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この国は絶望の中に
安倍政治を問う〈15〉「ハゲタカ」「売国」作家・真山仁さん

政治行政 神奈川新聞  2014年12月19日 13:00

まやま・じん 1962年大阪府生まれ。87年同志社大卒、読売新聞中部支社入社。90年退社。フリーライターを経て2004年企業買収を描いた「ハゲタカ」で作家デビュー。12年原発事故と政権をテーマにした「コラプティオ」で直木賞候補。
まやま・じん 1962年大阪府生まれ。87年同志社大卒、読売新聞中部支社入社。90年退社。フリーライターを経て2004年企業買収を描いた「ハゲタカ」で作家デビュー。12年原発事故と政権をテーマにした「コラプティオ」で直木賞候補。

 安倍晋三首相が解散総選挙を打ち出した時に湧いた懐疑の念は投開票を経て確たるものになった。

 「何のための解散だったのか、やはり分からない。要するに無意味な選挙だったということ。結果がそう物語っている」自民党の議席はほぼ変わらず、与野党の構図もそのまま。戦後最低の投票率で有権者が何らかの決断を下したとも考えられない。

 政治、経済、外交を横断的に取材し、壮大な世界観を描く手法でベストセラー作品を世に送り出す真山仁さん(52)は「安倍政権のモラトリアム(猶予期間)のための選挙にすぎなかった」とみる。

 結果以上に真山さんが酷評するのは野党、それも民主党の不甲斐なさだ。「こういうときこそ、民主党は第3の矢である成長戦略について具体案を出せなければ存在意義がない」。だが、まともな議論ができる体制を整えられず、全国の選挙区に政権交代可能な数の候補者を出すことさえできなかった。それゆえ「無意味な選挙」が決定付けられた。

 「投票結果やマスコミの調査をみると『安倍政権は嫌だが、民主には政権を取らせたくない』という有権者の意思が表れている」。過去の失政、そして選択肢となり得ない野党第1党-。二つの意味で民主党の責任は重たい、と断罪する。

浅薄


 真山さんが安倍政権の継続に感じているのは、危機であり嫌悪であり、恐怖だ。

 安倍首相は侵略戦争と植民地支配の被害国である中国、韓国の人々の心情を逆なでする歴史認識を披歴し、憲法改正への意欲を隠そうとしない。「安倍首相を独裁者になぞらえる声もあるが、まったくそんなことはない。安倍首相はそういう言動を格好いいと思っているだけ」。だがそれは、わずかなアクシデントでより深刻な結果を生みかねない。本人がそのことを理解していないことに事の重大性がある。

 安直でその場しのぎ。数年先の未来より明日の人気を求める-。真山さんは、特定秘密保護法の強行採決に安倍政権の本質的問題をみる。「戦前の治安維持法も当初は選挙妨害を抑止するために作られたが、やがて軍部が強権を手に入れる過程で法改正を繰り返し、政府批判の言論を弾圧するという悪法となった」

 浅薄な安倍首相の振る舞いがくさびとなり、本人も意図していない方向へと突き進む。危機感を覚えるのはその短絡さだ。

危機


 危機的状況は安倍首相が総選挙で信任を得たと胸を張るアベノミクスにもみることができる。「景気が回復するんじゃないかというムードがここまで継続しているのは奇跡的。何しろ根拠がない」

 日銀は国が発行した国債を無制限に買い取っている。金融マーケットに大量のカネが流れ込み、円安株高に振れている。しかしこれはいずれ返済しなければならない国の借金だ。

 「自分の足を食べながら生き永らえているようなもの。到底長くは続けられない劇薬だと誰もが分かっている。単なる金融操作にすぎない。国も企業も個人も同じだが、金融操作で生まれたカネはあぶくのようにして消える」

 つまり日本経済が1990年代から繰り返し経験してきたバブル。「だからいま、みんなして次の不幸に備え必死でカネを貯めている。だから消費は拡大しない。このままいけば安倍政権は国がボロボロになるまで金融操作を続けかねない」

 アベノミクスにはもう打つ手がないからだ。「安倍首相は、あした成功したい人。1~2年かけた地道な努力で成長産業を興すような時間のかかることはしない。だから頭の中には株価と為替しかない」

確信


 だが政権は安倍首相に委ねられた。他に選択肢がないこともまた現実だ。この国はどこへ向かおうとしているのか。「可能性があるとすればやはり第3の矢だ。中身のある成長戦略が描けるかどうか」

 成長産業を絞り込んで国を挙げて本気で取り組めば、危機を脱する方策の一つになりうる、と真山さんはみる。「選択と集中。農業でも電気自動車でも、世界一になると決め、予算、人材、外交、貿易すべての側面から徹底的に支援すれば、その成長が活路になる」。だがそれは同時に、多くを切り捨てることを意味する。「つまり嫌われるということ。好かれることを追求している安倍首相にそれができるか」

 恐らくはできないだろう、と一呼吸置いて続ける。「ここまできたら、できるだけ早く円安株高バブルは弾けてしまった方がよい」。そこでようやく政権は正念場を迎える。危機的状況を正確に把握し、腰を据え、成長産業に狙いを定めて腹をくくれるか、という政治の力量が問われる。

 真山さんは当初、安倍首相と菅義偉官房長官について「パフォーマンス好きの首相と、手綱を緩めない菅官房長官のペアはよくできた組み合わせだと思った」という。それも安倍首相の言動に歯止めの利かない様子に危うさを覚え、行く末を案じるようになったという。

 特定秘密保護法の不条理にも言及した小説「売国」(文芸春秋)の中で描かれている日本の首相は安倍首相がモデルと思われる。日本のロケット技術を米国へ売却しようとする計画を止めようとする人物について官房長官が苦々しく心中を吐露する。

 〈一刻も早く叩き潰さなければ。派手な結果が大好きな総理が、本気で「もっと宇宙開発に予算を費やす」などと言い出す前に〉

 物語は、宇宙産業を日本独自の成長産業に押し上げようとするもくろみに暗雲がたれこめ、エンディングを迎える。刊行から2カ月。意味を見いだせない総選挙を目の当たりにし、真山さんの思いは確信に変わった。「この国は今まさに、絶望のまっただ中にある」

まやま・じん 1962年大阪府生まれ。87年同志社大卒、読売新聞中部支社入社。90年退社。フリーライターを経て2004年企業買収を描いた「ハゲタカ」で作家デビュー。12年原発事故と政権をテーマにした「コラプティオ」で直木賞候補。


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