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刻む2014<3>神奈川フィル 地域に支えられ進化 文化部・中島小百合

カルチャー 神奈川新聞  2014年12月23日 11:00

年末を飾る神奈川フィルハーモニー管弦楽団によるベートーベン“第9”。重厚な演奏に来場者から万雷の拍手が送られた=19日、県民ホール
年末を飾る神奈川フィルハーモニー管弦楽団によるベートーベン“第9”。重厚な演奏に来場者から万雷の拍手が送られた=19日、県民ホール

景気低迷と公的助成金の削減などで財政難にあえぐ日本のオーケストラ。多くの楽団と同様、同じ状況に苦しんだ神奈川フィルハーモニー管弦楽団だが、官民を巻き込み巨額の負債を解消することで楽団解散の危機を乗り越え、4月から公益財団法人として踏み出した。経緯を振り返り“奇跡の楽団”と呼ぶ人もいる。既存のシステムでは楽団が立ちゆかない状況で地域、企業、行政が一体となり楽団を支える好例を示した同楽団は、地方オーケストラのこれからのあり方をも指し示した。

■「基金」設立

「消える寸前の危機」。2011年2月、約3億円の債務超過を抱えた神奈川フィルの窮状を受け、当時の松沢成文知事は支援を呼び掛けた。08年の国の公益法人制度改革に伴い、13年11月末までに債務を解消しなければ公益法人の認定が受けられない状況にあった。

認められなければ税制優遇が受けられず、楽団は解散を余儀なくされる。法人認定の条件には、「純資産300万円の保持」という項目まである。「一体、どうなるんだろう」-。楽団の行く末は、全く不透明に思えた。

楽団が窮状に陥った理由には、多くの要因が指摘される。長年にわたる事務局の運営機能の停滞と空洞化、採算を度外視したコンサート運営、楽団員の怠慢-。30年にわたって累積した債務超過は一時、5億円にも膨らみ「放漫経営」と言われても仕方がない部分は多々あった。民間企業であれば、倒産してもおかしくなかったのではないか。

楽団のトップである専務理事も退職した県職員が担い、数年ごとに代わることを繰り返す、ある意味「無責任」体制が続いていた。このため改革の切り札として、民間から大石修治専務理事(当時常務理事)が招かれた。大石専務理事は人件費の削減に努める一方、人気指揮者の金聖響を常任指揮者に迎えるなど定期会員の獲得を図った。結果、年間の公演数は当初の150回から小編成を含め280にまで大幅増。収益が確保できた。

それでも債務解消には程遠い。楽団の奮闘を受け、県がけん引役となり、知事を団長とする「がんばれ!神奈フィル 応援団」を旗揚げ。官民一体の寄付金制度「ブルーダル基金」を設けた。

基金では、個人が寄せた寄付と同額を県と横浜市などの市町村が助成する「マッチング方式」が採用された。楽団運営での導入は全国初で、寄付になじみが薄い日本でどこまで成果が得られるか未知数だった。しかし、ふたを開けてみると個人からの寄付金は1億2千万円超。決して経済状況が好転しているわけではなく、正直、ここまで寄付が伸びたことには驚いた。

■地元に貢献

世界的不況による深刻な財政難は日本だけでなく世界のオーケストラ界にもまん延する。アメリカの名門フィラデルフィア管弦楽団でさえ倒産の苦境に立たされた。まして諸外国に比べて文化への支出が少ないとされる日本では、状況はとりわけ厳しさを増す。

オーケストラの生い立ちは千差万別だ。NHK交響楽団や読売日本交響楽団のようにスポンサーを持ち経営基盤が安定している楽団はほんの一握りで、財政基盤が脆弱(ぜいじゃく)な地方オーケストラは国や自治体の補助金が生命線だ。だからこそ、地域社会に寄与する団体であることが、地方オーケストラには求められる。

楽団はこの間、地域貢献を強く意識した。高齢者施設でのボランティア演奏会や次世代に向けた子ども向けのコンサートには、特に力を入れた。学校などでの公演を重ね、年間公演数の3分の1を占めるまでになった。これは、思い切った数字といえるだろう。

さらに全国各地にも出向き、演奏した。こうした地道な活動は、新たなファンの獲得にもつながった。楽団員にも、これらの活動を通して「地元の楽団」という意識が根付いていったように思う。

■新たな挑戦

一方で、オーケストラが生き残る上で、本分である実力の向上は、絶対条件だ。

「日本のオーケストラは、互いに競い合い世界有数のレベルにまで達した」と、日本オーケストラ連盟で長く常務理事を務めた支倉二二男さんは話す。演奏技術を磨くのはもちろん、プログラミングを工夫し、臆さず音楽の新しい可能性に挑むことで実力は増していく。

神奈川フィルも地道な努力の結果、音楽雑誌「音楽の友」の日本の楽団人気格付けで、今年初めてトップ10入りした。年間収入の約7億9千万円のうち、依頼公演やチケット収入などの事業収入が約6割を占めるなど、国内外のオーケストラがひしめく首都圏で奮闘している。

今シーズンからは、常任指揮者に国内最年少となる29歳の川瀬賢太郎を迎えた。第300回記念定期公演ではマーラーの「交響曲第2番『復活』」で熱のこもったタクトを振り、“新生神奈川フィル”を印象づけた。その楽曲解釈はきわめて個性的、と好評を得た。

さらに、かながわアートホール(横浜市保土ケ谷区)の指定管理者に名乗りを上げるなど、楽団としてさまざまな模索も続けている。

来年には、楽団が創立45周年を迎える。19日に開かれた今年最後の定期演奏会では、聴力を失ったベートーベンが試練を乗り越え生み出した歓喜の調べである「交響曲第9番『合唱付』」が同楽団特別客演指揮者の小泉和裕によって濃厚に演奏された。熱狂的な演奏はスタンディングオベーションで迎えられ、聴衆の楽団への温かな好意、思いが感じられた。

地域との絆を強めたからこそ、神奈川フィルは存続できた。「地域の公共財産」として同楽団を存続したいという思いがあったからこそ現在がある、ということを同楽団には忘れないでいてほしい。さらに精進を重ね、より地元が誇れる楽団に育っていってくれれば、これほどうれしいことはない。

【神奈川新聞】


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