継続は不可能に。周辺の産科病院を紹介する形になる。

引き揚げの背景には慢性的な産科医不足がある。同大は約40年前から同病院に産科医を派遣。近年は3人の常勤医に非常勤医が加わり、年間700件程度の分娩を担ってきた。産科医が担う分娩は1人につき年間100件が最大とされるが、単純計算で同病院は倍以上を取り上げる“超激務”が負担となっていた。

さらに大学側の事情もあった。同大は3月に東京都江東区に総合病院を開院。「我々が経営する病院でも産科医が不足する状態での派遣継続は不可能」との見通しから、昨年4月に「待遇改善がなければ引き揚げる」と秦野赤十字病院側に事前通告していた。

■危機意識欠如 事前通告から“最終通告”まで約1年間。同病院の運営を規定する日本赤十字社法などにより給与増額などは難しく、待遇改善の具体策は講じられなかった。対応策の協議もなく、市への報告は「事後報告」の形となった。

かつて同病院に勤め、現在は秦野・伊勢原・中郡産婦人科医会会長である平井規之医師は、「病院側は結局なんの手だても講じず、最低でも時間稼ぎをするべきなのに、引き揚げをあっさり受け入れてしまった。市側も病院に任せきりで、アンテナを張る努力をしてこなかった」と危機意識の低さを指摘する。

正式通告を受けて市や病院側が大学側に再考を求めてもすでに遅く、相談を受けた県も、県内で医学部を持つ横浜市立大学病院など4病院にも派遣の打診をしたが、いずれも不調に終わった。

■被害者は市民 県内では2005年に県立足柄上病院(松田町)でも派遣産科医の引き揚げがあり、当時同病院が担っていた年間約600件の分娩は現在3分の1程度に。秦野赤十字病院はその減少の受け皿となってきた側面もあった。地域産科の現場が先細りしつつあるのは、今に始まった話ではない。

平井医師はこう語る。「産科の医師不足は医療業界全体の常識。病院側の読みも甘いし、市立病院の役割を期待しながら、隣の足柄上病院で同じことが起きたのに『赤十字病院の実情を何も知らなかった』という市も無責任。結局、一番損害を被るのは市民だ」

【神奈川新聞】


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